前世メイド、仲間の役に立つために戦います。
「…先輩に…触らないで…!」
「…あなたには、用はないのって言ったでしょう!?」
「【シレーヌの大波】、発動…!」
「【アンテルプルテ】!」
テラス席付近では、盾と傘、2人の激しい銃撃戦が始まった…その時、紅羽と瑠愛はと言うと。要と列車で出会った白髪の女性が戦っているのも知らず、頼んだお茶やスイーツが来るのを店内のソファでのんびりと待っていた。
「和菓子なんて久しぶりかも〜紅羽は?」
「私も…久しぶりですね。前世にいた頃、数回ですが和菓子を作ったことありますけど。」
「え、作ったの!?いいなぁ〜、私も紅羽の作った料理とか食べてみたい〜!」
「では、パーティをあと2人増やさないとですね。どこかで作れるのならばまた別の話になりますが。」
「そこはまぁ、何とかなるって!」
「すぐ見つかるといいんですけど…」
そんな他愛もない話をしていると、店員が紅羽達の番号を呼んだ。確認をされつつ受け取り、テラス席への入口まで来た瞬間。ドカン!!と大きな爆発音が響いた。入口から少し顔を覗かせると、外では見慣れた顔と見たことがある顔が銃撃戦を行っていた。和菓子とお茶が乗ったトレーを落とさないように気を付けながら、2人はテラス席へ急いだ。
要と紫音が待っていたであろう席にはメニュー画面が浮かんだままであり、そこには紫音が心配げな顔をしながら銃撃戦を見守っていた。トレーを置き、紫音に何があったかと問うと、紫音はパニックとは程遠い、冷静な口調でこれまでのことを話した。
『えっとね、要の言う先輩って言う人が見つかってね…あ、この人なんだけど。それで、あの今傘持ってる方の人がこの人を連れ去ろうとして…それで、要が今必死に阻止してる、って感じ!』
「うええ、何か大変なことになってる!?っていうか、君は大丈夫だったの!?」
「ああ、俺は全然。だが、あの傘の女、本気で俺を連れ去ろうとしていたのはすぐに分かった。…俺の話はいいから、要を助けてやってくれ。このままでは要の魔力が尽きてしまう。さっきから何回もスキルを使ってるからな…」
「そ、そんなに…!?紅羽、どうやって助け…紅羽?」
「…魔力向上まで、あと少しっぽいです。魔弾を撃つか、要さんを回復すれば…」
羽ペンの隣に揺れている雫型のストラップを見ると、中に入っている液体の量が3分の2以上を占めていた。昨日の依頼で、瑠愛は疲れているであろう…そう考えた紅羽は、要に向けて四角を描いた。
「【ディーオの恩恵】、発動!」
どぷん、どぷん。
その瞬間、ストラップの液体は満タンになり、紅羽の足元に赤い魔方陣が現れた。要と女性の元へ走りながら右手にハンマーを顕にし、一気に跳び、女性の傘目掛けてハンマーを振り下ろす。間一髪で女性が避けると、先端変色症の特徴的な銀髪のサイドテールを見て女性は誰なのか一目で見抜いた。
「…あぁ、あの丁寧なお方。こんな物騒な物を使う人なんて、思ってもみなかったわ。」
「…私は、この力はパーティを守るためと思っています。仲間にその銃口を向けるのならば…これで、叩き潰します。」
ハンマーの持ち手をギュッと強く握るのを見て、女性は足元に黒い魔方陣を出現させた。「く、紅羽ちゃん…ここは私に任して…!」と要が言い、紅羽をテラス席の端へ促すと、要も足元にピンク色の魔方陣を出現させた。今こそ…あのスキルを、試してみるんだ。いつも以上に大きな魔方陣を出現させた、その瞬間。
「【ラプソディー】!」
「【囚われの】…っ、【純血のブランシュ・ネージュ】、発動!」
女性が4つの黒い魔方陣から魔弾混じりの銃弾を発射させたのと同時に要がスキルを使おうとすると魔方陣は突然普段の大きさに戻ってしまい、咄嗟に要は第5スキルを発動させた。盾から勢いよく発射された銃弾と女性の銃弾が当たり、大きな爆発音が再び街に響いていく。白煙と共に女性は真上の屋根へ跳ぶと、日傘を差しながら溜息を吐いた。
「せっかく、主人様への捧げ物になると思ったのに…でも、あなた達とはまた会いそう。せめて私の名前くらいは覚えててちょうだい。私の名前は、九重 萕。」
「九重 萕…見た事ある顔だと思った。」
「先輩…?」
「九重 萕、東都では有名な旅占い師。その異質の特殊能力【前世覗き】で占う結果は、必ずと言ってもいいほど当たる…ってな。」
「そう、だからあなたも私の占い、当たったでしょう?そこの2人も、私の占い結果忘れないでね。じゃあね、また会いましょう。特に…そこの坊や。」
萕が黒い魔方陣と共に姿を消すと、要は装備を解き私服姿になると大きな溜め息を吐いた。確かに、あの人の占いは当たった…でも、先輩を狙う人なんて。
「ありがとうな、要。俺のこと、守ってくれて。」
「い、いえ…!紅羽ちゃんも、こっちに来てくれて…ありがとう…」
「どういたしまして。私の力が役に立ったのなら幸いでございます。」
「よーし、とりあえず落ち着いたし!頼んだの食べよー!」
そう瑠愛が元気よく言うと、4人は席に戻った。
和菓子を食べながら先輩と呼ばれる男性の自己紹介が行われた。名前は雫石 季優。刀弓使いと呼ばれる剣士とアーチャーの複合ジョブであり、今はミッションをやりながらパーティを探している状態らしい。紅羽が紫音に複合ジョブについて聞くと、Webサイトのようなものを表示させながら説明を始めた。
『魔法使いよりかは僅かに少量、もしくは同等くらいの魔力を持つ人だけがなれるジョブのことだよ!季優みたいな刀弓使いの他にも、魔法使いと剣士の魔法剣士とか、厳密には違うけど紅羽のヒーラーと重戦士みたいな感じかな!』
「さすがAI、何でも知ってるな。」
『ふふーん!あ、そうだ!季優、このパーティに入りなよー!』
「…え、いや、女性だけのパーティにいきなり男が入るのもどうかと…」
『え?ボク男だよ?』
「「「「…え?」」」」
『ん?』




