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前世メイド、シールダーに出会いました。

依頼所を出て、紅羽(くれは)瑠愛(るあ)はハサックウルフがいると言うピアンタ草原へ向かって足を進めていた。大木が生い茂る草原が目と鼻の先になった時、思い出したかの様に瑠愛は口を開いた。


「あ、ねぇねぇ、紅羽さんって私と同い年だよね?私、19歳なんだけど…」


「あ、はい。私も19歳、大学1年です。」


「やっぱり!それでね、いつまでもさん付けなんかなーって思って…呼び捨て、でもいい!?」


目を輝かせながら言う瑠愛を目の前に、内心呼び捨てにされる事が嬉しい紅羽は涼しい顔を保ちながら頷いた。紅羽の反応に気を良くした瑠愛は、笑顔で紅羽の前に立った。


「じゃあっ、改めてよろしくね、紅羽!あ、そっちも敬語とかさん付け無くて良いんだよ?」


「い、いえ…この話し方、前世の影響であんま抜けなくて…なのでお気になさらずに。こちらこそよろしくお願い致します、瑠愛様。」


丁寧に手を揃え紅羽が頭を下げるのを見て、瑠愛は笑いながらこう返す。


「あははっ、また様付けしてるー!」


「…これも、影響の1つです…」



そんな話をしながら、2人はピアンタ草原に入っていった。辺りを見回すと、生い茂る草と大木ばかり。奥の方は森のようになっており、モンスター達目線なら巣が作りやすそうな場所である。2人の、と言うより紅羽が受けたミッションはハサックウルフを何体か倒して素材を集める事。そこに関して気になる事がある紅羽は、瑠愛にこう質問した。


「あの、素材って1体からいくつほど手に入るんですか?」


「んー、やっぱり大き目サイズのモンスターからならいっぱい手に入るけど、慣れるまで倒すのが大変らしいんだよね〜()()()に会ったハサックウルフが大体いつもくらいの普通サイズだからー…1体から多くて2〜3個かな?あ、でも。」


「でも?」


「素材が落とせないスキル、普通にあるんだよね…」


そう暗い顔で言う瑠愛。そう言えば、記憶を辿れば装備屋で瑠愛はこう言っていた。


『さっき戦った時、いるとは思わなかったから素材落とさないスキルで基本戦っちゃった…』


先程の言葉の意味を理解し、紅羽は再び瑠愛に質問した。


「近距離ジョブ…は、素材が落とせないスキルがいくつかあるのですか?」


「距離問わず、1つのジョブに1個か2個程度?あるみたい。私みたいなランサーは、【輝き流れるガラクシア(第1スキル)】と【煌めくルーナ・リェナ(第2スキル)】が落とせないかな。あと、基本どのジョブも第5スキルは素材落とせるらしいよ?」


へぇ、と他ジョブの知識を頭に入れ、目当てのハサックウルフが見つからないまま、いつの間にか2人はピアンタ草原に着いた際目の前に見えた森の中に入っていた。木々の隙間から見える青空はとても綺麗だが森の中自体は少々薄暗く、モンスターの巣が多そうで恐怖心も湧き出てくる。ただの鳥が羽ばたく音にも驚きそうになるのに…と、紅羽は溜息を吐く。森の中を進んでいると、突如瑠愛は足を止めた。


「瑠愛さん?」


「…なんか、今足音が聞こえたような…モンスターじゃない…人の足音?」


「…人、でございますか。」


「うん、人。私、目と耳は凄い良い方だから信じても良いと思うっ。」


瑠愛の謎の自信と紅羽の心配の気持ちと共に、2人はその足音が聞こえたという方へ足を進めた。

そこそこ森の奥へやってくると、瑠愛が言っていた足音が紅羽にも聞こえた。確かに、ここら辺に人がいる。どこかに向かって走っている、そんな足音だった。足音を聞きながら、瑠愛はメニュー画面を開きながら口を開いた。


「…魔力(MP)反応が大きい…」


魔力(MP)反応…ですか?」


「うん、近くにモンスターがいるかどうかの反応。魔法系を使える人はこうやってメニュー画面で確認できるんだ。あ、私の特殊能力って属性魔法なの!炎属性と、水属性と、光属性が使えるんだ~」


瑠愛がスキルを使用する際に槍が光るのは、その属性魔法だったのか…と紅羽が納得すると、突如2人の前を何者かが走って行った。なんとか視認できたのは、ベージュ色の髪をおさげに結んでいるのと、赤く輝く目、そして同じ身長の紅羽と瑠愛よりも小柄な少女だという事。驚きと同時に足音の正体も分かった瞬間、2人は顔を見合わせた。


