9話 wayward-6
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フェリシティは怒っていた。それはもう見るからに分かりやすく、ニコが引くくらいにだ。肩を怒らせて、廊下を踏み鳴らしながら歩く。感情を隠そうともしないその様子に、彼女は眉をしかめている。一歩下がってフェリシティの後ろをついて行く。
「なんなのあいつ!! あたしがMBIに向いてない? ふざけるのも大概にしなさいよ!」
「ねぇ、少し落ち着いたらどう?」
「ニコ! あたしの話を聞いたでしょ!? あのバカあたしにMBIを辞めろだなんて言ったんだよ!?」
フェリシティはフィーリクスとの口論の後、ニコと一緒に地下にある訓練室へ向かっていた。ニコからの要請で、フェリシティの訓練を兼ねた戦闘術の確認をするためだ。
「それは、彼も多分今頃反省してるわよ。勢いで思ってもないことを言っちゃったんだと思う。あなたのことが心配でね」
「それは、……いーえ! ここのところあいつの様子がおかしかったのは、これだったんだ。絶対そうだ」
二人はエレベーターに辿り着き中に入る。フェリシティが荒っぽく目的階のボタンを押した。二人とも入口の方を向いてドアが閉まるのを待つ。フェリシティはドアが閉まるのが遅いと、つま先で何度も床を鳴らす。彼女の言動を見かねたか、ニコがたしなめるような口調で彼女に話しかけた。
「フェリシティ、聞いて。無茶をするから、その反動が来てるのよ。身の丈に合わない行動がもたらす歪みが、自ら解消しようと周りを巻き込んで色んな事象を引き起こす」
「何言ってるか分かんない」
「そうね、あたしも分からない」
「何それ」
二人とも顔を綻ばせた。笑い声がエレベーターの狭い空間の中に響く。ニコはこちらを落ち着けるためにわざと適当なことを言ったのだろう、そう考えフェリシティは彼女の存在をありがたく思う。ニコが途中で笑うのを止め、自分の腕を抱きかかえた。眉尻を下げ、フェリシティの方を向く。
「けど、ね。物事がちょっとずつ悪い方向に向かっていくような、そんな予感がするの。気を付けたほうがいい」
「難しい話はよく分からないけど、そういう風にはならないって。……ごめん、ヒートしすぎたね」
「それをフィーリクスに言えばいいのに」
エレベーターの到着のチャイムが鳴り、ドアが開く。フェリシティは苦笑しながら一歩を踏み出そうとした。
「そんな簡単じゃないよ」
「何が簡単じゃないって?」
思わず足を止める。ドアの向こう側に立っていたのはディリオンとキーネンのコンビだった。声を発したのは、フェリシティの苦手な方、ディリオンだ。フェリシティは彼の声を聞き顔を認めて、自然と顔が楽しくない方面に歪むのを自覚した。
「あんたに言ったんじゃない」
「世の中難しいことだらけだもんなぁ。そう単純じゃない。例えば、フィーリクスとの仲直りとかな」
「何であんたが知ってんの!?」
ドアが閉まりそうになったのを、ニコが慌ててボタンを押して状態維持に努める。フェリシティがフィーリクスと口論をしたのはついさっきのことであり、当事者二人とニコ以外に知る者はいないはずだった。まさか超人的に耳がいいキーネンが、例えば建物の構造体を伝った振動により、地下までわずかに届いた二人の会話を聞いたのか。そんな現実離れした妄想が一瞬フェリシティの頭をよぎり、キーネンを凝視する。
「おいおい、何があったか知らないが、まさかそこまでじゃない。俺は何も聞いてないぞ」
彼はフェリシティの考えてることが何となく分かったようだ。慌てて首を振る。被せるように聞こえてきたのがディリオンの嘲笑だ。
「フィーリクスと一緒じゃないし、お前浮かない顔してるだろ。当てずっぽうで言ってみただけだぞ。それがなんと図星だったなんてな。……単純すぎて笑える」
