美術館の回り方
美術館、みなさん行くかどうかは分かりませんが、目を鍛えるには非常に有効な場所になります。
しかし、美術館には見方と言うものが実は存在するのです。
まず、企画展であれば巨大なものは大体東京と京都で行いますが、希に福岡や名古屋に行くこともあると思います。しかし、実は展覧会は場所によって展示の仕方が随分と違うのです。
もちろん行ける場所は限られていると思いますので、こちらの方が良いと言う訳ではありませんが、会場のセッティングによって、絵の見え方は全く違うものになると言うことです。
と、言うことは、ある美術館で一度見た絵も、別の美術館でもう一度見ると全く違う感想が出てくることになるということなのです。
例えば一番顕著に変わるのは照明です。18世紀以前の絵を展示する会場で白い明るい照明を使っている場所は、まず良く見えないことが多いです。現代芸術を主にやっている美術館にこういった作品を持ってきた時、その美術館は多くの場合そういった暗く色温度の高い照明は持っていないので、軽く見えてしまうことが多いのです。
例えばフェルメールの展覧会を見に行った時なのですが、そこは主に現代芸術の作品を扱っている美術館で、壁は真っ白、天井は非常に高く、ライトは白く、当然部屋自体が光を多く反射するので部屋がめちゃくちゃ明るい。そんな状態で見たことがあります。
これ、見え方以前に絵を痛めるんじゃないか? そんなレベルの照明でした。
実際にフェルメールを見た感想はやっぱり最悪で、せっかくのフェルメールがこれは無いと言ったものですが、後日同じ美術館に言った時には少し光量を落としてマシになってました。
とは言え、白い壁に白い照明で見る、特に17世紀以前の絵はあまり良くありません。
出来れば有色の落ち着いた壁にかかったある程度の暗さがある部屋で見るのが良いでしょう。
と、言うことで、一度見たときにそのような環境であった場合、近くで同じ絵を見られる機会がもしあれば、一度見たから良いやではなく、ぜひ足を運ぶと、以前とは全く違う見え方をする可能性があります。
これは特に油絵の話になるのですが、画集と実物は全く違います。
油絵は顔料のひと粒ひと粒が乾性油によってコーティングされていますので、顔料同士が触れ合っていません。どいうことかと言えば、コーティングしている周囲の油は不透明ではないので必ず透けるのです。と言うことは、写真を撮る際フラッシュを当てれば、下地の色が強く出ます。
多くの油絵を画集で見た場合茶色く見えるのに、実物を見ると非常に鮮やかな色をしていると言うのはそういうことなのです。
あくまで全ての絵は肉眼で見るためのものなので、画集ではその本質は見ることができません。
分かり易い例で言えば、レンブラント・ファン・レインですが、画集で見るレンブラントの作品は非常に大量の絵の具を使って盛り上げて描いているように見えると思います。
しかし、実物を見ると絵の具は全然多く使っていません。むしろ盛り上がりは1mm位しかないのではと言う程に少量で描かれているのに驚きます。
色で言えばルーベンスです。ルーベンスと言えば凄まじいデッサン力ですが、魅力はそれだけではありません。画集で見るとものすごく茶色く見えるルーベンスの絵は、実物を見ると輝いています。非常に鮮やかな色彩で、なるほど画家の王。と言える様な見事な絵画です。
アナログの絵と言うのは多くの印刷物の様に染料を紙に染み込ませているのではなく、顔料を接着剤で練って画面に引っ付けるという、ある種の半三次元の構造をしています。その為、ほんの少しの差異で目の錯覚を起こすことができます。
例えば、油絵で言えば、ほんの僅かに厚く乗せることで奥にあるように見せるとか、そんな技術もあります。油絵は日本の線を優先的に捉えるのとは違い、光を描くことを主軸にした絵の具なので、100%厚い所が遠いわけではないと言った難しい状況も凄まじく多く出てきますが、ともかく、それらの半三次元的な断面によって目は錯覚を起こします。なので、それらの本少しの差異を見るためには実物でなければなりません。
