前世メイド、素敵なパーティができました。
「あのぅ…えと…苫米地さん…います、か…?」
見覚えのあるピンクのリボンで結ばれたおさげと赤い目。鍛冶屋に入ってきたのは、あの時共闘したシールダーの要だった。ピンクを基調とした所謂ロリータな装いに、要を見た瑠愛は「可愛いー…」と目を輝かせた。要がやって来た事に気付いた杏海は、笑みを浮かべながら彼女を迎えた。
「いらっしゃい、かなち~!今日も可愛いねー♪」
「え、あ、ありがとう、ございます…」
ほんのり頬を赤くしながらお礼の言葉を言う要に、ちょうどカウンターの前に立っていた紅羽は1歩横に移動すると、軽くお辞儀をした。
「こんにちは、要様。本日もお日柄良く…」
「あ…こ、こんにちは、紅羽さん。その…手は、大丈夫でしたか?」
「はい。ご心配をおかけし、申し訳ございません。」
「もー、固い固いー!一緒にティムバーウルフを倒した仲でしょー?あ、そーだ要ちゃん、私達とパーティ組まない!?」
目を輝かせながら要の手を握る瑠愛に動揺している光景を前に、ん?パーティ?と紅羽は首を傾げた。そんな紅羽に瑠愛は軽くこう説明した。パーティとは、戦闘ジョブ・非戦闘ジョブ関係なく3人以上、6人までで作れる所謂チームの事であり、6人集まると専用の屋敷が与えられるもの、と。5人パーティ用や6人パーティ用の1人用ミッションよりも難易度が高い複数人専用ミッションも受ける事が出来るらしい。難しい分、今回で言うハサックウルフの毛皮などの所謂素材の獲得量も多く、今より上位の装備・武器が作れるメリットがある。そう聞いた紅羽は少し気になり始め、要にこう聞いた。
「あの…私は構いませんので、要…さん、がもしよろしければで大丈夫です。」
そう言われた要も、少し考え出した。確かに、今自分はパーティを組んでいないし、この世界に来て1年経つが特別親しい友人もいない。ずっと独りで…こつこつミッションをしてお金を貯めて、死なない程度に生活してきた。それが、パーティを組む事で楽しい人生となる。それに…今までずっと探している人に、会える可能性も、もしかしたら上がるかもしれない。そう確信した要は小さく頷いた。
「わ、私、からも…よ、よろしくお願い…します…」
「やった、決まり!じゃあ、後で依頼所行って申請書書きに行かないとね!」
「きゃーっ、パーティ結成おめでとう~!よし、じゃあかなちー、結成祝いに頼んでた素材ちょーだいっ♪」
「あ、そうでした…今日はその為に来たんだった…」
要は苦笑しながらそう言うと、メニュー画面を開き素材一覧のタブをタッチした。杏海に渡す分の素材を一括選択して、杏海のメニュー画面に送った。手際がいい…自分もこういう事があったら手際よくやりたい…と紅羽が思っていると、気付いた時には杏海のチェックが終わっていた。
「スティールスライムのゼリー10個と、エレジーシープの羊毛5個、強化前の盾1個、確かに頂戴したよー!じゃ、10分ぐらいで終わるから、お茶飲んで待ってて!はい、水蓮街の特選茶!」
「わ、水蓮街の特選茶って凄い美味しいやつ!ありがとう杏海さん!」
3つの白いティーカップが乗った可愛らしく、そして綺麗な花の絵が描かれた銀のトレーを机に乗せて、3人は3人用スペースに置かれた1人がけのソファにそれぞれ座った。一口お茶を飲むと、紅羽と要は目を輝かせた。
「すごく…美味しいです…!」
「はい、とても私好みのお茶です…!ところで…水蓮街とは何ですか?」
紅羽はそう聞くと、瑠愛は白いティーカップをトレーに置き、説明をし始めた。
「水蓮街って言うのはね、この街…東都中央部・千成街から東に行くとある旅館街だよ!その名の通り水蓮がとても綺麗な街でね、お茶が特産物なの。スキルとか特殊能力を使って選ばれた高品質な物から作られた緑茶がこれ!」
「あ、あの…東都中央部って事は…西都とか、北都もあるって事ですか…?」
「うん!この世界は名前が無いの。その代わり、東都、西都、南都、北都って言う4つの…何て言うか、大陸?が何百kmごとにひし形みたいに並んでるんだって。その内の1つ、東都の中央部に位置してるのがここ千成街、そして東都の最東部にあるのが水蓮街ってなってるの。」
「なるほど…瑠愛様は地理とかに詳しいのですね。」
「うーん…詳しいと言うか、単純に好きなんだと思う。何か、そう言う地域とかの事知ったり聞いたりするのが好き!」
瑠愛がそう笑顔で言うと同時に、鍛冶屋の奥の扉が開き、大きな盾を持った杏海が出てきた。ティムバーウルフと戦った際に使ったあの縦長い八角形の盾は、元の十字架のデザインは変わらず、しいて変わった所はと言うと盾の上部に大きな白い羽が2箇所くっ付いた事くらいか。
「はい、お待たせかなちー!スティールスライムのゼリーで防御力の底上げ、2回目の強化だからエレジーシープの羊毛で盾の外見変化もしといたよー!お代はさっき素材貰った時にお会計は済んでるから、このまま渡しちゃうねー♪」
「ありがとう、ございます…!」
渡された盾を持ってお辞儀をする要に気を良くした杏海は、「で、さっき何話してたの~?」と瑠愛に聞いた。先程の話を軽く話すと、ふんふん、と納得したかのように頷いた。
「ああ~、大陸の話ね!水蓮街は1度でも行ってみるといいよー!街並みは綺麗だし、人は優しいし!多分依頼所で探せば水蓮街行きのミッションとかあるんじゃない?」
水蓮街行きの、ミッション…興味が湧いた紅羽は、少し目を輝かせた。依頼所に行ってパーティの申請書を書かなければならないし、ついでに水蓮街行きのミッションを見ても良いかもしれない。依頼所に行くのが楽しみになってきた紅羽は、杏海と瑠愛の話を聞いていた。
「じゃあ、私達依頼所に行くからっ!お茶ごちそうさま~!」
「ごちそうさまでした。あと…ネックレス、ありがとうございました。」
「ごちそうさまでした…また、お世話に、なります…!」
「うん!また今度~♪」
杏海に手を振られ、3人は鍛冶屋を後にし、依頼所へ向かって行った───