「ディリオン、そういうことを言ってると……」
キーネンの忠告は途中で止められた。フェリシティの肘打ちがディリオンの鳩尾に綺麗に入り、「うぐっ」くぐもった声を漏らす。キーネンは目を覆い、ため息をついた。
「言わんこっちゃない」
「ダ、ダメージはないからな」
彼の言うように、痛めつけるような強さではやっていない。
「当たり前でしょ、いくらあたしでも手加減くらいするっての」
「そいつはどうも。ほら、どいてくれ」
ディリオンはフェリシティを押しのけて、エレベーター内に無理やり乗り込む。その横暴な行動に手加減などいらなかったと、ムカつきが増す。眉間に力が入り、下まぶたがぴくぴくと痙攣した。
「ちょっと、まだあたしもニコも降りてないでしょ!」
「おやぁ、なんだ、まだいたのか。もう行っていいぞ」
「っこ、こんの……!」
「フェリシティ、行きましょ。いちいち相手にしていたらキリがないわよ」
ニコに引っ張られ、半ば引きずられるようにエレベーターの外へ出る。
「覚えときなさいよ!?」
叫んでみるがディリオンはどこ吹く風の余裕の表情をしている。そんな彼に、キーネンがエレベーター内に入りながら諭すように語りかけた。
「ディリオン、どうして君はそうフェリシティとフィーリクスにそう当たるんだ?」
今度はニコの代わりに彼がボタンを押す係りを買って出ている。
「鍛えてやってるのさ」
「誰がそんなの頼んだのよ!」
フェリシティは吠えたところで逆効果だろうとは思いつつも、言わずにいられない。
「ボランティアでしてやってるんだ。ありがたく思ってくれ」
「しょうのないやつだな。フェリシティも味方なんだ、あまりチームを乱すようなことはしないでくれ」
「はぁ、もういいよ。二人とも早く行けば」
申し訳なさそうなキーネンがボタンから指を離す。
「とっとと仲直りしろよー。パートナーだろ?」
「うっさい!」
「そう言えばディリオン。パートナーといえば、君に話があるんだ。実はな……」
ドアが閉じた。最後にキーネンがディリオンに改まった様子で何か話そうとしていたようだったが、気にしてはいられない。
「どいつもこいつも、ムカつく奴ばっかり!」
「あら、それってあたしも含まれてる?」
「まさか。男連中だけ。特にディリオンは性格最悪」
閉じたドアに向かって舌を出し、ブーと唇を震わせる。唾が多少飛んだがこれも気にしない。
「確かにディリオンは、ね。彼も何を考えてるか分からないところがあるから」
「流石にあいつの擁護はしないのね」
「普段の言動を思い返したら、流石に」
また二人で笑いながら訓練室へと向かった。使っていたのは先程去ったディリオン達だけだったようで、今は無人だ。二人は早速準備をすると、フェリシティが張り切りだす。
「さあニコ。練習台になってもらうから覚悟して!」
「ええ!? 怖い言い方しないで。さっきの憂さをあたしで晴らそうとしてない?」
「正解! ってのは冗談で、ニコにあたしができるところを見せたいの。じゃあ行くよ!」
言うが早いかフェリシティがニコに襲い掛かる。広い空間の真ん中で始まった模擬戦は、格闘戦を中心に行われる予定だ。
ニコとの距離は3メートル程しか離れていなかった。魔法で身体能力の向上をしているため、刹那の間に彼女に迫る。まずは勢いそのままに鋭い左ジャブを放つ。
「ハッ!」
いきなりの開始だが、ニコも即座に対応している。顔面を狙うジャブを、上半身の捻りの動きだけで避けた。フェリシティはジャブを連続して放つ。一発一発が、回避するニコの頭部に的確に追随している。ニコはその全てを足も使い、やはり無駄な動きはせずに全て避けきる。だがそれらは次の攻撃への布石に過ぎない。
「ヤッ!」
