動き始めました
この章から本格的に物語が進みます。
今日は全部で二話あります。
魔法属性鑑定からはや二年が過ぎた。
俺が月属性と分かってからは武術の時間が増えた。将来的にはどっちもできるようになりたいので、ありがたい話ではあるが、周りの反応などを見るに、魔法が不利そうなので武術を主体に... との考えなのだろう。
周りの反応と言えば、サーシャ母さんを中心に俺を蔑んでいるのが数人いる。大方そっちの陣営ってことだろう。
反対にマリーナ母さんやエイデン父さん、エリック兄ちゃんたちは今までと変わりなく接してくれる。ありがたや~
そして、俺はというと魔法の時間はあえてこの世界で一般的なイメージを使って魔法を行使している。
あくまでも使えない魔法を演じなければならないからだ。
初めて、両親たちの前で魔法を使った時はかなりドキドキした。月魔法の本当の力がばれたらどうしよう、と気が気でなかった。
ぶっつけ本番で「この世界のイメージをあえて使って魔法を行使する」ことを試してうまくいったど...
本当なら確証のないものを使うのは避けたい。これから本当の月魔法を隠していくにあたって課題が見えた瞬間でもあった。
今日は俺専属の従者と騎士を決める日である。従者はなるべく近しい年齢から、騎士は個人が気に入った者を選ぶのが常識である。
騎士には種類が2つあり、王城に籍を置き、数年ごとに赴任先と王城を行き来する、王立騎士。
貴族個人が雇い主である、私有騎士がある。
ちなみに騎士は資格職扱いで、騎士学校を卒業しないと騎士を名乗ることは許されない。
ハンターではなく騎士になる道もあるにはあるが、私有騎士になった場合雇われ先があるか微妙なことと王立騎士は自由さに欠けることから選択肢から外した。もし仮に、アンガー家で雇ってくれたとしても出戻りの次男なんぞ争いの火種になりかねない。
ちなみにそれぞれ1人ずつである。
裏庭に行くとエリック兄ちゃんとエイデン父さん、マリーナ母さん、セバス、メイと数人のメイド、騎士と思わしき鎧を身にまとったのが13,4人、従者候補と思わしき子どもが3,40人ほどいた。
俺も子どもじゃないかって? 俺は前世含め20年以上生きてるから大人なのっ!
さてさて、良いのはいるかな?
「ディーン。君を呼んだのは他でもない。
今日は、君に従者と騎士を選んでもらいたい。」
「あなたが気に入った人を選びなさい。
あ、勿論セバスとメイはダメよ? 」
エイデン父さんとマリーナ母さんにそう言われてズラリと並んだ騎士、従者候補たちを見てマリーナ母さんに声をかける。
「ねえ、マリーナ母さん。
ここに居る人たちは鑑定してもいいの? 」
「ええ。勿論いいわよ。」
マリーナ母さんはそう微笑んだ。
エイデン父さんたちも特に何もなさそうである。
なので俺も笑みを返す。
これでマリーナ母さんたちを鑑定しても文句は言われない。
***
“ここにいる人たち”の‘ここ’は当然裏庭を指す。しかし、マリーナ母さんに聞く前に騎士・従者候補たちに目を向けたことでマリーナ母さんたちのなかでは‘ここ’は俺の目の前と勘違いしたのだ。
そもそも‘ここ’に似た代名詞はどのような言語にも存在し、どの言語でも自分から近い範囲をこ~ 、
目視できる範囲をあ~ ないしそ~ 、目視できない範囲をそ~ ないしど~ と区分する。
例) こっち ー あっち ー そっち ー どっち
また、代名詞は一度出てきた名詞の代わりに使用するものの総称である。これが文字で書いてある分には混乱が少ないのだが、会話の中に出てくるとその厄介さが跳ね上がる。
特に今回、俺はあえて“ここ”という限定を避けた表現をしたからなおさらである。
貴族なんだからそれぐらい見抜けないのかって?
