色に関する話など(主に絵の具)
今回は色について話をしていこうと思います。
私は絵の具の扱いが専門ですので、今回はその話が中心となります。
私が教育実習に行って意外だと思ったのが、案外みんな色の混色を知らない。と言うことです。
「緑」の作り方が分からない。そんな子どもすらいました。
もちろん緑は青と黄色ですが、絵の具の場合、いくつかの問題点が生じてきます。
青と黄色で緑といっても、ただその二つっぽい色を混ぜれば良いというわけではない、と言うことです。
基本的には混色して作った色よりも売っている色の方が綺麗です。
それは異なる顔料を各社できっちり配分して混ぜ合わせてあるからですが、それを知識無く適当に混ぜれば混ぜるほど、鮮度は落ちていきます。
例えば、ビリジアンと言う緑色があります。非常に濃い緑ですが、これより薄い緑を作たい場合、セルリアンブルーと黄色を混ぜるというパターンと、ビリジアンと黄色を混ぜる、実はこの2種類があるのです。
どちらが鮮度の高い緑になるかといえば、当然ながら後者です。
青い絵の具と黄色い絵の具を交ぜた場合、二つの顔料は化学反応を起こして緑に変化するわけではありません。粒同士が隣に並び合うことによって、目はそれらが混ざっていると錯覚し、緑に見えるのです。
と言うことは、顕微鏡で見れば青と黄色で作った緑は青と黄色です。
しかし、ビリジアンは元から緑の顔料ですので、それに黄色を混色すると緑と黄色が並ぶことになります。
すると、青と黄色で緑と錯覚するよりも、当然ながら緑と黄色、色相環によって近くと指定されている色同士の組み合わせの方が目は違和感を覚えません。
目は簡単に錯覚を起こしますが、それは100%騙されているわけではないのです。
それと同じように、色を暗く、明るくしたい場合、白や黒を混ぜることは基本的にオススメしません。
何故なら前述したように、絵の具でそれをやれば、白や黒と共にその顔料が並ぶことになるのです。
と言うことは、暗くなるのではなく、黒くなる。明るくなるのではなく、白くなる。
そのような変化になるわけです。
そのような理由で、紫を混色で作ることも実はあまりオススメしません。
青と赤を混ぜても綺麗な紫は作れないからです。なので、紫をどうしても使いたい場合は市販の紫を使用したほうが良いでしょう。
それとは逆の場合もあります。例えば肌色をつくる場合、よく茶色と白と言われていますが、本当にそれで良いのでしょうか。肌は下に筋肉があったり、血が流れていたり、静脈があったり、何層にも重なった結果、肌色に見えているわけです。
茶色(これは全て土です)と白を混ぜると、色数が少ないので、綺麗な白い茶色が出来ることでしょう。
しかし、肌色はそんなに綺麗ではありません。
逆に本の少しだけ別の色を混ぜることによって濁すわけです。
具体的に言えば、人肌の明るい部分は伝統的に黄土、朱、白で作ります。そして暗い部分はそれと違う色を使います。同じ色を暗くしただけでは濁って見えるからです。
基本的に暗い部分に白を混色した色は向いていません。前述した通り白くなるからですが、それとは別に、同じものであっても、少量の変化を加えることで色は豊かに見えます。
更に言ってしまえば15世紀までの主流だったテンペラという玉子やカゼインから作る絵の具を使う場合、肌の下地にテールベルトという緑土を使います。それをほんの少し透けるように肌色を乗せたり、逆に透けないように乗せたり。敢えてムラを作ることで、人の肌を肌らしく描いています。
なので、明るい緑を作るにも場合によっては深い緑と黄色、場合によっては青と黄色、それぞれを使い分けることで、少ない色数であっても多くの色を作り出すことが出来るのです。
実際にゴッホのある絵はたった6色。私は大体1枚15色程度です。