「る、瑠愛さん、どうしましょう?」


「私、属性魔法で2人乗り用の魔法陣出せる!それで追いかけよう!」


「わ、分かりました!」


そう紅羽が返事すると、瑠愛は黄色く光る大きな魔方陣を生み出した。躊躇なく瑠愛が魔方陣に乗り、膝立ちしながら紅羽を魔方陣の上に乗せる。地上1メートルくらい魔方陣が浮くと、2人は走り去って行った少女を追いかけた。

5分程度魔方陣で少女を追っていると、ようやく少女に喋りかけれる程度の距離になった。一気に加速し、少女の右隣数メートルほどの位置でスピードを落とすと、瑠愛は尚も走り続ける少女に声をかけた。


「ねー君ー!こんな森でずーっと走ってるけど、どうしたのー!?」


「ふえっ!?え、と…その、も、モンスターに追われていて…」


少女がそう言ったのと同時に紅羽は後ろを振り向く。多くの大木が並んでいる森の中、一際目立つ大きな白煙。それは、依頼対象のハサックウルフやら紅羽の知らないモンスターの群れ、その数3つほど。何をしたらこんなに追われるのか…と内心疑問を浮かべていると、少女は突如足を止めた。後ろを振り向き、足を止めた瞬間に襲ってきた半透明のモンスターの攻撃を華麗なバク宙で避け、降り立った瞬間に少女は可愛らしいピンク色に光る魔方陣を足元に出現させる。そして、魔方陣から出てきた物、それは───少女の身の丈よりも少し大きな()である。縦長の八角形の形をし、大きな濃いピンク色の十字架が描かれた空中に浮く盾を持つと、少女は盾を振り翳し、地面を突いた。ピンクの魔法陣が再び足元に現れ、少女は1つ深呼吸をした。


()()装填完了…標的前方のみ…照準ロック完了…【純血のブランシ(第5ス)ュ・ネージュ(キル)】、発動…!」


そう小さく言うと、盾に描かれた十字架部分が消え、代わりにそこは漆黒に染まる。一斉に少女へ走って行くモンスター。だが、モンスター達はこめかみから血を流し、消えていく。そして、森中に鳴り響く()()。そう、彼女の盾から発射されているのは銃弾である。十字架が描かれていた部分全てから銃弾が発射され、広範囲に渡って攻撃していく盾にモンスター達は立ち向かえず、青い光と共に消え去っていった。モンスターが全て消え去ると、いつの間にか盾の十字架は通常であろう濃いピンク色に戻っていた。メニュー画面を見てふぅ、と安堵の息を零す少女に瑠愛はいつかの時みたく目を輝かせていた。魔方陣から降り、瑠愛は少女の隣に立った。


「すっごい、すっごいね君!盾ってあんな感じに変形するんだー…っ!」


「え、あ、ありがとう、ございます…」


頬を赤らめ、おどおどしながら言う少女と好奇心旺盛な瑠愛のやり取りを紅羽は魔方陣から降りずに少女を観察した。膝にかかるほどの丈のオフショルダーのワンピース型の鎧を着ている少女。隣に並んでいる瑠愛よりも小柄だが、あの大きな盾を扱えるのはMPかジョブが関係しているのだろうか…そう考えながら魔法陣を降りると、紅羽は少女に挨拶をした。


「はじめまして。私は津々楽(つづら) 紅羽と申します。この世界に来たばかりのヒーラーでございます。」


「あ、私はランサーの(ゆずりは) 瑠愛だよー!よろしくー!紅羽とは19歳コンビなんだー♪」


丁寧なお辞儀と共に挨拶をする紅羽と明るい笑顔で挨拶をする瑠愛を見て、少女は戸惑いながらお辞儀をした。


「あ、わ、私は、胡桃沢(くるみざわ) (かなめ)です…!シールダーの、17歳、です…」


「17…高2かな…?」


「は、はい…」


若。え、若。紅羽はそう内心で自分が歳をとったのか大人になったのか複雑な気持ちになる。3人の自己紹介が終わり、瑠愛は最初に思っていた疑問を要にぶつけた。


「ねえねえ、何で最初モンスターに追われてたの?」


「えっと…鍛冶屋さんに、盾を強化するには素材を集めてほしいと言われて…それで、モンスターの群れをまとめて倒したら…素材もたくさん入る、かと思って…」


まさかの戦略だった。なんか凄いシールダーだ…と感心すると、紅羽の耳に明らかに人間の物ではない呻き声が届いた。呻き声が聞こえた方向、要の真後ろを見ると、そこには先程見たモンスターよりも遥かに大きいハサックウルフがこちら目掛けてゆっくりと歩いていた。紅羽は内心焦りながら、巨大なハサックウルフの方を指差しながら口を開いた。


「る、瑠愛様、要様…」


「なーに?って、また様付、け…うわぁ…」


「お、大きい…ハサックウルフ…?」


3人はその大きさに軽く引きながら、そして同時に理解した。あの巨大なハサックウルフは、自分達を敵と認識している事を───

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