とある少年達の朝
登場人物
上原 命人 高3
宮野 誘人 高1
出雲 穹 高2
出雲 阿智 高1
朝。けたたましいアラームを掻き鳴らす携帯を止め、誘人は二、三回目を開けては閉じる。
重い体は未だ、布団にしがみつこうと抵抗するが、今日は月曜。
早く起きなければ。
低血圧にはこの毎朝の攻防が何よりも辛い。辛いが、同じ苦しみを知っている母のお陰で、朝食は登校中でも食べられるものが用意されている。
まぁ、言ってしまえばギリギリまで、誘人は寝ていることができた。
あと数分、あと数秒を繰り返し、結局誘人が布団を這いを出たのは、いつものように従兄が迎えに来る十分前になってしまった。
「誘人、お前落ちるなよ」
自転車の後ろ。命人の心配そうな声を聞き流しながら誘人は朝食を頬張る。
法的に普通自転車の二人乗りは 禁止 されている。
が、二人は毎朝の習慣としてこれを繰り返す。
繰り返して怒られたことはもうほとんどなくなった。
自転車が二人で漕げる特殊な物なのも起因している(因みにこの特殊自転車は二人乗りが法的に許可されている)のだろうが、警察が二人に大変世話になっていることもまた、関係しているのだろう。
……とはいえ、三日に一回は必ず注意はされるのだが。
「お前毎日言ってるけど、いい加減起きれるようにしろよ。俺居なくなったらどうすんだ」
「……あー……その時、考える」
「いや、今考えて。今」
風の音に混じって命人の声が聞こえる。
自転車をこいでいる間だけ、その特徴的な銀色の(本人は灰色だと言い張っている)髪をポニーテールに結んでいる。
風で舞うのが嫌なんだと彼は言う。
レンガ造りの道はアスファルトの道よりも漕ぎにくく、そして尻が痛くなる。
独特な凸凹はこの街の主要道路すべてに敷き詰められているので、学校への道は常に痛みとの戦いである。
……まぁ、三ヶ月で慣れてしまったが。
学術都市、東第二要港。
ここが自分達が住む街だ。
潮風の臭いが薄くなり、道が緩やかな坂になってきた頃、前方を行く路面電車から手を振る明るい金髪が見えた。
「はよ、阿智」
「はよー。今日は遅刻しなさそうだね」
阿智。出雲 阿智。
命人、誘人と同じ高校に通う二年生。
朝日に輝く金髪を揺らしながら、阿智は悪戯に笑う。
「お前もこの時間ってことは今日は調子よかったんだな?」
「まぁね~」
阿智はバイトをしている。
彼の兄と街でアパートを借り、二人暮らしをしているのだが実家からの仕送りはないのだ。
「穹はもう先行ったのか?」
「兄さんは未だじゃないかな?次のに乗るって言ってたし」
穹は阿智の兄だ。
白金色の髪に鉄面皮。阿智に言わせればクールビューティー。
彼もまたバイトをしている。
なんのバイトかは、知らない。
阿智と、穹は命人の紹介で知った。
元々命人の友人だが、今はもう俺の友人でもある。
四人まとめて、問題児とも言われることもあるが、そのうちの3人が生徒会なのはどうかと思う。
「命人」
阿智と話す命人の服を引き、俺は命人を呼ぶ。
「んー?どうした?」
「おっと!眠り姫のお目覚めかな?」
少しだけ見えた命人の顔に緩く首を振って背中に顔を押し付ける。
阿智に関しては後で締める。
時速50キロは出ている路面電車と同じ速度で並走する自転車。
風は強いし肌寒い。
俺は手を伸ばし命人にしっかりとしがみつくと、ペダルを漕ぐ足はそのままに暖かな体温を享受する。
「しがみつかれると、漕ぎにくいんだけどな」
「寒いんじゃない?」
「なるほど?」
ガタンと音がして、体が傾く。
驚いて顔を上げれば自転車は路面電車から離れていた。
「これで寒くないだろ。危ないから、手ぇ離してろよ」
そう言うと命人は漕ぐ速度を上げる。
路面電車の方を見れば、阿智が爽やかな顔をして手を振っていた。
学校までは後少し。
それでも俺はまだこの暖かな温もりが欲しくて、そっと命人にしがみつく手に、腕に、力を込めた。
或、もしくは常、そんな朝の情景
ーー誘人、ほら返す。
ーーなんで命人は俺の髪ゴムで髪留めるの?
ーーえ?だって用意すんのめんどいじゃん。