美術系大学の受験生は逆に30色以上を使うことが多いですが、それは余りに時間がない為です。
時間がない状態でより良く見えたら良いなと考えると、重ねる時間も取れないので、代わりに色数を増やすということになります。その為そのようになってしまいますが、段々と厳選されていきますので、趣味で始める方は使える範囲で用意するのが良いかと思います。
さて、混色をここまでメインで書いてきましたが、使う絵の具よって、支持体(紙やキャンバス)の扱いは違ってきます。
多くの人が最初に扱うだろう絵の具は水彩絵具ですが、水彩絵具の場合、描くのは基本的に暗い部分です。と言うのも、水彩絵具は白をあまり使いません。白は紙の白を利用して、暗い部分を主に描くことで鮮度を出します。
水彩絵具の場合、接着剤として利用されるアラビアゴムは何度でも溶けるので、基本的には紙に顔料が絡みつく様に絵の具を使っていきます。なので絵具は殆ど厚みを持たさず、紙が全面に出てくるということになります。そこに更に白い絵の具を重ねてしまうと、必ず白の色は紙と絵の具で違いますから、白い紙に白い絵の具で逆に鮮度が落ちてしまいます。
なので、白い部分は紙の白を利用します。
水彩画をよく描いていた画家といえばアンドリュー・ワイエスです。
「ワイエス 水彩画」で検索することをおすすめします。
しかし、アクリル絵の具、油絵の具、テンペラは少し違います。基本的にそれらはメディウムを、正に接着剤として利用します。支持体よりも絵の具が前に出てくるということになります。物理的に。
と言うことは、支持体の白は潰してしまっても絵の具の白でそれをカバーすることが出来ます。
なので、結果的にそれらの絵の具を扱う場合は白い支持体をそのまま使うことは減り、下色を乗せることになります。
そうなると、それらの絵の具が描きだすのは光と言うことになります。暗い部分、実際によく見えない部分をある程度簡略化し、光の当たっている明るい部分をメインに描き出すことで、リアルに見えるようになるのです。
例えばカラヴァッジオの『ナルキッソス』ですが、検索してみると分かりますが明るい部分しか描いていません。暗い部分はできる限り簡略化しています。明るい部分を隠してみて下さい。暗い部分は描かないの意味が分かると思います。
水彩のワイエスと油彩のカラヴァッジオと、両者ともしっかりと描いている部分とあまり描いていない部分がありますが、その差が魅力を作っている一つの要因となっています。
さて、少しばかり話がそれてしまったので、色の話に戻りたいと思います。
実際にデッサン等を練習する場合ですが、実は二つの方法があります。
この二種類の絵具の描き方にも共通したことですが、一つは白い紙に鉛筆で描いていく方法。
もう一つは少し暗い紙、藁半紙の様なスケッチブックが売っています。それに鉛筆と、白のパステルで描いていく方法です。
前者はとにかく形、輪郭を練習したいときに向いています。そして後者はもう少し立体的なものを描くのに向いています。
レオナルド・ダ・ヴィンチのデッサン等を見てもらえば分かりますが、実は真っ白の紙に描くというのはある程度新しい方法なのです。
昔は真っ白の紙を作るのが難しかったので当然といえば当然ですが。
真っ白な紙を使うのにも当然利点はあります。乗せた色の発色が良いのは当然、真っ白になります。
なので、どのような絵を描くかによって、支持体から考えてみる。
実はこれも意外と重要なことなのです。
何やら纏まりのない話のようになってしまいましたが、近いうちに何かしら描きながら解説していけたらな、と思っております。
最後におまけとして、それぞれの絵の具の解説をしていきたいと思います。
それではまた次回。
【水彩絵の具】
誰しもが一度は使ったことがあるだろう絵の具。