フェリシティは出し惜しみをしなかった。次に打った右ストレートに、以前『プソグラフ』相手に使った技を使う。格闘に魔法を乗せて、相手の体内に直接叩き込む。まだ誰にも、フィーリクスにもこの技のことは伝えていない。
もちろん、今使っている魔法は害のないものにしている。熱操作の魔法で、当たった部位がポカポカと暖かくなる程度のはずだ。
ニコは左腕によるガードで受け流し、反撃として同じく右の拳を突き入れてきた。フェリシティの想定よりも速い拳速に、若干驚きつつも慌てず上体を反らして、流れるように右へ避ける。そこへニコの追撃が来る。左足による鋭い中段蹴りがフェリシティの腹部を狙い、高速で迫り来る。
フェリシティはそれを両手のひらで掴み、止めてみせた。ここにも魔法を乗せている。ニコはすぐに足を引いたが、何か違和感を覚えたらしい。
「今、何か……」
言いかけて、次の攻撃に備えるため中断した。足技ならフェリシティの十八番だ。彼女の左回し蹴りがニコの太ももめがけて唸りを上げ走る。
蹴りの発生とほぼ同時に、ニコはその場でしゃがむように倒れ込む。地面に手を突いて、獣が狩りで飛びかかる寸前のような、超低姿勢になった。そのすぐ上を威力の十分に乗ったフェリシティの蹴りが過ぎ去っていく。ニコはその状態から横回転し、フェリシティの左足が戻りきる前に、がら空きの右軸足に足払いをかけた。
「のわぁ!」
フェリシティは素っ頓狂な声を上げながら、尻から地面に落ちていく。が、ニコは落下を待っていなかった。未だ低姿勢のまま、回転を止めずにいた。フェリシティの地面への到着と同時にヒットするよう、彼女の頭部に回し蹴りが吸い込まれていく。
ニコも本気だ。フェリシティはそれを肌で感じ取る。我ながら情けない格好だと思いつつも、感覚が研ぎ澄まされる。スローモーションでやってくる不可避に思えたニコの一撃だったが、まだ方法はあった。くの字に近い姿勢だったものを、体のばねを使い捻り、体を伸ばしまた縮め俯せ状態にまで持っていく。紙一重でニコの回し蹴りを、体を掠めながら避けきった。フェリシティは猫のようなしなやかさで一連の姿勢制御を行い、地面にぴたりと張り付くように着地する。それはニコよりも低く、なおも手と足以外は地面に接していない。
「あ、あっぶな!」
そこから全身を連動し跳ねるように距離を取って立ち上がり、ニコに対峙する。彼女も空振りに終わった回転を終えると、しなやかに直立姿勢に戻る。次いで半身を後ろへ引いて、拳闘の構えを取った。手招きをしてフェリシティを誘う。
「もう終わり?」
「まだこれから!」
またしてもフェリシティが攻める。距離を詰め、左フックがニコの腹部を狙って打ち出された。機敏に反応する彼女は、半歩退いて射程距離から逃れる。
空振りし、振り抜かれるはずだったフェリシティの左拳がニコの眼前にあった。それもまっすぐに突き進んでいくストレートパンチだ。ニコは慌てて腕を上げガードするが、重たい衝撃を彼女の腕に伝え、ガードを弾く。
「なっ!?」
そこへフェリシティは右アッパーを当てにいく。体を捻り加速された拳がニコの顎を、意識を刈り取りにいく。ただしこれは寸前で避けられた。ニコは仰け反り、後ろに飛んでいた。ガードしていた腕は弾かれたのではなく、そのまま振り上げバク転への加速に使ったのだ。二回三回とバク転を続け後方へ下がっていく。
フェリシティはそこで更に前に詰めた。横からニコを追い越して前に出る。宙に浮いたニコと、逆さ向きに目が合う。目を見開く彼女を捕まえ、肩に背負う形に収めた。軽く力を込めて言う。
「はい、あたしの勝ち」
「この格好は恥ずかしい。バク転中に来るのは反則でしょ。……ほら、映画とかでそういうのあんまり見たことない」
ニコを下ろして向き合う。タッチをもって模擬戦終了の合図とした。
「かもね。ところで、何か変わったところはなかった?」
フェリシティに問われた彼女は、考え込むことなくすぐに返答を返す。戦う最中でも言いたいことはまとめていたようだ。
