第6話「名前でマウント取られた」
「さて、俺の自己紹介は済んだ、の、で、お前らの自己紹介をしてもらう。そこの入口のお前!から横に行って折り返して最後までな」
いきなり指を差された入口近くの席の男子生徒は驚き怯えたような反応を見せた。可哀想に。
「え、は、えっと、ルドルフです!」
「はい、次!」
ゴードン先生の合図により、テンポよく進んでいく。私の番は......やっぱり真ん中ら辺かな!
今いっぺんに聞いても覚えられないなとか思ってたところで、金髪が長い名前を発した。え?何語?
「王子様がいるのか。こりゃ責任重大だな!」
先生は笑っているが私は笑い事じゃない。もう1回言って欲しい。
そんな願いも虚しく、次の人に移っていった。あ~......まぁ、家で聞けばいっか!誰かしら知ってるでしょ。
私の番だし。めんどくさいとこは後々!
「次!」
「はい!アイリーン。アイリーン・ワークテリアです!」
私が名乗ると教室の空気が少し変わった。王子を含む数人は何となく馬鹿にしたような感じで見てきて嫌な感じ。
違う何人か、名前が短かったから平民かな?はキラキラとした目で見てくる。
そんな中、1人だけ無関心そうな子がいた。長い緑髪でどこかぼんやりしている。よし、覚えたからね。名前は忘れたけど。
絡む上で1番面倒じゃなさそうと、彼に目をつけて私は「ほら次だよ!」と隣の子に声をかける。
すると、隣の女の子は慌てたように名乗った。
鴇色の髪をした少女の名前はミッシェル。この子も覚えた。
全員の自己紹介が終わると、先生は満足そうに頷いて言った。
「このクラスには戦士職向きの子も魔法職向きの子もいる。これは、得意な事が違う者同士で協力する事を学ぶためだ。と言っても入学したて、10歳のお前らが出来ることは限られてるけどな。仲良くしろよ?」
はーい、と応える私たちを見て、先生は告げた。
「ではこれで今日は終わりだ!クラスメイトと話して親交を深めるなり、帰るなり好きにしていいからな」
そして俺は帰る。と、先生は来た時と同じように斧を引き摺って教室から出ていった。そう言えばなんで引き摺っていたんだろう......。
私は緑の子に名前を聞こうと立ち上がった。のだが、目の前に金髪がいる。
「何か用ですか?」
返事がない。しかもなんかウザイ。
「ワークテリア[バカの代名詞]の娘が学園に何しに来た?」
「貴方にとやかく言われる筋合いはないですね」
まぁ、確かに私はバカなのでこいつの名前を覚えてないんだけど。
「さては私の名前を覚えられてないな?私はシャフツベリー・フォン・キャロライン・ラジニエラだ」
ドヤ顔だ。紛うことなきドヤ顔だ。ウザイ。
でもいい事を思いついた。
「じゃあお賢い王子はクラス全員の名前を覚えたんですね?」
「当たり前だろう?なんのための自己紹介だと思っている」
ほら、乗っかってきた。人の事を馬鹿にする割には単純じゃない。
「じゃあさ、ここの席の子の名前は?」
まずは隣の席を指差す。王子はドヤ顔で、
「ミッシェルだ」
と答えた。合ってるけど。いちいちドヤ顔なのがウザイ。
「じゃああそこの席の子は?」
私は緑髪のこの席を指差す。って、あー!帰っちゃってる......。話してみたかったのに。
「そいつはサクヤだ」
サクヤか。覚えやすくていいね。流石に本人に聞くのはどうなのかって思っちゃったよね。ありがとうなんとか王子。
「本当に覚えてるんですね!すごいですミックスベリー王子!!」
「誰がミックスベリーだ」
あれ、違ったみたい。ミッシェルが混ざったかも。
「これだからワークテリアは。お前なぞと同じクラスだなんて最悪だ」
うるせー。こっちだって嫌だよ。こんな嫌味なやつ。
もう相手にしないで帰ろう、と教室の扉を開ける。
そこにはお兄様が立っていた。迎えに来てくれたのかな?
「お兄様!」
私が嬉しそうな声で呼ぶとお兄様は微笑んでくれた。
「アイリーン、迎えに来たぞ。帰ろう」
「ありがとうお兄様!道がわかるか不安だったの」
ワークテリアがバカの代名詞なんてありえない。だってお兄様は頭がいいし、こうやって気が利くんだもの。
「あ、そうだ。アイリーンのクラスメート達」
私と手を繋いだお兄様が教室を覗き込んで言った。
「我が伯爵家に文句があるのなら、ドラゴンを倒してから出直して来い」
それだけ言って行こうか、と私に声をかけてくるお兄様。
もしや聞いてましたね?そしてちょっと怒ってますね?
だから私も言ってやることにした。
「お兄様お兄様」
「ん?」
「ゴブリンの鳴き声なんてちょっとうるさいだけですよ」
「ふっ、それもそうだな」
堪えきれずに吹き出した、という様子のお兄様の笑顔。これで機嫌直してくれたかな?
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