この世界の貴族たちはこういった言葉遊びを嫌う傾向にある。
そもそもこの世界の貴族の役割は内政をすることよりも魔物を倒すことである。なかには例外もいるが、多くの貴族は内政を別の者に任せている。何なら魔物討伐に全力を注ぎ、全く内政をしない貴族もいるらしい。
ちなみに我が家はそこそこ内政に関わっている貴族である。
***
マリーナ母さんのお墨付きをもらった俺は目の前の騎士・従者候補たちと同時に周りに居る人たちを漏れなく鑑定した。
そして分かった。
この家族やべーわ。
何がかって? そもそも両親たちだけで無く、メイドたちや執事まで暗殺スキル持ってるって何よ!?
特にマリーナ母さん、あんたさては元アサシンだな? っていわれても不思議じゃ無いスキル・ステータス構成してるよ!!
今世の母親はアサシンでした♡ ってか? 嫌すぎる!!
次にマリーナ母さんとエイデン父さんが〈 読心 〉スキルが発動中なこと。ちなみに対象者は俺。
何してんの!!? 一応〈 読心 〉スキルと言っても分かるのは感情くらいなので、俺が何を考えているかまでは分からないのが救いである。
その他諸々ツッコミどころはあったけどこれ以上間が開くと疑問に思われかねないので本題の騎士・従者候補たちを鑑定していく。
まず、各々自分の身を守れることが第一条件である。
俺がいくら月魔法や地球の知識を秘匿しようと、いつかはばれてしまう。そうするとそこまで月魔法が強くなった秘訣を知りたいと思う人が強引な手段に出ないとは限らない。その時にある程度は自分で対処してもらわなければ困るのだ。
次に騎士は近接戦闘が得意な者を選びたい。俺には魔法という強力な遠距離攻撃手段があるため遠距離系の武術はそこまで必要で無いのだ。
さらに、様々な武器の扱いを教えられる人がいい。
最後に、従者には鍛冶スキルを持っているもしくは大きな適正がある者、ないし錬金スキルに大きな適正がある者、願わくば両方を満たす者が望ましい。
服飾関係やデザイン関係、料理関係は最悪公開してしまっても問題はないが、武器・防具はタイミングを見て公開したい。
鍛冶職人に頼むという手もあるが、従者ができたほうが何かと都合がいいのだ。
これらのポイントを踏まえて見ていくと...
灰色の髪をした男の子と、茶髪の男の子が従者候補、騎士候補は7人に絞れた。
これ以上は周囲からの知恵や人間性を見たいので鑑定だけでは分からない。
なので、まずは従者候補たちに声をかける。
ここでのポイントはあえてフェイクとして数人にも声をかけること。フェイクといってもあと一歩だった子たちだが。このあと一歩だった子たちも鍛冶スキルを持っている。
本当に従者を目指すなら俺が声をかけた理由を考えてほしい。それと事前にライバルたちの情報を集めるくらいはして欲しい。
「ジョンくん、ポーターくん、スミスくん、ロッカスくん、ケビンくん。
以上が従者の最終候補者だ。」
そう言った瞬間に肩を落とす者、喜びのあまり飛び上がる者、小さく喜ぶ者、動じない者に分かれた。
喜んでいた者たちもまだ試験の途中であることを思い出したのか元の真剣な顔つきに戻る。まあ、飛び上がった子たちはあと一歩だった子たちなんだけどね。
「それじゃあ、残った子の中でなんで自分たちが選ばれたか分かる者はいるか?
分かった者は手を挙げてくれ。解答権はひとり一回までとする。」
俺がそう聞くと途端に周囲がざわついた。候補から外れた子たちだけで無く、騎士候補、果てはエイデン父さんたちまでも驚いたような顔をした。
普通は聞かないことなのだろうが関係ない。俺は俺のやり方でやる。
残った候補たちを見ると一人、灰色の髪をした男の子が、おずおずと手を挙げた。
「お、 恐れながらディーン様。」
「おや、ロッカスくん。
本当にいいのかい? もし間違えたら君の人生が変ってしまうかもしれないけど。」
あえて意地悪な感じで返す。
「は、はい。
それでも、答えずに終わるよりも答えて終わった方がずっとマシですから。」
うん。おもしろい。
態度はこのままでいいかな。
「では、聞こう。 君の答えを。」
「はい。
ディーン様が私たちを残した理由は...