「もちろんすぐに気が付いた。なかなか凶悪な奥の手ね。魔法を練り混ぜた徒手格闘なんて、聞いたことない。使う種類が衝撃とかだったら、すっごくグロいことになりそう」
「……うん、なるよねなった」
正にその衝撃魔法を『プソグラフ』に使い、大変なことになったのはフェリシティにとってまだ記憶に新しい。飛び散った肉片や体液を浴びたことを思い出し、嫌な気分になる。それゆえ今までそのことは誰にも話していなかった。
「どうしたの?」
「何でもない。それでさ、これならミアにも対抗できると思うんだよね」
「いい線いってると思うわ。ていうか、どうやってるのか分からないんだけど、端末にそんな機能あったっけ?」
ニコの言うとおり、フェリシティはそのような使い方を習っていたわけではない。
「さあ? できるかな、って思い付きでやってみたらできた」
直感によるものだった。ニコはフェリシティを、関心を通り越して半ば呆れたような顔で見る。
「それは、何て言うか……、フェリシティらしい。それと、フックからストレートに急に変化したやつ。あれってもしかして、ミアがあなたと戦ったときにやってみせたもの? どうやったの?」
「ミアと同じかどうかは分かんない。多分全然違うものだと思うけど。あたしのは、相手の期待を裏切った」
「それって?」
これもフェリシティが思い付きでやったことの一つだ。どう具体的に説明するか、言葉を選ぶ。
「皆相手の動きを予測するよね」
「当然」
「それをどうにかして違う行動に素早く変える。それだけ」
「その説明じゃ、何も理解できないんだけど」
再び考える。もっと具体的な、やったことをそのまま言えばいいだろうかと思い当たる。
「んー、さっきのフックは出だしだけで、実際には加速を使って拳をすぐに引いて、ストレートに打ち直した」
「それだけ? いや、それだけでも普通はできないから凄いんだけども」
「それだけだよ。皆攻撃を目で追ってるようで、実際には脳内で予測図も、そこに重ねて見てると思うんだよね」
話す内に自身でも内容を整理できたため、スムーズに言葉が湧いてくる。
「それは、そうね。予備動作とかの動きの起こりを見て、こっちも対処するから。実際にパンチとかを打たれた後じゃなかなか反応できない」
「それを裏切る。簡単に言えば、魔法を使ったフェイントなのかな」
「何となく理解できた」
「有効かは分からなかったけど、実戦でも一回くらいなら通用しそう」
通用しそう、との言葉にニコは考えあぐねるような、返答を渋るような素振りを見せた。
「あたしは格闘はあんまり得意じゃないから、って言い訳ね。きっと使える」
すぐにそれを覆してフェリシティに微笑みを向ける。彼女の反応は、フェリシティが自信を持つのに充分なものだった。腕を天井に向かって突き上げ、何度も小さく飛び跳ねる。
「やった!」
「ミア対策にはまだ一手足りない気もするけど、それはそれとして、問題がもう一つ」
足が止まる。腕をだらりと上げた。喜ぶのも束の間、重たい難題がのし掛かっていることを思い出す。相棒の怒った顔が脳裏をよぎり、首を振って振り払う。
「あー、それだよ。分かってる。本当は分かってる。意地の張り合いなんかしたって意味ないってね」
「じゃあ、早くフィーリクスと仲直りしなくちゃ。素直になって」
「あたしも、あいつと色々あったよ。それでも、どうしても譲れないものってあるでしょ?」
ニコは黙って次の言葉を待っている。
「フィーリクスがあたしにMBIを辞めろって言ったこと。何であんなことを言ったのか分からないけど。あいつが撤回するまで、あたしはあいつとのコンビに戻らない」
フェリシティはシャドーボクシングをして見せる。視界の端で、ニコが苦いものでも噛んだかのように、顔を一瞬歪ませた様に見えた。が、それは気のせいだったらしい。眉尻を下げ心配そうにフェリシティを覗く彼女がそこにいた。
