前世メイド、華麗に討伐してみせます。
作戦会議の翌朝。シスターから言われた通りに女神へ祈りを捧げ、朝食を食べ終わった紅羽達5人。メニュー画面の中で祈りの時間のデータを取っている紫音を見ながら、紅羽は聞いた。
「いいデータは取れましたか、紫音さん?」
『うん、バッチリー!祈りの時間は体験する機会がないし、いいデータが取れてるよー!ありがとう、シスターさん!』
「いえ、寧ろ教会のルールを強要してしまい申し訳ありません。」
シスターが頭を下げると、紅羽達は構わない、という意を込めて首を横に振った。シスターは軽く微笑むと、
「では…いってらっしゃいませ、迷える冒険者様達。あなた方に、女神様の加護があらんことを。」
順々に外に出ていく紅羽達。最後に瑠愛が出ようとすると、シスターは引き止めた。何事かと首を傾げると、シスターは真面目な顔をして瑠愛に忠告した。
「警察方には見つからない方が良いかと。見つかったら…後がありませんよ。」
シスターの忠告を胸に、瑠愛達はミッションの討伐対象モンスター、レイドスネークのいる場所に到着した。紫音の情報通り、かなり大型───あの時の、ティムバーウルフくらい───の蛇型のモンスターが目の前に居座っていた。紫と黒の禍々しい体に、目が合うだけで足が固まりそうな血の色に似た赤黒い目。その目は紅羽6人を捉え、巨大な尾で地面を叩くと、一直線に要に向かって突進してきた。一瞬怯んだ瞬間、要は盾を構えた。
「…対大型モンスター用弾丸、セット完了…発射!」
盾の十字模様が漆黒に染まると、普段よりも大きな銃弾がレイドスネークの顔をめがけて飛んで行った。だが、その弾丸をいとも簡単に避け、レイドスネークはそのまま要の盾に向かって突進した。突進の速度と強さから盾から手が離れてしまうと、要はレイドスネークから少し距離を取り、盾が飛んで言った方向に手を伸ばした。
「る、瑠愛ちゃん…!ちょっと、上か左に避けて…!」
「上!?了解!」
ちょうど盾が飛んでくる方向にいた瑠愛が黄色い魔法陣を出現させ上に避難すると、要は盾の方向に向けていた手を微調整し、盾から発射される銃弾を変更した。速度早め、威力低め、1発辺りの量多め、銃弾サイズ小さめ…そう設定し終わると、盾から銃弾を発射させた。発射された反動で勢いよく盾が後退していくと、ちょうど持ち手が要の手に来た。上手くいった達成感で安堵し、再び盾を構え直すと、レイドスネークは今度は瑠愛を狙って思いっ切り尾を振り回した。
「要さん、季優さん、皇さん、援護射撃をお願いします!」
「はいはーい、任しとけ!」
紅羽がそう指揮すると、要は銃弾で、季優は弓矢で、南瀬は紫色の魔弾でレイドスネークを狙い撃ちしていった。紅羽は魔弾も魔力向上の発動条件になってしまうと考え、レイドスネークの体力が少ない後半までは魔弾も効果が高い回復スキルも使用しないと決めているため、レイドスネークの体力の変動や他のメンバーの指揮をする…と昨夜の作戦会議で瑠愛達5人に言った上で決めていた。レイドスネークの体力はここまで順調に減っている…あとは他のメンバーの体力次第では魔力向上も行わずに済む可能性も…と考えながら、紅羽は瑠愛達4人とレイドスネークの戦いに注目した。
「もぉぉぉ、私ばっかり狙わないでくれる!?【輝き流れるガラクシア】、発動!」
しつこく瑠愛に向かって尾を振り回すレイドスネークに腹立ったのか、瑠愛は先端が黄色く光る槍でレイドスネークの尾を貫いた。レイドスネークが尾の動きをやめた瞬間に、季優は青い魔法陣を、南瀬は紫色の魔法陣を同時に足元に出現させた。
「【狙い撃つダーイラ】、発射!」
「…【エゾルチズモの夜】…顕現…」
