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9話 wayward-11

* * *


 アーウィンが去り、オリバーが再び現れる気配もない。一先ず危機が去ったと判断し、一行は安寧を取り戻した。フィーリクスはとにかく情報を整理したかった。アーウィンは何故ここにいたのか。フェリシティは何をしようとしてたのか。後者については予想は付いていた。


「フェリシティ、とにかく無事で安心したよ」

「フィーリクス、ニコ」


 ニコがフェリシティに近寄ると、優しく背に腕を回しハグをする。フェリシティも彼女の背中に腕を回している。力加減はしっかりとできているようで、ニコが苦しがったりはしていない。二人とも目を瞑り、心を落ち着け合う。しばしの間そうしていた。


「フェリシティ、あなたがアーウィンに遭遇したって聞いて、どれだけ心配したか」

「ニコ、ごめんね」

「俺は?」


 二人がハグをやめる。フェリシティがフィーリクスの方を向く。彼女の顔に浮かんだ表情を見て驚いた。眉根を寄せたそれは明確に怒りの様相だ。


「何で怒ってるのさ。ニコには優しいのに」

「ニコはあたしが心配で来てくれた」

「それは俺も……」

「あんたは違う。あんたはあたしの邪魔をしに来た」


 何を訳の分からないことを。そう言おうとしたがフェリシティの勢いは止まらない。


「確かにあたしはあんたにひどいことを言ったよ? でもだからってMBIを辞めろだとか、あたしの計画を台無しにするなんて、絶対に許さない」

「君が俺にひどいことを? 何か言ったっけ」

「とぼけてるの?」


 そう言われてもよく分からない。焚きつけられたような気はするが、ひどいことの具体例が思い浮かばない。


「いや本当に、……って、それを言うなら君こそ。それに計画って何だよ」


 彼女がやろうとしていたことが、その計画なのだろう。


「アーウィンが何をしてたのか、知ってるの?」


 まさかと思いつつ聞き出そうと探りを入れる。味方に、それも相棒にそんなことをするのもいい気はしなかったが、必要なことだと考えてのことだ。フェリシティは質問を受けて、より一層憤慨した様子でフィーリクスに食ってかかる。


「それを聞き出そうとさっきまで努力してたんだよ。結局聞きそびれちゃったけど。それからアーウィンに付いて行って、ウィッチのアジトの場所を突き止めようとしてた。でもあんたが来たせいで、全部水の泡になっちゃったけどね!」


 フェリシティに詰め寄られ、セリフの最後のほうでは襟首を掴まれた状態で捲し立てられた。勢いに押されかけたがそれよりも、呆れのほうが大きかった。ため息が出る。自分の相棒が、ここまで考えなしだったとは。彼女の手を押しのける。肩に手を置いて彼女の顔を、目をじっと見る。怒りに支配された彼女の瞳が、少し潤んでいる。


「そんな幼稚な計画で、どうしようとしてたんだよ。止めて正解だった」

「フィーリクス、その言い方はちょっと……」


 冷静に言ったつもりだが、少々冷たい言い方になったかもしれない。ニコに諫められたが、言ってしまったものは仕方ない。ただ、小さなドロリとした想いが頭の片隅にへばりついている。


「幼稚!? こっちが体張って貴重な情報を得ようってのに!?」

「それが幼稚なんだよ」


 また突き放した物言いになる。フェリシティに肩に置いていた手を振り払われた。頭の中のヘドロが、重量を増していく。


「あんたもう本当いい加減にしてよ! ちょっと頭がいいからってあたしをバカにして! もう頭来た、帰る!!」


 彼女は踵を返してその場を去ろうとする。大股で、ずんずんと進んでいく様は不機嫌の体現者だ。その後を追いかけるようにフィーリクス達も歩き出した。


「ちょっと! 付いてこないでよ!」

「付いて行ってない。俺達も車をHQに置いてるから、行き先が同じなだけだよ」

「ふうん、あっそ」


 彼女はペースを上げて距離を離していく。追いつくのは諦めて一度立ち止まった。小さくなっていく背中を見送る。ポケットからプレゼントを取り出しじっと見つめる。残ったのは後悔の念だけだ。


