出会い
今日は二話更新しています。
一話目。
ご近所さんへの挨拶が終わったので、買い物にでも... と思っていたのだが、エリック兄さんに挨拶していないことを思い出し、家から持ってきた土産を手に上級生の棟に向かった。一応、イーシャ姉さんにも土産をもってきたのだが、弟とはいえ女子寮に行っていいものか分からないので、ついでにエリック兄さんに聞くことにした。
寮の窓口でエリック・アンガーの弟であることを伝え部屋を教えてもらう。
エリック兄さんの部屋の前に立ち、ドアを二度ノックする。エリック兄さんの従者が返事をする。
ドアが開くと久しぶりに見た彼の従者の顔があった。この二年間で体は大きくなったらしく、彼の顔を見上げるのは今も、二年前も変らない。
「おや、ディーン様ではないですか。お久しぶりでございます。それと、ご入学おめでとうございます。」
彼はドアを開いて俺を見ると恭しく一礼した。
「ありがとう、モトー。
エリック兄さんは今居るかい? 」
「はい。どうぞおあがりください。
ロッカス、ピーター殿もどうぞおあがりください。」
彼に勧められるまま部屋にあがった。
部屋のつくりは俺たちの寮と変らないが、二年も住んでいるだけあって生活感が良い意味で出ている。
調度品も派手すぎるわけでもなく、落ち着いた印象を受ける。また、色合いも木目をそのまま生かしたものが多く所々にある小物がより際立って見えた。
「エリック様、ディーン様がおいでになられましたよ。」
「本当かい!? 」
ガタっという音とともにエリック兄さんが返事をする。
エリック兄さんにしては珍しく音を立てて椅子から立ち上がったようだ。
「久しぶりだね、ディーン。入学おめでとう。」
「ありがとうございます。お久しぶりです、エリック兄さん。
これ、お土産です。」
「これって、うちの領に本店があるマウーイの『プレミアム・THE焼き菓子』じゃないか!?
まさか並んだのかい? あの行列に? 」
店名と土産の中身を聞いて従者・騎士が軽く吹き出す。
「やだなあ、そんなことできるわけ無いじゃん。」
勿論、身分的な話をしているのではなく肉体的な話をしているのだ。
この店は朝一からとんでもない数の甘味を求めた獣たちがひしめいている。そのため、生半可な気持ちで並ぶと中級のハンターであってもボロボロになること必死だ。
ちなみにハンターギルドでは常にここの甘味を買ってくる依頼がそれなりの額で出されているらしい。ただし、受注条件は中級以上である。
ナチュラルにお茶が出されている。さすがはエリック兄さんの従者である。
「メイがため込んでたのを拝借してきたんだよ。」
俺の言葉にエリック兄さんたち、主従共々、口にしていた紅茶を吹き出した。
「ちょ、ちょっと何してるの?! 」
「そうですよディーン様!! このことが知られたら...!!! 」
エリック兄さんは詰め寄り、モトーは恐れおののいており、エリック兄さんの騎士・トーナは俺を化け物であるかのように見ている。
「なのでこれで兄さんたちも共犯ですよ? 」
「ねえ、モトー。僕の弟が年々たくましくなってるんだけど。」
「エリック様、ディーン様はたくましいなんて生ぬるいものじゃありませんよ... 」
二人がどっと疲れているのを見て見ぬ振りをしてそうだ、と切り出す。
「エリック兄さん、兄弟でも女子寮に挨拶に行くのはやめておいたほうがいいかな? 」
エリック兄さんとモトーは少し話し合った末、
「うーん。寮母さんに訳を話してもらって従者経由で渡すのがいいかな? 」
「わかった、ありがとう。」
「いいよ、いいよ
それじゃあまた後でね。」
「ええ。また後で。」
エリック兄さんの部屋を出た俺たちはイーシャ姉さんが住む寮に向かい、寮母さんに訳を話してイーシャ姉さんの従者を呼び出してもらう。
しばらくしてイーシャ姉さんの従者・ルウがやってきた。
イーシャ姉に似てクールで口数が少ない人だ。
「お久しぶりです、ディーン様。この度はご入学おめでとうございます。
それで、ご用とは何でしょうか。」
「ああ。実はお土産を持ってきたんだ。
だからイーシャ姉さんにもって。」
そう言って焼き菓子を手渡す。
ものがものだけに流石のルウも目を見開く。
「これは...
