前世メイド、皆様とお昼休憩に行きます。
「ええー、無差別殺人とか…何でまたそんな…しかも未成年とか…」
なかなかショッキングな内容のニュースを見てため息を吐いた瑠愛は、気を紛らわすために作業をしていた机に置いてある緑茶を1口飲んだ。ふぅ、と軽く心が落ち着くと、カウンターに美桜都が戻ってきた。
「お疲れ様です、杠様。何か欲しい物はありますか?」
「特にこれといって…あ、さっき読んでたんですけど、あの雑誌は一体どこから…?」
そう言って先程読んだ雑誌を指差すと、美桜都は「ただの情報収集用ですよ。」と軽く返した。何故前世の時間軸の情報を…?と疑問に思うと、美桜都は雑誌を手に取りながら口を開いた。
「この世界の近代発展が著しい中、前世の世界はどんな発展や出来事があるんでしょう、と思うと読んでいて面白くなってくるんですよね。…あぁそうだ、杠様。他の方々の作業が終わったらしいので、杠様も終了にしていいですよ。あとは私がやりますので。」
「え、でも、ここまで来たのなら…」
「いえいえ、ここまでやってくれたからこそですよ。昨日は観光が出来なかったのでしょう?お昼ご飯も兼ねて、皆様といかがでしょうか?」
「…では、お言葉に甘えて。ありがとうございます!」
勢いよくお辞儀をし、瑠愛は紅羽や要、紫音が待つ部屋へ向かって行った。
部屋に続く襖を開き、瑠愛はニコニコと音がしそうなほど満面の笑みを浮かべながら元気よく「ただいまー!」と言った。「おかえりなさいませ、瑠愛様。」と返し、お茶を注ごうとした紅羽に瑠愛は昼食について聞いた。急須をそっと机に戻すと、紅羽は「ちょうど要さんと話していたんです。」と口を開いた。
「京さんから…お昼は外食でもいかがですか、って言われて…それで、紫音ちゃんに調べてもらいながら…話してたの…」
『ボクの調べによると、この旅館から20m離れた所にある食事路っていう商店街みたいな所にある飲食店はどれもハズレがないらしいよ!』
紅羽か要のか分からないメニュー画面の中で食事路のサイトを持ちながら紫音は言った。和食、中華料理…洋食もあるらしいが、中華料理店が多いとのこと。だが、先程まで頭を働かせていた瑠愛は、今は定食よりも甘味が欲しい。その事を言った瑠愛に、紅羽は笑みを浮かべながらこう返した。
「では、昨日は瑠愛さんが1番活躍してましたし…ご褒美、という括りで甘味処でも行きますか?」
「え、いいの!?」
「わ、私も…賛成…!瑠愛ちゃん、昨日1番頑張ってたから…!」
「え、でも…紅羽も初めて、魔弾撃てたし…それを言ったら、紅羽にも記念?みたいな感じで行ってもいいんじゃ…?」
「そんな…私よりも瑠愛さんですよ。不得手の物があっても、立ち向かったのは瑠愛さんですから。」
「じ、じゃあ…お言葉に甘えても、いいのかな…?」
少し照れながら言うと、紅羽と要はうんうん、と頷いた。紫音も評判がいい甘味処を探し終えたらしく、3人は食事路へ向かった。
食事路の薬膳粥専門店の隣に紫音が調べた甘味処はあり、早速3人はメニューを見た。団子、お汁粉、寒天…様々な和菓子が並んでおり、3人は悩んだ末それぞれ頼んだ。その後、紅羽と瑠愛は受け取り係、要と紫音は場所取り係と決め、要と紫音は陽の当たるテラス席で待機した。
『それにしても、10月終盤だってのに最近は暖かいよね〜今日も快晴、過去の気象データを見ると…もう数週間は晴れ続きなんだね?』
「あ、確かに…最近、ずっと暖かいから…逆に、誰かが何かした、って噂も…あるらしいよ…?」
「気象変動能力…ありうるな。俺が気付かない内に、そういうことを考えられるようになったんだな…要。」
「…え…?」
聞き覚えのある声が聞こえ、要が後ろを振り向く。そこに座っているのは、あの時玄関で見た男性…要の会いたかった先輩だった。なんで、なんでこんな所に、いや、そうじゃない。今なら足も、口も動く。やっと、やっと。
「…や、やっと…会えましたね、先輩。」
要はそう笑みを浮かべながら言った。男性も微笑みながら「あぁ、やっと、会えた。」と返した。だが、その言葉が紡がれた直後、男性の結われた紺色の長髪に何者かの手が触れた。要はその方向、テラスの手すりの方向を振り向くと、そこにいたのは見覚えのある女性だった。
「あ、あなた…は…列車で、会った…」
「ごきげんよう。列車以来ね。…ごめんなさいね、あなたには用はないの。用があるのはあなた。」
「…俺、ですか?」
そう、とあの時と同じ笑みを浮かべた女性は、男性の長髪を指で遊びながら用件を話した。
「ご主人にね、魔力を多く持っている人を連れて来いって頼まれてるの。そしたら、複合ジョブのあなたがいた。仲間に旅館の床を小細工してもらったから、想定外の出来事もなく時間通りにあなたが来たってわけよ。」
「…予知能力の使い手がいるのか…?」
「なかなか頭がいいじゃないの、あなた。これにはご主人も喜びそうねぇ。ご主人の所に、一緒に来ましょう?ねぇ、坊や…っ!」
女性が男性の手を取ろうとすると、要は女性の手を叩いた。女性が手を引っ込めたのと同時に、要は戦闘用の装備に変わり、右手にピンク色の魔方陣を浮かばせた。
「…先輩に…」
右手にいつもの大きな盾が現れる。盾の持ち手を掴んだ瞬間、いつも下がっている眉を少し上げて、強くこう言った。
「先輩に…触らないで…!」