私たちが鍛冶スキルまたは錬金スキルを持っている、もしくは適正がある。そして、自分の身を守れる以上に武の腕が立つからではないでしょうか。」
「ほう? そう考える理由は? 」
「はい。まず、私は残っている候補者だけでなく全員の得意、不得意は最初の試験の時に把握しました。そして、鍛冶スキルもしくは錬金スキルに適正のある者、例えばそこのリィーヴェであっても候補から外れています。
そうであるなら鍛冶スキルだけで無い何か別の条件があるかそもそも鍛冶スキルが判断基準でないことが分かります。
次に判断基準が鍛冶スキルか錬金スキルで無いとしたら、ポーターと私以外はスキルに共通点がありません。
一方、判断基準が鍛冶スキルや錬金スキルだけで無いとすると残った者たちには鍛冶スキルや錬金スキルだけでなく、少なからずは武の腕が立つという共通点がございます。
ならばこの人選になるのも納得でございます。」
「それだけではないだろう? ロッカスくん。君はまだ話していないことがあるだろう。」
俺がそういうとロッカスくんは目を見開いた。
「は、恐れながらディーン様。
これから話す内容は私の推測ですがよろしいでしょうか。
それと、二回目の解答になりますがよろしいでしょうか。」
完璧だ。
「許そう。申してみよ。」
「は。残った者たちを見るに、ディーン様が望まれる従者は願わくば鍛冶スキル・錬金スキルどちらにも適正があり、そこそこ武の腕が立つ者ではなのではないか、という事を話そうとしていました。」
「うん。ほぼ満点だ。
僕が求めていた従者は鍛冶スキル・錬金スキルどちらにも適正があって、武の腕がそこそこ立ち、
そして物事に恐れず向き合える、君みたいな従者だよ。」
「あ、あ゛りがとうございます! 」
そう言ってロッカスくんは頭を下げた。
だが納得がいっていない者が居るようだ。
「ディーン様!! なんでこいつなんかがディーン様の従者なんですか!!! 」
「ポーターくん。そう言うからには何か根拠があるのかい? 」
「はい。まず、ここに居る全員の得意・不得意を把握するなど不可能です!
次に、武の腕が立つ方がいいなら、こいつなんかよりも俺の方が強いです。
最後に、こいつの{ 鉱物生成 }ではろくな鉱物を出せません!! 」
{ 鉱物生成 }とは鍛冶に適正のある者が先天スキルとして授かることがあるスキルで、先天スキルとしては珍しく、レベル分けがされていないものである。生成できる鉱物は個人によって異なる。
ポーターくんは鉄と鋼を生成できるらしい。
一方、ロッカスくんはミスリルとマグネシウム、アルミを生成できるらしい。
この世界ではミスリルは一番魔法伝導が良い金属だが、銅よりも柔らかく、他の金属ないし鉱物と合金にすると持ち前の魔法伝導の良さが無くなる上、もろくなるというとても扱いづらい金属なのだ。
それに、アルミ・マグネシウムは地球ほど研究が進んでないためか 「実用に値しない金属」 と言われている。
「ふむ、ポーターくん。君は勘違いをしている。
まず、全員の得意・不得意を把握するなど不可能といったが、ロッカスくんは嘘をついていない
。これは私の鑑定スキルで確認済みだ。それに、全員でないにしろある程度の人数なら得意・不得意を把握するなど造作も無いことだ。従者ならばなおさらな。
次に、別に戦闘力など後々身につければいい話だ。全くできないというなら話は別だが。
そして、どんな鉱物を生成できるかなど関係ない。そんなつまらん理由で人を選ぶほど私は愚かじゃ無い。」
言外に「無礼だ」と言えばさすがに言い過ぎだと気づいたのか引き下がった。
「改めて、ロッカスくん。
これから頼むぞ。」
そう言って俺が肩をたたくと、彼はうやうやしく一礼するのだった。