さて、前置きが随分と長くなってしまいましたが、美術館で、特に企画展を見るときに注意するポイントを言います。
ずばり、一番良い絵は70%辺りにあるので、最初からじっくり見ない。
先ずは大体どの絵がどの辺りにあるのかを把握して、一番目玉となっている絵のところまでスムーズに回ってしまいます。そして、その後に戻ってのんびりと見ます。
東京に来る超有名な絵の場合は時間制限などがあるのでそういったことが出来ませんが、出来る場所ではそうした方がいいです。
と言うのも、一つ目は人体の構造上、集中力は長く持たない。ということがあります。最初の方を頑張ってみた結果、一番良い絵を見る時に集中力が切れていては行く意味がありません。
大体の展覧会は、良い絵が1枚あればOKなのです。他の多くの絵から学ぶことよりも、その良い絵一枚から学ぶ事の方が遥かに重要です。
そして二つ目の理由ですが、少し進んで止まる、と言う事を繰り返していると、普通に歩き続けるよりも披露の蓄積が早いです。結果的に、最初からじっくり見ると言う方法は70%程にある一番良い絵にたどり着くまでに疲れてしまいます。それでは上で書いた通り意味がありません。
更に、絵を見るときですが、何度も言っていますが必ず全体が見える位置まで一度下がることが重要です。目の錯覚をしっかり起こす為にはその距離をとること。それがとても重要なのです。
もちろん近くで構造を見ることも重要ですが、明確に厚みの差が分かってしまう距離というのはその絵の本質を見ることが出来ません。
絵は離れて楽しんで、近くで学ぶ。これでいいのです。
次に絵の評価を見るときの基準ですが、私のおすすめは欲しいか欲しくないかです。
分かる分からない、とか、良い悪いと言った話をする場合、どうしても絵に関する知識も必要になりますし、目自体を鍛えられている必要が出てきます。
しかも、私自身現代芸術はよく分からないことが多いです。
話を聞けば納得するものの、それならもっと良い方法もあるんじゃない? と思ってしまったり。
そんな中、欲しい欲しくないであれば、少なくとも見る人にとってはその絵の本質をその人なりに判断することが出来ます。
今まで絵の描き方の解説を散々やってきておいて敢えて言います。
【感覚だけで選ぶのです】
絵は描く時には思考がとても重要、見る時には感覚がとても重要です。
もちろん双方100%ではありませんが、自分の絵を描く時にも、見ている最中は感覚を重視すると言うのが実は重要です。
それを磨く為の方法が、完全に本能に頼る【欲しい、欲しくない】で見る。です。
私は余りにも美しかったせいで、ルーカス・クラナッハの『聖ヨハネの首を持つサロメ』という皿に生首を乗せた絵を欲しいと思ってしまったことがありますが、そんなのでも良いです。
値段なんて気にする必要等全くないですし、その画家の人となりを知る必要も全くありません。
分かっても分からなくても、欲しいものはその人にとっては良い。
分からないけど欲しい。その感覚は重要。
それだけの話なのです。
さて、最後に美術館に行く時間ですが、企画展の場合は東京京都は必ず朝一です。
出来れば平日が良いですが、必ず朝一。そして始まってから一週間以内が良いです。
美術館の場合は終わりが近づく程に人が増えますので、後から行けばいいは止めたほうが良いです。
そうすれば東京の巨大な展覧会でも、目玉の作品を制限時間なしにじっくりと見ることが出来る可能性があります。
実際に私は何度もそれでじっくり見た後に、他の人から数秒しか近くで見れなかったという話を聞いています。
気になった展覧会があれば始まったらすぐ行く。朝一に。
それが快適に美術館を回る方法です。
そうすれば大体9時に着いてすんなりと入って、じっくり見て、11時に外に出ると行列が出来ている。
それを横目に見ながらあの絵よかったなーとすっきりと帰ることが出来ます。
と言うことで、今週は美術館の見方でした。