三歳になりました。
俺が生まれてから3年が過ぎた。
赤ん坊だった時は色々大変だった。
この世界での母親とはいえ、見ず知らずの女性の乳房をしゃぶることは憚られた。
まあ、飲まないと栄養足りないし、疑問に思われるし... 結局は飲んだけどさ。
それと、こっちの言葉を覚えるのに大分苦労した。
なんせ新しい言語を母国語訳なしで覚えようとしているのだ。
本物の赤ん坊ならできるだろうが、エセ赤ん坊の俺にはハードルが高すぎた。
メイドさんが貼ってくれた五十音表みたいのが無ければ今だってしゃべるのがおぼつかなかっただろう。メイドさん、ありがとう!!!
ちなみにこの世界の文字は日本語とは違って文字の種類がいくつもあるわけではないので、文字表があればだいたいの本は読めた。
一応転生こそしたが、神様に会った訳では無いしチートだって持っているか分からない。
だから本が読めるようになるまでは大人しくしていた。
文字を読めるようになったらほとんどの時間を読書に費やした。端から見たら本当にヘンな子供だよ。
それに世界が違うから事あるごとに「なぜなに」を繰り返して、すごく迷惑をかけた。
最初はメイドさん、次は執事、その次は父親と母親、最後には全員であーでもないこーでもない、と考えていた。本当にご迷惑をおかけしました。
でもそのおかげで、この世界について色々知ることができた。
まず、この世界にはやっぱり魔法がある。
ネット小説では呪文を詠唱するパターンと呪文名をだけでいいパターンがあるが、この世界は基本的に前者のようだ。
基本的にはというのも、後述する魔法レベルやスキルと関連するからだ。
次に、ステータスについて。
この世界にはステータスも存在する。
だいたいの転生した人は歓喜するだろうけど、俺は少し怖かった。だって、何もかもを数値化、可視化するんだよ? それに場合によってはステータスは変動しないってこともあるし...。
まあこの世界がそうじゃないって知って安心したけどさ。
そして、この世界には魔物もケモミミも、魔族もエルフも存在するらしい。
また、この世界の魔物は自然発生するらしく、総じて国があるところは魔物が発生しない特殊な土地だという。
ちなみに、貴族は自国内の外に持っている領地もそうである。それは国を防衛する上で重要な場所だったり、交易する場所だったり、強い魔物が発生しやすい場所の近くだったりする。
最後に、スキルと魔法について。
スキルには先天スキルと通常スキルに分けられる。
先天スキルには極、究、絶、大、中、小、微の7つのレベルが存在し、通常スキルには1~10のレベルが存在する。
先天スキルは装備制限は無いが、通常スキルは10個までという制限がある。
また、通常スキルは後天的に所得可能だが、先天スキルは後天的には所得でき無い代わりに、先天スキルの方が強力な傾向にある。
そして、魔法は所持しているスキルによっては詠唱を破棄できたり、魔法の腕前次第では詠唱を省略できる。
さらに、先天スキルは生涯レベルが上がらないのに対して通常スキルは使えば使うだけレベルが上がる。ただ、本命のスキルの内容については書かれた本が無かったので分からずじまいだ。
そして、今日は俺の先天スキル鑑定の儀をするそうだ。
なんでもこの世界では3歳になると先天スキルを鑑定し将来の大まかな方針を決めるらしい。
例えば、魔法系のスキルがあれば魔法を学ぶといった具合に。
勿論、本人の希望が第一らしいが。
エイデン父さんに呼ばれ部屋に入る。
彼の隣に居る紫色の髪を肩に流しているのが俺の母、マリーナ母さんだ。
その横にいる金髪の美少年は俺の2つ上の実の兄、エリック兄ちゃんだ。彼には度々一緒に本を読んでもらって分からないところを教えてもらっている。ちなみに父は貴族なので第二夫人も存在する。
