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前世メイド、指南所へ行く事になりました。

次々と槍で突き、ハサックウルフを倒していく瑠愛(るあ)は、気付けば10何匹もいた群れをほぼ壊滅状態にしていた。先程紅羽(くれは)が自動回復付与のスキルを使ったおかげか、瑠愛は全く疲れていないと言っても過言ではなさそうだ。HPギリギリで生きているであろうハサックウルフを目の前にして、瑠愛はトドメと言わんばかりに槍を構えた。瞬間、黄色い魔法陣が瑠愛の足元に現れ、槍の刃を黄色い光の粒が纏い始めた。


「【煌めくルーナ・リェナ(第2スキル)】、発動!」


そう言うと、瑠愛は槍を前方に振り、ハサックウルフの群れを全て倒しきった。凄い…と攻撃できないからという理由で紅羽は木陰から瑠愛を見ていると、足元の近くから何かの唸り声が聞こえた。群れから離れたであろうハサックウルフがまだ残っており、紅羽の足元に立っていたのだ。紅羽は恐怖心のあまり尻餅をついてしまい、ハサックウルフはそんな紅羽を嬉々として襲ってきた。まるで、「いい獲物がやって来た」と言わんばかりの勢いで。全部倒したと報告しようと紅羽のいる方を振り向いた瑠愛は驚きながら槍を再び構えた。


「え、あ、あそこにもいたの!?やばいやばい、えーと、あそこまで行くなら…【輝き流れるガラクシア(第1スキル)】、発動っ!」


そう言うと、瑠愛は黄色い星に纏われ紅羽の元へ一瞬で移動し、襲ってきたハサックウルフを1発で撃退した。黄色い光の粒が槍から消えると、瑠愛は紅羽に手を差し出した。


「ごめんね、そっちに行ったの気が付かなくて…大丈夫だった?」


「い、いえ…お手を煩わせてしまい、申し訳ありません…」


紅羽は手を取り、立ち上がった。申し訳なさそうな顔や言葉遣いから、瑠愛は首を傾げながらこう聞いた。


「ねぇねぇ、紅羽…さん?って、前世はメイドとかそういうのだったの?何か、ただのイメージだけどそんな口調だから…」


「え、あ、はい…瑠愛様は?」


「様なんて付けなくてもいいよー♪んー…私、前世の記憶が欠片もないんだよね…」


「欠片も…ですか?」


紅羽はそう聞き返す。うん、と瑠愛が頷くと、草原を出るまでの道中で教えてくれた。どうやら前世の記憶がない事はかなり珍しく、この世界に住む人ほぼ全員が前世の記憶を完全に持っているのに、と言えるほどである。さすがに狭間の神殿でルーチェから聞いた時は多少は驚きはしたけど、と言ったが瑠愛自身は前世を覚えていない事をさほど気にはしていないらしく、「あんまり気にしなくていいよ〜」と明るく言った。だが、そんな大事な事を言われて自分が何も話さないのは失礼だと思った紅羽も、ここに行き着くまでの経緯を教えた。一通り教えると、瑠愛は納得したようにこう言った。


「うーんと、つまり?ルーチェさんの神殿を出て、気が付いたらあそこにいただけで…実際はここの事何も知らない初心者って事?」


「そんな感じです…だから、瑠愛、さんにかけたスキルも偶然の産物だったと言うか…」


「偶然の産物でも、助かった事には変わりようないしっ!お礼に、私がこの世界を案内してあげるよ!」



そんなこんなで、瑠愛に引っ張られ数十分。草原を出て目の前には、レンガ造りの一軒家や数多くの店が並んでいる大きな町があった。あそこにモンスターの撃退依頼を受けれる依頼所という所や、武器を作ってくれる鍛冶屋がいるとの事。「まず指南所に行って、色々教えてもらおっか!」という事で、まず2人は指南所に行く事になった。町の大きなレンガ造りの門から入り、目の前に建つ依頼所の右側の通路に指南所があった。茶色い扉を開けると、中には重そうな鎧を着た中年くらいの黒髪で細目の男性が立っていた。紅羽達に気が付いた男性は、2人を笑顔で歓迎した。


「ようこそ、指南所へ。久しぶりだね、(ゆずりは)さん。何か教えてもらいたい事があるのかい?」


「お久しぶりです!いえ、今回は私じゃなくて…こっちの紅羽さんにお願いします!」


そうか、杠さんもまた色々聞いてくれて構わないからね。と言うと、男性は青みがかった画面を出現させた。どうやら紅羽のステータスを確認しているらしい。時々驚いたりしながら、とりあえず一通り確認すると、男性は再び口を開いた。


「珍しい特殊能力を持っているね…だが、内容は分かった。まず最初は回復スキルの確認を、その後に【魔力向上】が発動したらそちらの指南をしよう。俺は八奈見(やなみ) 勇仁(ゆうじん)、よろしく頼むよ、津々楽(つづら)さん。」


