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模写と構図

 さて、今回は模写についてお話したいと思います。

 

 まず、模写はしたほうが良いか否か。

 答えは当然「した方が良い」です。

 理由は二つ。


 一つ目は、模写をすることで、その作者の感じ方や考え方が分かります。

 当然何も考えずにただ写そうとするだけでは効果は少ないですが、この人は何故この部分をこの様な形にしたのだろう。この様な色にしたのだろう。そんなことを考えながら描いていけば、作者特有の考え方を少しずつ理解することができます。

 そうすることによって、新しい視点を見つけたり、今まで描けなかった部分がいつの間にか描けるようになっていたりします。これは考えなしに描いていけば得られないもので、ただ輪郭線を追っているだけでも得られません。後々話す構図の時にも同じことを言うと思いますが、例えば複数の頭、手、足が一つの直線上に並んでいたり、机の形が別のものを指し示す形になっていたりと、様々なトリックが仕組まれているのです。

 そのようなことを理解せずに模写をすれば、当然作者が目的にしていたその線から外れてしまい、ただ輪郭線だけを無意味に追うことになります。これではただ写そうとしているだけで、模写にはなりません。

 しかし、そんなトリックを見ることが出来れば、それを自分の絵にも応用できるのです。


 二つ目の理由は、模写をしてオリジナルを描いてをやってみればすぐにわかると思いますが、自分の絵は本当にどうしようもないくらい下手だと気づくと思います。

 オリジナルだけを描いていても、隣に上位に当たる絵を置いて常に比較していれば分かりますが、模写の場合はそれが更にわかり易いのです。

 どれだけ贔屓目に見ても 参考先>>模写>>>>>自分のオリジナル となる場合が殆どです。

 模写は自分で描いたものですから、比較に妙な先入観が生まれません。

 でも、それに特にショックを受ける必要はありません。普通だからです。


 あえて強い言葉を使いますが、それまで絵に関わっていない人は本当にとてつもなく目が悪いので、なかなかそれに気づけないのです。

 それに気づく手段が模写、というわけです。


 では、気づいて何の意味があるのか。

 簡単に言えば目が良くなります。

 自分の絵だけを見て、他の絵だけを見て、とバラバラにしていても、いつの間にか目のレベルは自分の絵が基準になっていきます。その基準を引き上げていくことで、結果的に絵が良くなります。

 もちろん気づいたからといって手が動くかと言えばそんなことはないので、長期的な話にはなりますが。


 なので、模写をやるにしても、実は最後までやる必要はありません。

 目的はあくまで模写をすることではなく絵が上手くなることだと思うので、何かに気づいたらその都度オリジナルを描いてみれば、少しずつ変化が出てきます。


 ちなみに、最初はマスを引いて全く同じにトレースしてみるのも手で、敢えて計算しながら模写をすることによって、感覚だけではなく頭で覚えることもまた良いでしょう。

 もちろん細部を学ぶために完全なフリーハンドも良いでしょう。

 何を目的とするかによって考えていくと良いかと思います。


 ちなみに、私は本気で絵を描く前には必ず美術館に行きます。

 事前に最高峰の絵を目に焼き付けておくことで、自分の絵だけを見ていると下がってしまう可能性の高い視覚のレベルを事前に引き上げておくのが目的です。

 良い展覧会がちょうどやっていれば儲けもので、スポーツで言えば新記録達成の瞬間を見ている様なものなので、大きく役立ちます。美術は歴史上の頂点が500年以上残っているわけなので、そう言った意味ではかなり得な分野ではないかと考えられます。たったの1800円位で人類史の頂点が見られるんです。

 と、言うことは常に頂点を基準にできるわけですから。


 

 さて、次いで構図について話していきたいと思います。

 構図というのはシンプルに言うと、平面的な魅力を引き出す技術です。

 今まで説明してきた形の取り方なんかは、主に平面であるキャンバス上に三次元の情報をどのように詰め込むか、ということだったわけですが、構図というのは平面であるキャンバス上にどのような魅力を持った図形を作り出すか、ということになります。


 よく言われる三角構図というものがありますが、三角構図が何故安定しているか。

 まずはそれを解説していきたいと思います。

 絵は基本的に垂直に掛けます。それはどのような形態の絵でも殆ど同じで、一部天井などに描く物を除けば、全ての国の絵はそのような形態をとります。

 と、言うことはです。重力は下に向かって働きます。

 画面内の下に向かって重力が働けば、その中にある形も下が大きく上が小さい形と言うものは安定して立つというイメージを持つことになります。

 同様に、その逆であれば不安定という印象を受けるのです。

 

挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


 画面を立ててこの画像を見る限り、下の広い三角系の方が安定して見えますよね。

 同時に逆三角系だと上が大きいので不安定であると同時に圧力を感じると思います。

 背の高い人を見上げるのと似た効果がこれだけで生まれるということですね。


 と、言うことは、現実的にパースを正しくとるよりも、逆遠近を利用したほうが圧力をより表せるということになります。


 そして不安定な構図は時に動きとなります。


挿絵(By みてみん)


