お友達から
今日は二話投稿しています。
二話目。
貴族の子女だというのに従者ひとりも付けていない。
この家はバカなのかと言いたくなる。
なぜ貴族たちは自分たちの子供に従者・騎士を付けるかというと、子供が間違った道に進むこととトラブルを未然に防ぐためである。
トラブルというのも大半は婚姻関係である。結婚自体は身分に関係なくできるが子供が生まれたのならば話は変ってくるわけで。
家の了承が婚前にとれていれば問題ないのだが、とれていない場合は最悪、国を巻き込んだ争いに発展したこともあるそうだ。
そもそも貴族制を敷いているからには貴族の血には少なからずも価値があるわけで、その血を求めている者も多い。特に商人。
上手くいけば実家から援助を受けれるし、それがだめでも貴族へのコネができる。
さらに、もし何も得られなかったとしても人身売買(勿論違法)にかければかなりの値で売れるだろう。それが女ならなおさら。
ちなみに過去に同じようなことをやらかした貴族は財産没収の上、爵位を剥奪した上で王都への立ち入り禁止という超重い処分が下された。この話は貴族の間では知らない者はいないほど有名だ。
ぽっかりと空いたスペースでモソモソと食事をしているリサ・ファルツを目前にして言葉を失った。
なぜなら彼女の容姿がドストライクだったからだ。
きれいなブロンドを髪留めで一つに束ね、そこから覗くうなじが眩しい。
顔面偏差値が異様に高いこの世界だが、その中でも彼女はかなり上位に入るであろう。
失礼なことだが、心の底から彼女が孤立していてよかったと思った。
「失礼、そこのご令嬢。」
しかし、当のリサは気づいていなかった。ここ最近、誰かが自分に話しかけてくれる事など無かったのだろう。
果ては違う令嬢が「私ですか」と答える始末である。
「俺が話をしたいのはリサ・ファルツ嬢なのだが? 」
周囲の会話が止まった。幸い、この会場は広いので全員が注目するということは無く、近くの5,6グループにとどまった。
モキュモキュと咀嚼していたリサは、慌てて口内の食べ物を飲み込んだ。
やはりかわいい。ちょっと冷たそうな顔つきがまたなんとも…
「わ、私に何か... 」
「ああ。あまりにおいしそうに食べているのでね。
それはどこにあった料理ですか? 」
リサは自分の皿に目を落とした後、一つのテーブルを指した。
「あのテーブルにあった料理です。」
彼女が素っ気なく指したテーブルにはかなりの人が群がっている。流石にあのテーブルに突貫する勇気は無い。
けど、何か引っかかる。どこかで会った? いや、昔に会ったことがある?
だけど、どうも思い出せない。
この素っ気ない態度、一歩引いた感じ...
まさか、前世で会ったことがある?
この世界に転生してから出会った女性は数えるほどしかいない。なら前世で会ったことのある女性である可能性が高い。
もしそうならかまをかけてみるか...
「では、何かおすすめの料理はありますか?
何分このあたりの料理には詳しくないもので... 」
「どんな料理をお探しで? 」
ややめんどくさそうな顔を一瞬見せたがどうやら答えてくれるらしい。
「そうだなぁ。お腹にたまるようなものがいいな。
揚げもの系とか? 」
『揚げもの』は勿論、日本語で言った。
この世界の言語は英語でも、日本語でも無い。だから本当にこの世界の人間なら理解できない単語である。それに、日本人かどうかが分かる。
よほどマニアックな外国人で無い限り揚げものなんて日本語は知らないだろう。
さあ、反応はどうだ?
「揚げものですね?
それだと、あのテーブルにある白身魚のフライはおいしかったですよ。」
彼女も『揚げもの』と日本語を使った。それもかなり流暢な日本語で。
つまり彼女も元日本人だ。
目線を動かさずに周囲を見ると俺たちに対する視線は無くなっていた。大方、会話の内容が食事だけだったからだろう。
俺は彼女に一歩近づき、小声で声をかけた。
「あんた日本人だろ?」
もちろん日本語だ。
彼女はしまった といった顔をした後、小さく首肯した。
その反応を見て、俺は素早くポケットから折りたたまれた紙を彼女の手渡し、
「あのテーブルだね? ありがとう。」
と返事をして、白身魚のフライがあるテーブルへと向かった。
ちなみに、俺が渡した紙は 〈妖精の交換日記〉 という魔道具の一種で、どちらかが紙に書いた内容がもう一方の紙にも写るという優れものだ。この魔道具は普通の紙とは違うことがはっきり分かるように魔法透かしが入っている。
一般的な使い方としては、契約書や報告書などの重要書類に使ったり、手紙の代用として使われる。
***
リサのおススメ、白身魚のフライを取った後、元いたテーブルに戻るとクロム様やエリック兄さんに詰められたが、のらりくらりと躱しているうちにパーティーが終了する時間となり渋々解放された。
さてさて、今夜は大変だぞ。
部屋に戻るとシャワーを浴び、就寝した。
ロッカスとピーターが寝たことを確認し、周囲をしっかりと鑑定した後リサに渡した 〈妖精の交換日記〉 の片割れに日本語で
「こんばんは」 「ディーン・アンガーです」と書いた。
するとしばらくして、
「こんばんは、リサ・ファルツです」
と返ってきた。もちろん日本語だ。
「あなたは日本人でしたか? もし、よろしければ日本人だった時のお名前をお聞きしても? 」
「はい、私は藤井 美沙という日本人でした。」
藤井 美沙… もしかして
「もしかして、星斗高校 3年2組でした? 」
星斗高校とは俺の母校だ。
「そうですけど、あなたは?」
おっと、名乗るのを忘れていた。
「長野 望です。覚えてませんか? 藤井さん」
「長野くん!?」
俺と藤井さんは高校3年生の時同じクラスだったのだ。といっても特に親しかった訳では無いけどね。
「俺は浪人終わって一息ついてたら車にはねられてこっちに来たんだけど、藤井さんは?」
「私は友達に刺されてこっちに… 」
友達に刺された!? あまり深く聞くのはマナー違反かもしれないけど気になるな…
「なんか彼氏が友達と私に二股かけてたみたいで… 」
な、なるほど… なかなかヘビーな死に方で…
「藤井さんはこの世界に見覚えはある? 」
「さあ、漫画は好きだったけどこんな世界は見たことない。長野くんは? ゲームとか好きそうだけど」
「俺も無いんだよなぁ。」
少し雑談した後、俺は本題に入った。
「藤井さんはさ、今の生活辛くない? 」
彼女の身の上を聞いた時から気になっていたことだ。
「つらいよ。」
どれだけの思いがこの4文字に込められているだろうか。俺には簡単に共感できない。
「もし、もし藤井さんがよかったらだけど、俺と一緒に来ない? もしかたら俺たちは最強の魔法使いにられるかもしれない」
「一緒に来ないってどういうこと? 」
「俺、成人したら家から籍を抜こうと思ってるんだ。そして、ハンターになるつもりだ。
どれだけ辛い思いをしたか俺には想像もつかないけど、そんな辛い目にあった家のためにこれ以上なにかしたくないだろ? 」
「なんかプロポーズ見たいだね 笑笑」
「あ、ごめん。」
し、しくじったー!! 何言ってんの俺!
「じゃあ、お友達からで
おやすみー」
へ? ど、どゆこと? もしかして脈あり??
たしかに、高校の時もかわいいと思っていたけど、この世界でも惚れたけど...
「お友達から」ってどっちだー!!!!
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