「仲直り、できなかったわね」


 ニコは腕を組み、フィーリクスと同じようにプレゼントを見ている。


「しまったと思ってるよ。でも、ああするしかなかった」

「本当にそうなの? 余計にこじれちゃったのに」

「そうだね、分かってる。今日は無理でも、明日ちゃんと話すよ。プレゼントもちゃんと渡す」


 それ以上はもう今日は何もしたくなかった。何もかもが中途半端なままだが、それぞれ解決するには彼の気力が残っていなかった。


「今日はもう帰ろう」

「分かった」


 再びプレゼントをポケットにねじ込み、MBIに向かって歩き出した。




 翌朝、フィーリクスが出勤した時にはフェリシティはもう来ていた。隣に座り「おはよう」と声をかけると、手を上げて応える。


「昨日はごめんよ、君の邪魔をするつもりじゃなかった」


 一日経てば、会話できるくらいには頭も冷えているだろう。そんな期待を寄せて話しかける。謝罪から入れば、少しでも彼女が心を開いてくれるかもとの考えだ。


「じゃあ何であんな真似をしたの? それに、幼稚だなんて」

「君はいらないっていうだろうけど、心配でどうしてもああいう風に。それから幼稚は余計だった。取り消す。できることならなんでもやるよ。許して欲しい」


 本心から、なるべく何の装飾もない言葉で。彼女は大きく息を吐く。肩をすくめて見せた。ダメかもな。諦めそうになったが、彼女が次に見せた動きは笑顔を浮かべること。楽しげなものではなく、ちょっと困ったように眉を下げながらのもの。フィーリクスの安心できる彼女の表情だ。


「許すに決まってるでしょ、相棒。アーウィンに対してちょっと頭に来てたから」

「ありがとう」

「それに許して欲しいのは、むしろこっちだし」


 彼女はぼそりと言うが、フィーリクスの耳はその呟きを捉えている。


「ん? そういえば昨日もそんなことを。確か、ひどいことがどうとかって……」

「そ、それより! 何でもするんだ?」

「え、ああ。何かおごれって言うんなら、俺が破産しない程度でね」

「ふふーん、やったね! 今回の事件が解決したら、またゲーセンでも行こうよ」


 笑い合う。あまりにあっさりと、ひとまずの関係修復を終えた。だがそれはまだ準備段階に過ぎない。フィーリクスは昨夜渡しそびれたゲームの包みを取り出そうとする。


「ゲームと言えば……」

「あれ、朝一で仲直りしたの? いつもの仲良しコンビに戻ってる」


 いつの間にかそばに寄ってきていたニコにそう指摘を受け、二人は顔を見合わせる。フィーリクスは頬に汗を一筋流す。本来解決したい事柄。彼はまだ、フェリシティに対する退職勧告を取り下げていない。ちなみにフェリシティの頬にも汗が確認できたが、その理由までは分からなかった。


「イェア。その、一応ね」


 フィーリクスの焦る理由はそれ以外にもある。昨夜のニコの発言だ。彼女は以前と同じように、何事もなかったようにフィーリクスに接している。だが、フィーリクスとしてはそうはいかなかった。


「どうしたの?」


 オリバーの横やりが入ったためそれどころではなかったし、アーウィンやフェリシティとのやり取りで疲れ、それに関して思考の外に追いやっていた。今、彼女の言ったことに対して聞きたかったことがあったことを思い出す。ただそれは口に出すのもはばかられるような恥ずかしいものであると思えた。そのため、フィーリクスは思いっきり赤面していた。


「フィーリクス、顔が赤いよ? 大丈夫?」


 フェリシティが身を乗り出しフィーリクスの額に手を当てる。次に額同士をくっつけた。離れると彼女は首を横に振る。


「熱はないよ」

「あ、ああ。多分大丈夫。ありがとう」


 今のフェリシティの行動を、自分の反応を、ニコは何とも思っていないだろうか。ちらりと彼女の様子を窺うが、特に変化はなかった。昨夜のあれは夢か何か、もしくは自分の思い違いであろうかと疑い始めた頃、ヒューゴが自分の部屋から出てきてエージェント達に話しかけた。


「みんな聞いてくれ。昨日フィーリクスが遭遇したウィッチのことで、進展があったぞ。新しい情報が入った」

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