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9話 wayward-12

 ヒューゴがもたらした情報は、警察からのものだった。以前は、何かあれば彼の知り合いの警部ダニエルから内部情報をリークという形で得ていたが、スワットが発足してからは公式に情報を共有することになっている。もちろん対外的には秘密裏に行われているが。


 内容は、昨日のウィッチの一人であるオリバーがホテルで働いた悪事に関する詳細な情報だった。彼はある特定の人物を狙った節があるらしい。被害者の事情聴取や被害届から確認できたことだ。持ち物から、宝石一点だけが盗まれた。


「ただの宝石じゃあないだろう。魔法のジェムに違いない」


 どこからか情報を掴み、何らかの魔法の効果を持ったジェムを奪った。オリバーの行った行為はそういうことだ。ヒューゴは部屋にある大画面に、フィーリクスの端末が録画したオリバーの顔画像を大きく表示し、そう結論付ける。


「我々MBIも、ジェムの所在が分かれば手に入れるために動く。もちろん合法的な手段でな。ウィッチどもは、そのあたりのことは構わないらしい」


 MBIの表向きの業務内容に、情報収集がある。それは飾りではなく、きちんと機能しているものだ。情報収集部門の話によれば、古くから伝わる宝石の中にジェムが発見されるケースが見られ、それらは遺産という形で人から人へ継承されたり、または売買され持ち主を転々としていることが多いという。


 更に追加情報もあった。過去に、特にここ最近で似た犯行が数件、立て続けに行われていた。事件ファイルを片っ端から当たって判明したらしい。ただウィッチの仕業という線は濃厚だろうと、その場の誰もが囁き合った。


「後で詳しく話すが、オリバーの登場のおかげで、それまで見逃されていた事例が明らかになった、というわけだ」

「誰がそんなめんどくさいこと調べたの?」


 挙手をして、許可を得る前にフェリシティによる質問が飛ぶ。


「いい質問だフェリシティ。ファイルの閲覧自体は警察職員なら誰でも可能だ。が、何かしらの事件をウィッチと結び付けて考えようとするのは、ごく一部だ」

「っていうことは」

「私達だ」


 突然の訪問者があった。彼らはヒューゴが説明を終え、話のきりのいいところが来るまで待っていたのだろうか。見れば捜査課の入り口に数名の人物が並んでいる。フェリシティが手をあげて叫んだ。


「ワォ! 久しぶりね!」


 スワットの面々だった。フィーリクスが前回彼らに会ったのは、廃墟でのゴースト退治の時だったと思い出す。それから一週間ほどが経っている。久しぶりかどうかはフェリシティの主観によるところだ。フィーリクスは彼女の顔を見る。彼女は嬉しそうに微笑んでいる。『プソグラフ』の一件以来、隊員のクライヴとソーヤーの二名と特に仲がいい。彼らと手を振り合い、何か合図を送っている。


「情報提供の見返り、というわけではないが、我々は君達MBIエージェントのチームと、合同でウィッチを追うことになっている。互いに力を尽くそう」


 隊長のリュカが挨拶をする。副隊長や隊員達も合わせ、総勢五名揃っている。小さな部隊だが、侮っていい相手でないことをフィーリクス達は身をもって知っている。ヒューゴがリュカに応じて話し始めた。


「スワットの助力に感謝する。治安維持は我々にとって共通の義務だ。モンスターはもちろんのこと、ウィッチへの対策においても、君達の力が必要とされる。今回はスワットも我々のように二手に分かれ、二人のウィッチの逮捕に尽力することになっている。チーム分けに関しては隊長のリュカに発表してもらう。おい聞いてるのかフェリシティ」