オレンジ色の髪を髪留めで一本にまとめた少し目つきのきつい女性が第二夫人、サーシャ母さんである。その一歩後ろにいる赤茶色の髪のややつり目の少女が俺の異母姉、イーシャ姉ちゃんで淡いピンクの髪の少年が俺の異母弟、サムだ。
エリック兄ちゃんとイーシャ姉ちゃんは同い年で、イーシャの方が早くに生まれたそうだ。サムは俺の1個下だ。
ただ、爵位で言えばサーシャさんの方が高いのになぜか第二夫人である。
そして、今日俺の鑑定をしてくれるのが執事のセバスである。なんでも彼は最高位の鑑定の先天スキルを持っているそうだ。変な称号が出ないかそこはかとなく不安ではあるが、その辺のよく知りもしない人にやってもらうよりもよっぽどマシである。
最後に、扉の近くにいる40歳くらいの女性がメイド長のメイとメイドさんたちである。以前歳を訪ねたら氷の微笑みを返された。だって、子供だからいけると思ったんだもん。
「ディーン様、心の準備はよろしいですかな?」
いつもの執事服ではなく厳かな衣装に身を包んだセバスが俺に声をかける。
「うん。大丈夫だよ。」
「では、『我、汝に与えられし道を主神に代って汝に記さん!』」
セバスがなんか叫んだ後、俺はうっすらとした光に包まれた。
その光はどこか懐かしい感じがした。
風の懐かしさに浸っていると、綺麗な女性の顔が一瞬見えた。
その顔は嬉しそうに微笑んでいるように見えた。
俺を包んでいた光が霧散すると、セバスの目の前にガラスのプレートのようなものがあった。
おそらくこれに俺の先天スキルが書かれているのであろう。
ドキドキしながらセバスの言葉を待つ。
「ディーン様の先天スキルは...
魔力増大〈極〉と〈究〉、魔法強化〈究〉、実体化〈極〉、身体操作〈絶〉、危機察知〈極〉、鑑定〈極〉です。」
そうセバスが苦しげに言うと辺りが静まり返る。
え? 俺のスキルってそんなに弱いの?
そんな意味を込めて縋るように父、エイデンと母、マリーナそして兄、エリックを見る。
三人とも普段なら絶対に見れないようなちょっと間抜けな表情をしている。
サーシャさんたちの方を見るとなんか苦しそうにこちらをにらみつけている。
え? 本当に分からない... 誰か何か言ってよ。
そんな俺の願いが届いたのか、父さんが我に返ったようにこちらを見て口を開く。
「ディーン! 」
あー、コレは「お前は我がアンガー家に相応しくない」とか言われるパターンだ。
さよなら、父さん、母さん、エリック兄ちゃん、メイドさんたち... 今までありがとうございました。
「ディーン! 凄いじゃないか! 」
ほふぇ?
「これほど数が多くて、それもこんなにレベルが高いなんて...
我が子のことながら信じられないよ! 」
マジで!?
てことは俺はまだこの家に居ていいの!?
「さあ、今夜はお祝いだ!!
メイド長!! 至急料理長に連絡を!! 」
「はい!!
あなたたち、これから急いで準備するわよ!! 」
「「はい!! 」」
メイドさんたちがメイド長の掛け声によって慌ただしく動き始めた。
その様子をぼーっと見ていると父さんとマリーナ母さん、エリック兄ちゃんがこちらに歩いてきた。
「ディーン、すごいよ!
あんなにたくさんの先天スキルを授かった上に全部高レベルなんだもん! 」
開口一番エリック兄ちゃんがそう言うと、
「ほんと、凄いわディーンちゃん!
でも、それに胡座をかいていたらダメよ。」
マリーナ母さんが褒めると同時に調子に乗りすぎないよう釘を刺す。
「うむ。先天スキルだけが全てじゃないぞ。
授かった先天スキルを活かすも殺すもディーン、おまえ次第だ。
精進しなさい。」
そして、エイデン父さんがこれからも頑張るように言う。
「矮小な身ですが、ディーン様がお望みであれば私が鑑定スキルをお教えしましょう。」
「うん。
頼むよ、セバス。」
最後にしっかり媚びるのを忘れないセバスだった。
全部今まで通りだ。
いや、これからもこのままだ。