接着剤はアラビアゴム。
水分が飛べば乾くが、何度でも溶ける。
水でしっかりと溶き、支持体は白い紙を使う。不透明と透明がある。
水で溶くことで紙に顔料を絡ませることで表現する。少ない絵の具量で描ける為、無駄が出にくい。
【アクリル絵の具】
次に使ったことが多いだろう絵の具。
メディウムはアクリル樹脂。ガッシュは不透明。
水性だが、水分が飛び乾燥すると不溶性となる。
新しい絵の具の為、その使用方法は未だ研究中の段階。現代のテンペラとも言われる。
基本的には水で溶いて使用するが、水を使わない使用もある程度は可能。
水分を含んだ状態と乾燥した状態では色の濃さが大幅に変化する為、扱いが難しい。
また、盛りげる使い方も出来るが、当然水分が飛べばその分の体積が減る。
現状では丈夫な絵の具と見られているので、様々な技法が研究されている。
【油絵の具】
殆どが使ったことがないだろう絵の具。
メディウムは植物油と樹脂。現在は亜麻仁油や芥子油などの乾性油と樹脂を併用することで光沢のある画面を描き出す。
溶く為にはテレピン油(松ヤニの揮発性分)やペトロール(石油系揮発性油)を使用する為、臭いが出る。ペトロールの方が希釈性が弱い代わりに臭いによる人体影響が低く、完全揮発する為にほんの少しマットになりやすい。
基本的にはどちらでも良いが、テレピンの臭いが苦手な人はペトロールを推奨。
酸化重合の化学反応によって乾く為に、乾燥に時間がかかる。その代わり、乾燥後には体積が増え、色変化も起こりにくい。乾燥前にしかできない作業と乾燥後にしかできない作業がある為、乾燥時間が遅いことは大きなメリットにもなる。例えば光を白い点で表現する為には、乾燥前でなければ奥行にズレが生じてしまう為、乾燥前でなければならない。恐らく乗せてある絵の具と新しく乗せた絵の具が互いに溶け合う為、その様に馴染んで見えるのではないかと予想される。
これらの特性によって、リアルな表現が可能となる。
分厚く乗せられるイメージがあるが、堅牢性をきっちりと維持する為には一層の厚みは1mmまでと言われている。レンブラントの絵を参考にすると分かり易い。
ゴッホ等は、それを犠牲にしてでも表現を優先した結果、あの様な厚みにしている為、あれだけ厚みを持たせるのが普通と考えるのは危険。
完全乾燥と言えるのは1年ほどもかかるが、テレピンで溶けにくくなるのは最低2週間程が目安。出来れば半年と言ったところ。しかし、500年経っている絵画も未だ酸化重合を続けている。
丈夫な絵の具だと思われているが、扱いを間違えると非常に脆い。
例えばメディウムを追加せずに大量のテレピンを使えば、その揮発時にメディウムの接着成分すら飛ばしてしまう為、乾燥は早くなるが、数年でボロボロになる程に脆くなる。(ニコニコ動画でテレピンを大量に使えば早く乾く!と言っていたのを見たことがあります。ある意味当然ですが大事にするならやってはいけない)
市販であれば、必ずペインティングオイルと名前が付くものとテレピンを併用すること。
下層はテレピンを多くペインティングオイルを少なめに、上層に行くほどペインティングオイルを多く使うこと。(強い油の上に弱い油は定着しません)
そして、乾燥時は空気が通るようにしておくこと。半乾燥時に酸素供給を止めると永久に乾かない原因となる。
顔料が一粒ずつ完全に油膜で保護される為、空気中の成分で化学反応を起こす顔料を扱うことが出来る。
例えば、塩基性炭酸鉛のシルバーホワイトは硫黄に反応して黒くなるが、通常使用はもちろん、硫黄を含む硫化水銀であるバーミリオンと混色することも可能。その二つを混色して黒ずんだ場合、テレピンの使いすぎなど、扱いに問題有りとなる。