「きっ、聞いてるよヒューゴ!」


 まだ何かしらやりとりをしていたフェリシティが目を付けられたようだ。彼女は首をすくめているが、小さく舌を出しているあたり、実に彼女らしいとフィーリクスは考える。


「ソーヤーとクライヴもだ」

「はい隊長」

「ちゃんと聞いてるって」


 スワット隊員二人もリュカから注意を受けている。結局のところ三人ともあまり反省している様子はないが、よくあることだ。ヒューゴもリュカもそれ以上言葉はなく、部下を睨みつけるだけに終わった。


「ミアというウィッチはクライヴとリリアンと私が、オリバーは副隊長のサラとソーヤーが担当する。我々としては今回がウィッチとの初遭遇になる。サポートをメインとして任務にあたらせてもらう」

「了解だ」


 ヒューゴとリュカは互いに頷き合い、がっちりと握手を交わす。表向きは万全の調子で協力体制が整っているように見える。が、実は違う。二人の視線がぶつかり合う。


「本当にうまく力になってくれるものと信じているぞ」

「君達のバックアップは任せてくれ。『万が一』何かが起きても、対処できるように準備しているとも」


 ヒューゴの念押しに、リュカは万が一の部分を強調して返答する。


「それはどういう意味だろうな。我々が失敗するとでも言いたげだ」

「まさか。だから万が一だと言っている。それとも失敗しそうな者がそちらにいるのかな?」


 二人の様子を、フレンドリーだなどと言える者は存在しないだろう。下まぶたを一度だけ痙攣させ、ヒューゴが唸る。二人の握手に込める力が増しているようで、両人の腕が僅かに震えている。


「いるわけがない。うちのエージェント達は皆優秀だからな。君らの出番などないかもしれんぞ」


 リュカが眉を捻じれさせながら、彼に接近する。ヒューゴも同じく接近し、額をぶつけそうな距離で睨み合う。


「そうなればうちの経費削減になるな。助かるね」

「実績を積ませてやれずに悪いと思っている」


 そこまで言って二人は握手をやめて一歩引いた。お互いに痛かったのか手を振ったりさすったりしているが、ヒューゴのそのような場面を見るのは珍しいものだとフィーリクスは見入っていた。周りのエージェント達も同様だったようで、静かにことの成り行きを見つめている。彼と、リュカ達のバックにいる市長との確執の一端を垣間見た気がしていた。各方向からの視線に気付いてか彼が周りを見回すと、皆見物モードから仕事モードに素早く切り替える。


「さあ動くぞ、通常任務の者は通常ルーティーンだ。パトロールに行く奴は早くしろ。ウィッチ対策チームは集まれ」


 皆が慌ただしく動き出す。フィーリクスはまたもやプレゼントをフェリシティに渡しそびれていたが、ヒューゴのかけ声に従い、エイジやキーネンほかチームメンバーと固まる。フェリシティはニコやディリオン達と集まっていた。


「それで、具体的に何するんだろう?」

「さあ、何だろ」


 エイジが小声で尋ねてくる。フィーリクスもはっきりとした作戦は聞いていない。


「どこでウィッチがジェムの存在を嗅ぎつけるのか。その方法は分からんが、こちらでも把握している情報がいくつかある」


 ヒューゴが言うには、相当古くからジェム所有者のリストがあり、ジェムが誰かに受け継がれる度、または新たに発見される度に更新されているそうだ。発見する場合の手順としては、MBI職員が何か情報が入り次第、一般の蒐集家を装って宝石所有者の元を訪れる。ぜひ拝見したい、などと言いくるめて密かにジェムかどうかの鑑定を行う。ジェムであれば売買交渉を持ちかけ回収しているが、断られる場合もあり、その場合は所有者リストに載せられる。博物館や宝石商、個人など所有者は様々だが、定期的に連絡を取り譲渡の意志があるかどうか確認をしている。