「相当ね。でもフェリシティ。そのまま離れちゃう可能性だってあるのに、それでもいいの?」
「……そ、そんなこと、あ、ある?」
ニコは急に何を言い出すのだろうか。フェリシティは最初、彼女が冗談でも言っているに違いないと考えた。ところが、今一瞬見せた彼女の苦い顔が気のせいなどでなく、何か似たような経験を思い起こしていたのだとしたら。
「急に慌てすぎ。内心が透けて見えてる。でも本当」
「どうしよう!」
フェリシティが動揺を受けるには過分に足るものだ。理由は複数あるが、彼とのコンビを解消したくなどない。それが彼女の本心だ。それなのに、今回の喧嘩が原因でそうなる可能性があるというニコの指摘は、フェリシティをとちった行動に出させるに至った。
「何してるの?」
床にうずくまり、膝を抱える。ゆらゆらと体を前後に揺らす。子供が精神が不安定なときによくやるような行動だ。
「絶望のポーズ」
「はいはい。ねぇ、その、よければなんだけれど、あなたがフィーリクスのことをどう捉えてるのか、教えてくれない?」
「何で?」
「何でって、あたしがあなたの力になりたいからよ。そのためにはあなたの考えが知りたいの」
「分かった。そうだね……」
うずくまった体勢のままだが、揺れるのは止めた。フィーリクスについて自分が思っていること、それを言葉にする。
「あたしは、あいつのこと大した奴だって思ってる。周りが何て言おうと、あたしはあいつの凄いところを知ってる。だから、たまにバカにして笑ったりもするけど、本気で敬意を抱いてる」
「それから?」
「それから、何を言えばいいかな?」
彼女に何を問われているのか、図りかねる。俯いたままだった顔を上げ、視線をニコに向ける。彼女は、興味深げにフェリシティを見つめ返していた。
「彼についてどう思ってるのか、かな」
「それなら簡単ね。あたしの友達、同僚、相棒」
「それだけ?」
「それだけじゃ、ダメかな」
抱えていた腕に力を込める。自分はそれを口に出すのを、恐れているのだろうか。
「ダメって訳じゃないけど、何かあるんじゃない?」
「どう言ったらいいのか、言葉にしにくいものは確かにあるよ。うーん、まず友達っていっても、ただの友達じゃなくて、親友だね」
少しずつ、紐解いていく。心の中のフィーリクスに対する思いは、思ったよりも巨大だった。しばらく前の、フィーリクスの家での会話を思い出す。
「よく一緒に遊んでるものね」
「そう。それだけじゃないんだけど、取り敢えずそう」
立ち上がる。少しずつ、フィーリクスに対する思いが明瞭になっていく。言語化され、概念を得て、意味を持つ。今まで深く考えてこなかったことを、今ここで為す。
「それに、同僚、相棒の部分。あたし達の仕事は普通のものとは違う。だから普通の相棒とも違う。命を、背中を預け合うかけがえのない相手。そうだ、まだあるよ」
「それは?」
「これは本当にどう表現したらいいか分からないんだけど、少なくとも一つ言えることがある」
胸の内のもっとも大きなもの。暖かく、熱く、ヒヤリともするもの。
「何があっても、どれだけフィーリクスに嫌われたとしても、あたしはあいつを守りたい」
今言った言葉だけでは全く足りない。もっと的を射た表現があるはずだとフェリシティは必死に考えていた。ただ、ニコはそこまで聞いて満足したらしかった。彼女はフェリシティの肩に手を置き、微笑みを浮かべる。
「そう、そうなのね。答えを聞かせてくれて、ありがとう。後であたしがフィーリクスに聞いておく。彼の真意が何なのか、ね」
「ありがとうニコ! 持つべきものは友だね!」
ニコにハグをした。満面の笑みに、一瞬で立ち返ってのことである。
「もう、調子いいんだから」