ありがとうございます、ディーン様。しかとお嬢様にお届けします。」
いささか力がこもった返事が返ってきた。
土産を手渡した後、俺たちはいそいそと自分たちの部屋に帰った。
***
なんやかんやで夕方になった。
今日はこの後上級生たちが開いてくれる立食パーティーが行われる。
この立食パーティーはただのパーティーではなく、自分たちの派閥の上級生たちとの顔合わせという意味も持っている。
また、このパーティーは貴族だけでは無く平民も参加するので、自分たちの派閥を拡大する意味もあるのだ。
なので、これをサボってしまうと他の貴族たちに一歩リードされてしまう。
一応パーティーなので衣装もそれ用のちょっと豪華なやつを着る。
これでも充分派手だと思うのだが、ロッカスとピーターに言わせればまだまだ地味な方なんだとか。
根は日本人なのであまり派手派手な服は着たくないんだが、一応貴族なので義務と言えば義務なので諦めは肝心だ。
着慣れない正装に身を包んだ俺たちはパーティーの会場に向かった。
ちなみに時間的にはまだまだ余裕がある。これは俺のいつもの癖で、大体待ち合わせや開始の20~30分前に着いてないと落ち着かないのだ。
「なあ、ディーン様。流石に早すぎないか? 」
「あはは。なんかギリギリだと落ち着かないんだよね。
それに、今日はこの学園の全生徒が参加するんだろ? なら混む前に着いた方が楽だよ。」
「それもそうだな。
うまい料理が取れなくなる。」
「「お前、仕事わかってる?! 」」
俺とロッカスの声がきれいにハモった。
そうこうしているうちにパーティーの会場に着いた。
どうやら先輩たちは準備をしていたらしく、来ていないのは新入生だけらしい。
周りを見ても、到着している新入生はまばらだ。
自分が一番乗りで無いことに安堵しつつ、知り合いが来ていないか探す。
「おーい。ディーン! 」
エリック兄さんの声が聞こえたので、声のした方を見るとエリック兄さんと彼の学友と思われる男子が数人立っていた。
「エリック兄さん。さっきぶりです。」
「はは。相変わらずディーンは来るのが早いよ。」
「お褒めにあずかり光栄です。」
と恭しく一礼した後、
「エリックから聞いた通り、面白い弟だな。」
確かこの人は...
「お久しぶりです、クロム様。」
シェブ家の次男、クロムだ。
エリック兄さんの入学式の時、挨拶したのを覚えている。
「ほお、俺を覚えていたか。
なかなかに優秀な弟だな。お前の所とは大違いだな、ベン。」
「あはは、痛いところを突かれちゃったな。」
この人は、バウのお兄さんか。
この様子だとバウが何かやらかしたのかな? あまり深く突っ込まないでおこう。
エリック兄さんやクロム様と談笑していたら、人が大分集まってきた。
しばらくして、パーティーが始まり料理に舌鼓を打ちつつ談笑していたら、視界の端に映った女の子に妙に惹かれた。
着ているものから辛うじて貴族だと分かるが、俺が着ているものよりも質素なのだ。
俺が着ている服は派手なのが嫌いな貴族用の服で、派手さを抑えつつも自分が貴族であることの主張をきちんとしている。だからこそロッカスに渋々とはいえ認められているのだ。
しかし、彼女が着ている服違う。よくよく見ればお高めの素材でできているが、デザインなどは普通の服とさして変らない。
なのに不思議と彼女に惹かれる自分がいる。
だが、エイデン父さんに連れられて挨拶した貴族の中に彼女は居なかった。
「エリック兄さん、あの子は一体何者なんですか? 」
エリック兄さんに視線で彼女の方指す。
しかし、エリック兄さんも分からないようだ。
そこに、クロム様が入ってきた。
「ああ、彼女か。」
「クロム様、彼女をご存じで? 」
エリック兄さんが聞く。
「知っているとも。
彼女の名はリサ・ファルツ、ファルツ家の長女だよ。」
「彼女が... 」
「ジロ、何か知っているのか? 」
「ああ。彼女は無属性なんだ。」
「珍しいな。それが彼女となn
まさか... ! 」
「そうだ。ファルツ家の人間はそのことをいたく気にしていてな。
彼女の兄弟、妹だけで無く使用人、果ては両親からもいない子・モノ扱いされているらしい。」
だから俺が挨拶に行った時、男の子しか紹介されなかったのか。
「だから彼女には誰も寄りつこうしないのか。」
そこにクロム様が入ってきた。
「それだけじゃ無い。
あの家は根っからの基本能力主義で、なおかつそれを他人にまで押さえつけてくるからたちが悪い。
さらに、貴族たちは属性差別を表に出さないが平民たちはそうじゃない。」
だから平民たちも彼女に寄りつこうとしないのか。
あれ? でもうちは「誰が何属性」なんて話題聞いたこと無いぞ?
その旨をエリック兄さんに聞くと、
「うちは色々特殊なんだよ」 と返された。
なるほど。
うちは特殊ねぇ...
なら、その特殊な家の奴がちょっと普通じゃ無い事をしても特殊ってことで済むよね。
自然に口角が上がるのが自分でも分かる。
「ディ、ディーン? 何かヘンなこと考えてない? 」
「いえ、エリック兄さん。すこし特殊なことを考えているだけですよ。」
そう言ってニッコリ笑った後一礼し、彼女 リサ・ファルツに向けて歩き出した。
ヒロイン登場回でした。
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