 少しわかりづらいかもしれませんが、こう描くと重力があると考えれば画面右下に向かって倒れそうな力が働くことが分かると思います。


 こういったことが構図の基本的な考え方になります。

 あくまで壁に掛けた平面としてみた時に魅力的な図形を作っていること、です。


 そういう前提で考えたときに、レオナルド・ダ・ヴィンチの『受胎告知』を画像検索してみてください。

 左の天使の服から腕のライン、右の聖母の左側の腕、膝、そしてスカートの端、そして台の下部や二人の足元を繋いだライン、背景の岩や木の隙間が、画面の中心に見事な三角系を作り出していることが分かると思います。

 模写をする時に重要なのは、実はこの関係性を見ることなのです。

 意識すればこの三角形を見ることが出来るのですが、それぞれの人物の輪郭をなんとなく追うだけで、関係性を意識しなければきっとこの三角形は崩れてしまうでしょう。

 絵を見るときにはこういったことを意識してみてみると、今まで気づかなかったトリックが隠されていることも多くあるのがとても面白いです。

 同時に、そういったトリックを考えてみると、それは良い絵となる可能性もあるということになります。


 計算された構図と言う意味でとても面白いのはニコラ・プッサンという画家です。

 ルーブル美術館で最も多く所蔵されており、セザンヌも学んだこの画家は、画面の中の人物や物を利用して様々な図形を画面内に作り出しています。

 一見するととてつもなくつまらない絵を描く画家ですが、画面構成を学ぶ対象としては最も優れていると言っても過言ではないでしょう。



 さて、あまり画像検索ばかりと言うのも宜しくないと思いますので、私の絵の一部の解説をしたいと思います。

 まず、最初に出した手の絵を解説したいと思います


挿絵(By みてみん)


 これですね。

 これは練習で新しい描き方を試したものなのでそこまで強く構図を意識していたわけではないですが、形に関して少しばかり引っかかる部分があると思います。

 指の長さに多少の歪さがありますよね。

 それは、指の明部の形で楕円を作ろうとしていた為です。


挿絵(By みてみん)


 この様に、左下から伸びる捻った二つの三角系が、上の楕円を支えて崩れかけている様なイメージになります。

 その場合、倒れる方向は右側なので、右側に少しのスペースを作ってあります。

 画面の端は場合によっては壁となるので、動きがある場合は、動きが向かう方向のスペースは多少空けるというのが基本になります。

 それ以外にも、人の横顔を描く場合、顔の正面側にすぐ画面端も持ってきてはいけません。顔を大きく描く時にも、必ず後頭部側を狭く、正面側を広くしましょう。

 画面が世界の全てと何度も言ったのはそういうことでもあります。顔の目の前に世界の端を持ってくると、とても窮屈に感じてしまいます。


挿絵(By みてみん)


 これはどうでしょうか。


挿絵(By みてみん)


 線を書くとこのようになります。

 線や物を繋いでいくと、頭部の上に多くの線が集まります。

 若干の俯瞰で描いているので完全な三角構図というよりは、多くの線を一点に集めるような構図にしてみた、という絵です。

 敢えてポイントを作るために、手前のカップなどの楕円は実際よりもかなり真円に近づけて描きました。完全に正しいパースを取ってしまうと、写真としては成立するのですが、絵として面白くないものとなってしまうので、敢えて現実とは違う形をとるという意味は、この辺りにあります。


 【上手い】と一言に言っても、絵の場合は様々なことを指します。

 デッサン、色彩、そして油絵なら中に入れる様な空間を描き出すこともできます。そんな流れる空気を描く三次元空間表現。絵肌。

 そして、平面構成。これは画面内の配置の計算だけではなく、そのリズム感であったり視線誘導。色々な要素が絡み合ってきます。

 そんな様々な要素を少しずつでも見られるようになることが絵を読み解くことになり、また絵の上達にも役に立ってきます。

 場合によっては全く別のことでも新しい視点が見えることもあるでしょう。


 さて、今回は模写と構図に関しての話でした。

 実際に口で話せば丸一日経っても終わらない話になってしまいますので、少しだけ解説させていただきました。

 今回書いたポイントに注意しながら色々な絵を見てみてください。

 新しい発見が多くあると思います。

 そのための足がかりになれば良いな、と、そう思います。

個人的に思わず笑ってしまった構図がフラワーナイトガールのゼラニウム進化絵なんですけど、剣と腕で三角系を作り出してその中心に胸を持ってきています。そして太刀筋と髪の毛の描く歪な円の中心には太もも。

多くの人は胸デカ過ぎだろ。と突っ込んでいましたが、面白いのはむしろ女性部分の強調の仕方。

更に、もしかしたら下の円と上の三角形でキノコ的なものを暗喩しているのではと考えると……。

こっそりとこんな遊びを出来るのも絵の面白いところではないでしょうか。


【ピカソにはその様に見えている】と言う言葉は、こう言った見方が積み重なっているのを理解しづらいからこそ出てしまった言葉という訳です。

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