季優は円形に弓矢を連射し、南瀬は大型の魔法陣から数多の小さい魔弾を連射してレイドスネークの尾を狙って撃っていった。集中攻撃されたレイドスネークの体力はどんどん減少していったが、それと同時に森林の方へ後退していった。まずい、と思った瑠愛は1回指を鳴らし、レイドスネークの周りを炎で囲った。紅羽はレイドスネークの後退が停止し安堵すると、手招きで瑠愛を呼んだ。魔法陣のスピードを上げて紅羽の元に来た瑠愛は、紅羽の【ディーオの恩恵】で体力と魔力を大幅に回復した。どぷん、どぷん。魔力向上までの猶予はまだある…4人共魔力を使わない通常攻撃をメインでしてくれたので、あまり魔力を消費していない。自身のスキルは使用しなくても大丈夫と判断した紅羽は、4人に指示を出した。
「皆さん、スキルや通常攻撃で敵の体力を減らしてください!私は魔弾を撃つので、発動できるタイミングで魔力向上を発動します!」
4人は承諾すると、各々魔弾や近接攻撃を仕掛けた。瑠愛は槍で、季優は弓を止め刀で体を、要は銃弾で、紅羽と南瀬は魔弾で頭を狙っていった。先程以上の集中攻撃に耐えきれなくなってきたレイドスネークは、背中付近をボコッと膨らませた。その瞬間を見逃さなかった紅羽は、紫音にあれは何かと聞いた。
『ぜ、前例にないよあんな動作!ただ、他のモンスターの見た目や動作とか膨張した部分から考えると…翼の出現…?』
「え、そ、そんなことあります!?」
『だ、だってその確率が高いんだもんー!あ、ほら、もう膨張し終わるよ!』
「…っ!」
翼の出現を危惧した紅羽は、魔弾を撃つことを止め、瑠愛、要、季優、南瀬のいる方角に合計4つのバツ印を書いていった。
「【癒しのインノ】、発動!」
どっぷん。体内で今までにない勢いで液体が溢れた気がした。急速にやってくる息苦しさ。息を吐き続けながら紅羽が右手に赤い魔法陣を出現させると同時に、レイドスネークは雄叫びをあげた。
「シャアアアアアァァァァァ!!」
「魔力、向上…!」
レイドスネークは黒い翼を、紅羽は大きな黒いハンマーを同時に出現させた。レイドスネークが翼を動かし強風を起こしたが、紅羽はハンマーで軽減し、風が止まった瞬間に走り出した。紫音から昨晩聞いたレイドスネークが1番ダメージを受ける箇所、それは頭部の少し下。人間でいう首のような役割をしている箇所。このスキルで、確実に終わらせる…!と思った瞬間。
レイドスネークは一瞬で空高く飛び上がった。
あまりにも高く、ハンマーを持ってる自分では絶対に届かない高さ。持ち手に力を入れると、紅羽は2人の名を呼んだ。
「要さん!季優さん!」
「【星空に輝くヴェガ】…」
「【ナモーザジュの雨】…」
「「発射!」」
空から降ってくる大量の要の銃弾と季優の刀と弓矢に耐えきれないレイドスネークがどんどん落下してくると、紅羽は思いっ切り跳び、ハンマーの先に赤い魔法陣を出現させた。
「【天からのフルットプロイビート】、発動!」
「──────────!!!」
ガードも何もできずにハンマーが直撃したレイドスネークは、声にならない悲鳴をあげながら赤黒い光の粒と共に消えていった。だが、喜びも束の間。レイドスネークを倒した瞬間にハンマーが消え、紅羽は真っ逆さまに落ちていってしまった。
「なんっ、で、武器が…!?」
「紅羽!!」
ハンマーがあったはずの場所に手を伸ばすが、掴めるのは空気だけ。何とか着地できないかと混乱する頭で考えると、それはすぐに解決された。瞬時に飛んできた瑠愛と瑠愛が出現させた黄色い魔法陣に助けられたのだ。大丈夫?と瑠愛は紅羽の顔を覗くので、紅羽は笑みを浮かべながら頷いた。着陸した2人は4人に迎えられ、無事にミッションが終了した…と思っていたら。紅羽達の前に忙しない足音が近付いてきた。
「あれ…柘榴街の警察か?」
「せ、先輩…私達、ちゃんとミッションを、クリアした…んですよね…?」
「そのはずだが…」
「いたぞ!」
「確実に捕らえろ!!」
「指名手配犯、杠 瑠愛を発見!」
「なんで、このタイミングで…!」