 最新リストと警察の事件ファイルとの照合で、そのうちの二件がウィッチにしてやられたことが判明していた。


「舐めた真似をしてくれた奴には、報いを受けさせる」

「つまり、今分かってる範囲で網を張る訳だね」

「フィーリクス、正解だ。私のセリフの締めを盗るのは気に食わんがな」

「へっ、まどろっこしいこったな」


 ディリオンが腕を組んで片眉を上げている。茶々入れをしたのは彼だ。エイジがそれに反論を試みる。


「そうは言っても、他に特にいい手があるわけじゃないよ」

「確かに闇雲に探すよりは、この案に乗った方が遙かに可能性があると考えられる」


 キーネンもフィーリクスやエイジ側だ。もっともらしく頷いている。その彼にさらに反応を示したのがフェリシティだった。片手は腰にやり、もう片手は手のひらを胸の高さで下に向けひらひらと振っている。


「でも『待ち』には変わりない。うざいけどディリオンに一票」

「なんだそりゃ」


 ディリオンは彼女の答えた内容に不満があるらしい。閉じた口を横に引き伸ばす。


 こういった様々なコメントを述べるエージェント達を見ていい気分にはなれなかったらしい。ヒューゴは軽く咳払いをすると場を静めた。


「私は君達の意見を聞いてるんじゃない。これは決定事項だ」

「あー、一ついいか?」

「何だ? えーと、君はクライヴだったか」


 クライヴが、場が静かになったのを利用するようだ。彼はリュカの発表通り、フェリシティ達ミア対策チームのそばにいる。


「イエス。ウィッチどもを見つけるのはいいとして、その方法って戦力を分散させることになるんだよな? 所有者ごとに各員配置とかって感じによ。それっていいのか?」


 それを聞いて、フィーリクスは猛烈に嫌な予感を覚えた。現れたウィッチに対処するため、散り散りになったエージェントとスワットが素早く合流する方法とは。


「問題ない。各員が配置につき、誰か当たりが出た場合。その者はポータルの座標を皆に伝えろ。皆はそれを元にポータルを開き、それをくぐって集まればいいだけだ」


 フィーリクスの最も聞きたくない答えが返ってきた。


「そういえばそんなものがあったね。……嘘だと言って」


 途中でポータルが途切れて、体の中心線で前後に真っ二つなどということになりはしないか。フィーリクスの脳内に恐ろしい映像が浮かび上がる。


「ゾーイを信じろ」

「そんな……、無理だ!」

「お終いよ!」

「チーム入りするんじゃなかった」


 ラジーブが、ニコが、ディリオンがそれぞれ嘆く。驚いたのは事情を知らないクライヴ始めスワット達だ。悲痛な面持ちのMBIエージェントを見て、少なからず困惑気味にしている。


「え? いやちょっと待てお前ら。何騒いでやがるんだ?」


 訳の分からないといった様子のクライヴ。


「君達の過去に一体何が!?」

「ただ事じゃない雰囲気」


 驚愕の表情を浮かべるリュカとソーヤー。サラとリリアンの女性二人も見つめ合い、表現に困っているように見受けられた。彼らにMBIの内情を詳しく話してもいいものかどうか、フィーリクスには判断がつかなかったため黙っていることにした。そのあたりを取り仕切るのは、やはりヒューゴだからだ。


「別に何もない。彼らが何か勘違いしているだけだ。作戦は予定通り実行する。これからその概要を述べる」


 ある意味清々しいほどに彼らしいやり方だとフィーリクスは感心していた。何事もなかったようにいつもの無気力に近い、覇気の薄い表情で、彼は言い切った。そして事を進めていったのだ。


 作戦内容としては、スワットは一人が誰かしらのエージェント一人と共に行動すること。各地点でスナイプできる位置取りをし、監視すること。ウィッチが現れた場合、速やかに他の地点のエージェント達に連絡を取り、集合すること。作戦中は慎重を期してことに当たること。その他現地においての人員配備など。以上の事柄が挙げられた。


「今からジェム保有者のデータを皆に配る。担当を伝えていくから、各自準備でき次第出発してくれ」


 そういうことで、チームが動き出した。

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