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前世メイド、ミッション頑張らせていただきます。

列車で出会った謎の銀色の目を持つ女性の言葉を頭の片隅に置きつつ、紅羽(くれは)達3人は水蓮街(すいれんがい)の駅を出た。そこに広がっていたのは赤や黒、茶色の建造物や、和風だったり中華風の街灯が並んでいる宿場街だった。和洋折衷(わようせっちゅう)ならぬ、和中折衷(わちゅうせっちゅう)のようだ。事前に旅館の位置は聞いており、その情報を元に3人は旅館を目指して歩いていった。

駅から歩いて数分、宿場街の一角に依頼元の旅館はあった。どちらかと言うと和風強めな外観であり、達筆な文字で【旅館 琥珀】と看板に書かれていた。紅羽は茶色い扉を開き、先に瑠愛(るあ)(かなめ)を入らせた。やはり、前世の仕事が抜けないのだろう。そう紅羽は1人で納得し、2人が入った後に自分も旅館の中へ入った。旅館の中は茶色やオレンジが多く、旅館の名前である琥珀は黄色い宝石なのでその名の通りとも言うべき内装だった。目の前には大きなカウンターが置いてあり、その奥には1人の黒髪の女性が立っていた。女性の存在に気が付いた紅羽はカウンターの前へ行き、女性に声をかけた。


「すみません。私達、千成街(せんなりがい)でこの旅館のミッションを受けた者ですが…そちらにお話は伝わってますか?」


「はい、伝わっておりますよ。よくぞいらっしゃいました。津々楽(つづら)さん、(ゆずりは)さん、胡桃沢(くるみざわ)さん。」


そう言うと、黒髪の女性は丁寧なお辞儀をした。紅羽達も釣られてお辞儀をすると、彼女達は順に自己紹介も兼ねて名前とジョブを言った。女性は頷きながら聞き、3人の紹介が終わると彼女も簡単に自己紹介をした。

名前は(かなどめ)美桜都(みさと)。この旅館の女将であり、主にチェックイン・チェックアウトの受付や依頼所へミッションをお願いしたりしているらしく、かなり忙しいらしい。料理を作る人や掃除当番は別に数十人はいるが、それでも大変なので今回ミッションをお願いしたとのこと。自己紹介を終えた美桜都は、思い出したかのように3人に聞いた。


「そうだ、もし皆様の日程等が大丈夫でしたら、ミッション内容外の事も手伝ってほしいのです。と言っても、内容は危険なものではありません。廊下の掃除や簡単な表作りです。いかかでしょうか…?」


「どうしましょうか…?」


「特に他にミッションも受けてないしいいんじゃない?要ちゃんはどう思う?」


「私も…平気…ちょっと、楽しそう…だし…」


「はい、大丈夫です。ミッション中に観光も兼ねても良ければですが…」


「構いませんよ。では、早速ですがミッションの内容通り、スティールスライムの持つ宝石集め、よろしくお願い致します。3名用のお部屋は用意してありますので、終わり次第こちらにお戻りくださいね。」


ありがとうございます、と3人で頭を下げ、彼女達は旅館を出て行った。紅羽達の背後で美桜都はお気をつけて、と笑顔で見送った。

瑠愛の案内のもと、旅館を出て土産屋や行灯が並ぶ通りを抜け、紅羽達は明らかに洞窟ですと主張している大きな岩の様な崖の様なものにぽっかりと穴が開いたものに辿り着いた。メニュー画面を消し、その洞窟を目の前にして瑠愛は口元を引き攣らせた。


「…うん、だよね。普通に洞窟だよね知ってた…」


「ど、どうしたの…瑠愛ちゃん…?」


心配そうな顔を見せる要にそう聞かれ、瑠愛は「この際だから言うんだけどさ…」と少しもったいぶってこう言った。


「私…虫以外の飛ぶ生き物苦手なんだよね…蝙蝠とか、普通に鳥とか…」


「え、そうだったんですか?」


「うん…モンスターだったら特にね、唐突に飛ばれたらビックリするしスキルの照準ずれたりするから苦手…だからさ、要ちゃん、スティールスライム見つかるまで私より前で進んで…」


「わ、分かった…!見つかったら、伝える…」


「では、行きますか~」


紅羽のその発言と共に、3人は洞窟へ入っていった。

1番先頭に盾を浮かばせながら歩く要、その後ろに紅羽、紅羽の右隣に槍を持った瑠愛と言う並びで洞窟の中を歩いていく。どうやら瑠愛が鳥類を苦手としているのは確からしく、頭上に蝙蝠が飛び去っていくだけでビクッと肩を震わせている。これでちゃんとスティールスライムの宝石を持って帰れるのだろうか、と紅羽が不安になっていると、突如要は足を止めた。何事かと紅羽と瑠愛は盾の両脇から前を見ると、そこには大きめのスライムが4体おり、進行通路を塞いでいるのだ。要曰く「体に岩がくっ付いてないからただのスライム」らしく、彼女は紅羽と瑠愛に倒すかどうか聞いた。


「倒さないと通れませんよね、この幅だと…」


「じゃあ倒さないとね…!要ちゃん、援護よろしく!」


「う、うん…!」


一気に瑠愛は前に行くと、立ちはだかるスライムに槍で攻撃していく。要も後ろから紅羽を守りながら盾で攻撃を弾きながら発砲していく。そんな中、瑠愛は気付いた。このスライム…物理よりも魔法の方が早いのでは、と。早速試そうと思った瑠愛は、要に声をかけた。


「要ちゃん!このスライム、魔法の方がすぐ倒せると思うからちょっと後ろ行ってー!」


「わ、分かった…!」


左手は盾の持ち手を、右手は紅羽の左手を掴みながら要は後ろに跳んだ。紅羽もふらつきながら何とか立つと、瑠愛は自身の周りに黄色い魔法陣を4つ浮かばせた。パチンッと指を鳴らすと、瑠愛はこう叫んだ。


「イッツ、ショーターイム!」


瞬間、魔法陣から出たのは炎だった。勢いよく燃える炎に太刀打ちできず、スライムはじわじわと溶けてゆき最終的には青い光と共に跡形もなく消え去った。スキルを使ってないので数個素材が入ったのをメニュー画面で確認すると、瑠愛は笑みを浮かべながらブイサインをした。


「お見事です、瑠愛様。」


「普通のスライムは炎に弱いって聞いたことあったから、試してみて正解だったよ〜♪」


「瑠愛ちゃん、すごいね…!」


「ふふーん、私の属性魔法は凄いんだ、〜っ!?」


そう途中で言いかけると、瑠愛は大層驚いた顔で(1番近かった)紅羽の背中に隠れた。何事かと前を見ると、先程のスライムや瑠愛の炎で驚いた大量の蝙蝠が前から頭上を飛び去っていったのだ。こんなに蝙蝠がいたのか…と思いつつ、紅羽は「大丈夫ですか?」と瑠愛に聞く。瑠愛はひょっこりと紅羽の背中から顔を出すと、涙目且つ小声でこう返した。


「…早く、素材取って外出たい…」

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