「よ、よろしくお願いします…!」


紅羽がお辞儀をすると、勇仁は指南部屋へ案内した。扉にはヒーラー専用と書かれており、どうやら各ジョブ専用の部屋があるらしい。部屋に入ると、3つの青みがかった画面が浮かぶ近未来な世界が広がった。実際に負傷者を用意するのは大変な為、作られたのがこの部屋らしい。 紅羽が画面の目の前に立つと、画面に『Tutorial(チュートリアル) mode(モード) START(スタート)』と浮かび上がった。勇仁が画面に手を触れると、画面には負傷した兵士が出現した。


「これは架空の兵士だ。この映像と現実で発動するスキルは繋がる事ができるんだ。一種のゲームと思って構わないよ。では、まずは第1スキルからやっていこうか。」


「しょ、承知しました…」


「紅羽さん頑張ってー!」


後ろから聞こえる応援を聞きながら、紅羽は勇仁の教えを聞きながらどんどんスキルを発動した。

小回復の第1スキルは三角を書く。どぷん。大回復の第2スキルは四角を書く。どぷん、どぷん。自動回復付与の第3スキルは1度使ったのでパス。全回復の第4スキルはバツ印を書く。どぷん、どぷん、どぷん、どぷん。という事で回復スキルの指南は全て教えて貰った。教えて貰ったのは嬉しい事だが、紅羽はスキルを使う度に体内で液体が溢れる感覚に襲われた。それは少し苦しく、何かが体内から吐き出されそうな感覚でとても良い感覚とは思えなかった。小さく息を吐き続ける紅羽を心配した瑠愛は、勇仁に焦りながら聞いた。


「ね、ねぇ八奈見さん、これって大丈夫なの…?」


「恐らく、魔力向上が発動する前兆だろうね…津々楽さん、右腕をゆっくり振る事はできるかい?」


「右、腕…?」


紅羽は言われた通り右腕をゆっくり中心から90度振った。すると、紅羽の足元に真っ赤な魔法陣が現れた。「うおお、あぶなっ…」と瑠愛が魔法陣の中から身を引くと、真っ赤に輝く魔法陣は紅羽の右手の中に収まり、代わりに右手は巨大なハンマーを持っていた。何となく体内がすっきりした感覚がする紅羽は、手元のハンマーを見て軽く驚いた。


「え、重っ…くない…?」


「重戦士だから巨大武器が片手で扱えるようになったのか。ジョブが変わると、体力と攻撃力がかなり増加する…が、逆に回復力は0になるのか。」


再びステータスを確認しながら勇仁はそう言うが、瑠愛には1つ疑問が浮かんだ。回復力が0という事は重戦士時は回復が欠片もできないという事では、と。それを勇仁に言うと、ふむ…と考えながら答えた。


「そうだね…確かに、回復力が0という事はスキルでもアイテムでも回復はできない。あまりいいスキルとは言えないかもしれない。」


「体力と攻撃力が跳ね上がってるとは言えど、格上の敵だと紅羽さんが死んじゃうよー…」


悲しそうに言う瑠愛の言葉を聞きながら、紅羽は確かにこの特殊能力は少し面倒臭そうですね…と考え始めた。暗い顔をする2人を見ながら、勇仁は苦笑しながら口を開いた。


「でも、回復方法が必ずしも0のままとは言えないよ。遠距離ジョブの魔法使いのスキルなら回復力を底上げできるかもしれない。回復スキルとステータス上昇スキルは全くの別物だからね。」


2人は安堵の溜息を零すと、紅羽は勇仁に「重戦士の指南、よろしくお願いいたします。」と頭を下げた。勇仁は笑顔で頷くと、重戦士専用の部屋に案内した。道中、瑠愛がハンマーを持とうとしたが、結局どう足掻いても持てなく、膨れっ面の瑠愛がいた───

重戦士専用の部屋は、端に机とパソコン、そして普通の地面があるだけのシンプルな部屋だ。勇仁がパソコンを操作すると、部屋に岩でできた的が出現した。どうやら勇仁曰く槍や普通の剣では壊せない代物らしく、好奇心で槍を構えた瑠愛をやんわりと止めていた。瑠愛が近くに置かれたベンチに座ったのを見て、勇仁は口を開いた。


「どうやら、この状態の重戦士は第5スキル、つまりジョブの内の最強スキルしか使えないみたいだね。津々楽さん、使えるかい?」


「私みたいにスキル発動ーとか言うと使えるかもー!」


瑠愛のアドバイスを聞き、紅羽はハンマーを構え、深呼吸をする。その瞬間、足元に先程と似たような真っ赤な魔法陣が出現した。


「【天からのフルット(第5ス)プロイビート(キル)】…発動!」


そう叫ぶと、ハンマーが赤い光の粒に囲まれる。その瞬間に思いっ切り的に当たる様にハンマーを振ると、岩に中心から外側に向かってヒビが入っていく。危機感を感じた紅羽が退くと、岩は原型を留めないほど粉々に砕けた。紅羽が「威力すごっ…」と軽く引いていると、瑠愛が目を輝かせながら飛び付いてきた。


「すっごいね紅羽さんっ!すんごい強いじゃん、そのスキルー!」


「すごいじゃないか、津々楽さん。これで疑問点はなくなったかな?」


「は、はい…あ、ありがとうございました。」


礼を言うと、勇仁は笑って「どういたしまして。」と返した。自分は…強くなれるのだろうか、と不思議に思いながら、紅羽は軽く微笑んだ。

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