前世メイド、緊急作戦会議です。
瑠愛ともう1人の瑠愛が話している頃。残った紅羽達5人は、季優の案で再び昨晩の教会にお世話になることになっていた。
「すみません、シスター様。再びお世話になってしまい…」
「仕方のないことですよ。ランサー様が捕まってしまった以上、街の人がヒーラー様達を警戒してしまうのも無理はないですから。」
「今の私達は…指名手配犯の仲間、といった立場なのでしょうか。」
「そういうことです。なので、ここに来たのは良い判断です。お疲れ様でした、皆様。」
シスターがお辞儀をすると、礼の意を込めて紅羽達も頭を下げた。兎にも角にも、まずは瑠愛を連れ戻さないと…教会の大きな時計を見ると、まだ昼過ぎ。軽い昼飯を食べながら作戦会議をしましょう、と紅羽が提案すると、5人は快く頷いた。
シスターが昼食を作っている間に、紅羽達は聖堂で作戦会議を開いた。まず、紫音の瑠愛の位置特定から始まった。
『魔力やジョブの反応で仲間の位置は分かるんだけど…ここからは瑠愛の反応が遠いなぁ…駅近くではないってことかな?』
「そうですか…南瀬さんは、魔力を感じ取ることってできませんか?」
[今やってはいるが、確かに反応が弱い。]
[駅から遠い場所にいる可能性が高い。]
南瀬もお手上げの意で両手を軽く上げていると、要は浮かない顔をしていた。あの時の彼女の顔は、なんとも言えない…悲しげな顔のような、心配げな顔のような、そんな顔だった。あの時自分が、彼女の腕を引っ張っていることができれば───
「…シールダー、なのに…守られて、ばっかり…守るのが…シールダーなのに…」
「…きっと、まだその時じゃないんだ。それに、シールダーなのに、っていうのは弱音になるからな…自分はできる、って思った方がいいぞ。」
「…ありがとう、ございます…先輩…ごめん、なさい…」
震える手を抑えながら、要は小さく礼を言った。そんな要を心配しながら、紅羽は彼女に瑠愛はどこに連れて行かれたと思うかを聞いた。その答えは、あの時警察が言っていた言葉。専用の牢屋。その言葉を紐解いた季優は、紫音に刑務所の場所を聞いた。
『刑務所?』
「あぁ、牢屋と言えば刑務所。駅近く以外のこの街の刑務所はないか?」
『待って、今調べる!…5箇所特定できたよ!ただ、近辺に行かないと魔力の探知はできないかも。南瀬もだよね?』
南瀬が肯定の意味で頷くと、紅羽はどうにかしてそこに行けないか考えた。紫音が表示させたマップを見る限り3箇所は森林に接しているが、残りの2箇所は街中にある。どこか隠れることができる場所で尚且つ5箇所同時に探知できないか…マップを見ながら考えていると、要は小さく母音を発した。
「要様?」
「…私の、特殊能力を使えば…何とかなるかも…」
[フィールド転換か。]
「は、はい…私の力は…指定した場所を…非戦闘区域や、戦闘区域に変えることができて…転換した場所は、元の風景に見えてるから…実質透明化みたいなもので…ただ、制限時間が…」
心配そうに言うと、紫音は満面の笑みでそれまでに終わらせればいいだけだ、と励ました。眉は下がっているも笑みを浮かべる要に安堵した紅羽は、その方向で行うことにした。なるべく早い内に救出したい思いの紅羽にとって、決まったとなるとすぐにでも行きたい。が、先程のミッションもあり疲労感はある。せめて、何か食べたい…と考えていると、良いタイミングでシスターがキッチンからやって来た。
「お話中、失礼します。軽くですが、昼食を作って参りました。ベーコンレタスサンドイッチと、オレンジのフルーツサンドイッチです。」
「ありがとうございます、シスター様。…皆様、私は早い内に瑠愛様の救出をしたいのですが、どう思いますか?」
「わ、私は…大賛成…!瑠愛ちゃんには…戻ってきてほしい…」
「俺も賛成だ。明日に作戦を行うとして、刑が執行されたら立ち上がれないからな。」
『ボクもボクもー!瑠愛にはお世話になってるからね!もっとお喋りもしたいし!』
南瀬は?という目を向けられた当の本人は、メニュー画面にこう映し出した。
[杠の動きは、色々学べることがある。]
[賛成の意を込めて、僕をこのパーティに入れてくれないか?]
その文章を読んだ南瀬を除く4人が笑うと、南瀬は首を傾げた。何がおかしい?とでも言うように。
「…いえ、何もおかしくはありません。ようこそ、と言いたいところですが。それは瑠愛様が戻ってきてからですね。」
「だな。そのためにも、今は作戦を実行する時間を決めるのと、腹ごしらえだ。」
その季優の言葉と共に、新たに魔法使いが仲間になった紅羽達は昼食を食べ始めた───
───一方、瑠愛がいる刑務所では。自分の前世を知った瑠愛は、青ざめた顔で震えていた。もう1人の黒いパーカーの方の瑠愛は、機嫌が悪そうな顔をした。
「だからぁ、この世界に来た経緯は違うって言ったでしょ?キミは、マイナス感情がないランサーなだけだよ。ほら、怒ったことってある?悲しくなった時ってある?」
「…ない。怒り方も、悲しみ方も、分からない…牢屋に入った時も、悲しいよりも、寂しいよりも、乱暴に入れられて痛いってくらいしか思えなかった…」
「でしょ?その反面、ボクは笑うことができない。楽しいが何か分からない。だって、人を殺すのはボクのお仕事みたいなものだもん。」
言われてみれば、もう1人の自分は声が弾むことはあるが、顔は笑っていない。無理矢理、ぎこちない笑みを浮かべたりしている。この人は、笑えなくて悲しいとは思わないのだろうか…?そう疑問に感じた瑠愛は、もう1人の自分にそのまま聞いた。驚いたように瞬きをするもう1人の瑠愛は、うーんと考える素振りを見せた。
「別に、そうは思わないなぁ。あ、笑ってみたいとは思うよ!ボクとボクが一体化して、1人の人間になれれば笑えるからね!」
「一体、化…?そんなことができるの…?」
「できるよぉ?自分はもう1人の自分よりも強いって思えれば、の話だけど。」
「…自分よりも強いか。」
「そう!自分が強いって強い意志を持っていて、相手を瀕死にまで追い込めばできるーって、萕と心愛が教えてくれた!」
あの旅占い師の情報か…と思っていると、瑠愛の耳には知らない女性の名前が届いた。心愛?まだ会ったことはないが…その人も萕達の仲間だろうか?
「…心愛って?」
「うちの魔法使い。予知能力の使い手!」
「へぇ…警戒しとこ。」
「あは、警戒する前にキミが死なないといいね?」
「絶対…紅羽達は助けに来てくれる。」




