前世メイド、ちょっとした真実を知ることになりました。
「…あの、紫音様?今、何と?」
『え?ボク、男だよって言ったよ?』
…空気が、一瞬固まった。ツインテール姿や、少女のようにしか見えない言動から1ミリも想像できなかった真実。AI、羽月 紫音は…男だということ。目の前の事実を整理しようと4人が押し黙っていると、紫音は『あっ』と何か思い付いたかのような声を発した。
『じゃあじゃあ、季優にこの下見せれば信じてくれるかなぁ?』
「見せなくていい見せなくていい。あと、そんな短いの着るならズボンか何か履くといいと思うんだが。」
『えぇー、この丈がいいんでしょー?ショートパンツとか履いたらこのガーターの意味なくなっちゃうでしょー!』
大きめの白いパーカーの裾を上げようとした紫音を季優が制すと、紫音は裾から手を離した。ようやく整理が終わった紅羽は、気を取り直して季優に問うことにした。
「ま、まぁ、そんなパーティですが…季優様は、如何なさいましょうか?」
「…うん、今まで見てきたパーティより断トツで愉快だ。パーティに入っても構わないか?」
「わ、私は大歓迎、です…!」
「私も大歓迎ー!ランサー、杠 瑠愛をよろしくねー♪」
要と瑠愛が快く承諾すると、季優は爽やかな笑みを浮かべた。紅羽は内心、あと1人でパーティの家を貰える…と密かに楽しみにしていた。
各々和菓子を食べ終え、紅羽は思い出したかのように季優に質問をした。
「そういえば…季優、さんは、あの女性に狙われていたようですが…相手の目的は知っているのですか?」
「…いや、分からない。俺の特殊能力…知力向上を使っても、あの人の考えていることは分からなかった。」
『知力向上…魔力向上の派生能力で、頭の回転が常人より早くなる、至近距離なら相手の心情も読める力…頭の良さにおまけで読心術がついた感じかな?』
「…その能力でも分からないってことは、なんか…その目的に鍵がかかってる感じなのかなぁ…」
「鍵…?」
要が首を傾げると、瑠愛は頷きながら答えた。
「何か、おっきな引き出しがあって…それに、頑丈な鍵がかかってる感じ。こう、無理矢理閉じ込めてるみたいな…」
「…相手に目的を悟らせないためか。」
「そう、そんな感じ!さっすが季優ー!知力向上を持ってると違うねー!」
「あはは、おだてても何も出ないからな。」
そう笑うと、季優はあの女…九重 萕には注意した方がいいと4人に伝えた。先程の戦いを見ただけでも、あの人は膨大な魔力と戦力を持っていることは一目瞭然だから、と理由を足した。要もこくこくと頷いており、かなりの強敵であったことを示す。あの顔は覚えておいて損はない…と判断した紅羽は、ふとメニュー画面を開いて時間を確認した。
「あれ、もう結構時間経ってる?」
「あぁ、いえ…あくまで休憩なので、そろそろ旅館に戻っといた方が良いかと思っ…あら…?」
『およ?旅館からのメールを受信したよー!内容は、[先日のミッションの報酬額の計算が完了したので、ちょうどいい時間に旅館にお戻りください。]だって〜』
「お、おいくらになるんだろ〜」
瑠愛がワクワクしながら言うと、要は季優に「先輩は、どうしますか…?」と聞いた。季優は少し考えた後、付いて行って外で待つ、と伝えた。了承した他のメンバーは、早速旅館へ戻っていった───
旅館へ戻ると、美桜都はちょうど入口目の前のカウンターにいた。紅羽達に気が付いたのか、彼女は笑みを浮かべながらお辞儀をした。
「おかえりなさいませ、皆様。メールでお伝えした通り、報酬額の計算が完了いたしました。また、依頼申請法に基づき、本日でこちらでのミッションは終了です。2日間誠にありがとうございました。」
「いえ、京さんの力になれたのなら幸いです。」
「ふふ、ご丁寧にありがとうございます。では、報酬額は…3等分、でよろしいでしょうか?」
『あれ、もしかしてボクのこと数えようとしてる?』
突如紅羽のメニュー画面が開き、紫音が首を傾げながら聞くと、美桜都は苦笑しながら頷いた。すると、紫音は『基本お金は使わないから3等分で良いよー』と返した。どうやら、買い物はその時入っているメニュー画面の金額を使うとのこと。あまり買い物をするタイプではないといいな…と紅羽達が思っていると、美桜都は報酬を3人に送信した。
「では、皆様に報酬額12万円を3等分して送信しましたので、後程ご確認を。それと…本日のお宿はどうしますか?千成街へお帰りでしたら、お帰りの手続きを行いますが。」
「あー…どうする?このまま帰る?」
「そうですね…パーティの申請もやらなくてはいけませんよね?」
「確かに…先輩の加入申請…しなきゃいけないもんね…」
「では、お帰りの手続きをいたしますね。」
紅羽達が頷くと、美桜都は手際よく手続きを行った。宿泊料金はこの旅館から出しているらしく、親切な場所だ…と感心していると、気付いたら手続きが終了していた。
「では、宿泊のご利用、当旅館のミッションの受領ありがとうございました。どうか、ご武運を。」
微笑みながらお辞儀をする美桜都に紅羽達4人も礼をし、旅館を後にした───
旅館から出ると、扉の近くに設置してあるベンチに腰掛けていた季優が顔を上げた。
「おかえり。これで帰る準備はできたな。」
「はい、千成街に帰りましょうか。」