絵の具を作るのに顔料一粒一粒を油膜に包む為、内側の空気を完全に抜く必要がある為、絵の具を作るのに凄まじい時間がかかる。
【岩絵具】
油絵の具よりも更に使うことの少ない絵の具。
メディウムは膠。
顔料に特徴があり、少しばかり大きめ且つランダムに砕いた顔料を扱う。
その為、天然素材の顔料を生かした色彩がこれの魅力となる。
油絵の具とは逆で、下層は膠を多め、上層は膠を少なめにする。(膠は水で少し溶ける)
コラーゲンである膠は湯煎で溶かすが、60℃程度。
もし誤って沸騰させると本気でヤバい臭いがする為注意。
【テンペラ】
油絵の具が開発される前に使われていた絵の具。
卵や牛乳からとれるカゼインを利用した絵の具。めちゃくちゃ簡単に作れるので、やってみても面白いかもしれない。
油性と水性の中間であるエマルジョン。
卵の黄身のみ、白身と両方、白身のみ、卵と亜麻仁油等、様々なパターンが存在する。
基本的には新鮮な卵を割って、黄身のみを取り出し、酢をスプーン一杯入れて、最低5分かき混ぜばメディウムは完成する。出来れば酢1滴あたり5分。昔は酢でなく無花果の新芽の汁を使ったらしい。
画材屋、例えば世界堂オンラインなんかで売っているピグメントと記載されている顔料とこのメディウムを1:1の割合で指で混ぜれば絵の具の完成。
それを水で溶けば使用可能。
油絵の具のメディウムと混ぜたメディウムであれば、乾燥する前の油彩画面にのせることが出来る。これを混合技法と良い、16世紀辺りまでは多く使われていた。アルブレヒト・デューラーなんかの髪の毛が有名。
この場合は卵を瓶に一個入れて、5分振る、その2/3の量に線を引き、その更に2/3の量のダンマルバニスを入れ5分振り、残りの1/3にスタンドオイルを入れ5分振る。
混合技法の場合はテンペラは白のみ。
全く伸びのない絵の具なので、0号や面相筆などの細筆でハッチングと呼ばれる細かい線の集積で描いていく、鉛筆デッサンに近い技法を用いる。
一度に厚くのせると脆い為、何層も重ねて描く事になる。
有名な画家はボッティチェリやアンドリュー・ワイエス
日本画と同じく金箔を貼り付けることもある。
【フレスコ】
厳密には絵の具では無いが、非常に面白い技法。
メディウムは無し。顔料を水で溶いて支持体に描くだけ。
ただし、その支持体に秘密がある。
支持体は漆喰を使う。漆喰は乾燥時に表面に染み出し、薄く皮膜を作る為に、その間に乗せられた顔料の粉はその皮膜の中に埋まる事になる。
その為、自動的に頑丈な画面となる。
その代わり、乾燥するまでの数時間の間に全て描かなければならない。勿論のこと、下絵を描く事も出来ずの一発勝負。失敗すればその日の作業は全て剥がしてやり直しとなる。
なので、巨大な壁画を描く場合には幾つにもパーツを分けて分割して描くことになる。
有名な画家はミケランジェロ。
巨大な壁画はよく見れば、パーツ別に描いていることが分かる。特に頭は頭だけをその日に描いているので、その周囲を見ると分かりやすい。
そしてラスコー洞窟の壁画なども一応はこれに当たる。鍾乳石の出来方と同じ様な仕組み。
これの難易度を表す有名な話としては、ミケランジェロがダ・ヴィンチに対して、何度も描き直せる油絵など女の仕事。フレスコこそ男の仕事だと言ったとかなんとか。
ただ、一発描きのミケランジェロのフレスコ画を見てみると、それはなるほどと思わざるを得ない。
ダ・ヴィンチが頭を使って表現する万能の天才であれば、ミケランジェロは彫刻は岩の中にある形を取り出すだけ等と発言したり、感覚を使って表現する芸術の天才だということは紛れもない事実だろう。
そろそろ以前書いたことを更に詳しくということも考えています。
希望があれば油絵の具を描くのに必要な道具の紹介なんかも商品名付きでやっていこうかと思いますが、かなりコアになるので迷っています。