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鮮血は少女を優雅に誘う  作者: 一博,ラン
3/4

生命活動 


=01= 


 名も無き少女、否、既にこの表現は適切ではない。獣、野獣と言うべきが正解だろう。取り返しが付かない罪を犯しているが存在を許されているのは神の慈悲。

そもそも罪とは何か?我々の都合でしかない。

社会に刷り込まれた常識でしかない。


 正しさとは何か?正確な答えはまだ誰も証明出来ない。

 悪とは何か?正確な答えはまだ誰も証明出来ない。


 とどのつまり都合でしかない。

 血と肉を求め快感を獲る獣は常軌を逸失しているが愛らしい。

 子猫が餌を食べるのと何が違うのだろうか。


裸を血化粧で飾った少女の様な獣、獣の様な少女は味を覚えた。人生17年目で初めて本当の満足のいく食事の体験。残酷かもかもしれないが自然。暗く静かだった魂に光がさし、胸一杯の幸せ。

 獲物を見つけ狩り食し、命を繋げる。普通だ。生命として有り触れた行為。


 喰らう――総じて、原則として、責める処が在るだろうか。


=∞=


 貴方は今日を生きる。貴女は今日を生きる。

 信仰が厚き者。軽薄な者。身勝手な祈りと願、望み、思いと想い、恥を恐れ隠す欲求。


 私は約束しました。あなた方に安らかな安堵を贈りますと。

 手順があるのです。段階を踏まないと行けないのです。


 私の説明不足で無条件と私に期待した方々、どうか我慢せず責めて下さい。

 目を潰して貰っても構いません。首を絞めても構いません。悲鳴が足りないなら脚の裏の皮膚を削ぎ塩の道を歩く事も構いません。死を許さないなら万年の牢獄でも構いません。

 私には聞こえるのです。あなた方の怒りの声が。悲しみで織られた過去の残響が。叶わなかった夢の残骸がぶつかる音が。


 人、両親や兄弟、子供すら道具としてか見て居ない事も解って居ます。

 聞こえるのです。聞こえてしまうのです。音が止まないのです。


 遠慮はせず責めて下さい。私は全てを受け入れます。苦痛の喜劇を演じ切ります。見返りは求めません。何も要求は致しません。私は道具です。都合のよい道具です。此の機会を逃さないで下さい。


 ――だって、掛け値無して何処までも責め続ける事が出来るんですよ。安堵は確約致します。


=02=


 美味しい――違う。

 楽しい――違う。

 美しい――違う。


 違う違う違う。正解じゃないけど正解。

 解らない。解らない、解らない。私は知らない、私は悪くない。解らないけど止められない。血を(すす)る事も肉をしゃぶる事も。

 

 異性。男性の身体、返事をしない身体。とっても優しい身体。

 切り刻んではしゃぶる。切り刻んでは子宮が熱く成る。切り刻んでは股が濡れる。


――細切れの肉片を膣に入れる。一つでは足りない。膣一杯に押し込める。脳が弾ける。よだれは止まらなく首元まで垂れる。

 少女、獣は笑う。人々を救う女神の様に。救済を約束した精霊の様に。神は居たのだ虹色の世界。太ももは痙攣し腹に力が入る。

 美味しいも違う、楽しいも違う、美しいも違う――私は知らない。


 無意識に殺めた聖なる淑女が此の気持ちを知っていて沢山経験しているのは解った。

 此の気持ちを知らないまま人生を閉じた聖なる淑女の娘には申し訳ないと想った。過る程度でしかなかったが。懺悔の暇は無い。忙しいもの今は。旅人の眼差しの躯を弄るのに。ちぎった肉片で股を擦るのに忙しいから。


 今は誰も邪魔しないで…


=03=


 午前4時20分。夢と現実の境界線が曖昧な時刻。朝の始まりなのか夜の支配が続いているのか、境が無い。少女は食事を続けている。充分に満腹だが止められない。髪も顔も胸、四肢は血が固着。爪の間にも赤がぎっしりと詰まっている。酸素が浸食し赤を徐々に壊す。太陽も徐々に夜を壊す。


 眠い。少し疲れた。喉が渇く。顎も痛く皮膚は凝血でかさつく。


 台所に向かい水を探す。この部屋は綺麗で清潔が過ぎる。家具も少なくテレビも無い。冷蔵庫だけは小さいがらあった。新品だ。中には何も無い。引っ越ししたてなのだろうか。生活感が無い。疑問は疑問のままとして置いとき答えは見つけ無い。

 蛇口を捻り水道水は流れ排水溝が響く。昨晩の雨と同じ響きの音。

 

 そうか、私は人を殺したんだ。忘れていた。


 だって、楽しくて。


 両手で水をすくい口に運ぶ。とても美味しい。

 不思議だ。帰る場所も無いし過ちを犯したのだが苦しくない。水の流れは誰にも平等。

 誰も私を責めて居ない。之が自由なの…

 とてもとても悪い事をしたのだけれど私は生きている。

 存在して居る。

 許されている。

 前が見える――


=∞=


 白い羽一枚舞い降りる。一枚と思いきや万枚の羽が降り注ぐ。

 居たんだ、見てくれてんだ今まで全部。何時も側に居たのね。


 ごめんさない。今まで気が付かなくて。

 こんなにも沢山…


 見えるわ。見えるもの。貴方にも貴女にも見える筈。私にも見えるんだから。


 兄弟達。聞いて。


 私が捨てた望みすら熱心に義を尽くしてくれる。

 困難な今までは私の品性が仕上がる為の準備。決して崩れない希望。


 だってこんなにも子宮が熱い。子宮が下に降りてくる。


 教えないと。伝えないと。見つけたもの。


 宇宙の仕組みを本当の空の色を。


 私の足音を聞いたら貴方も貴女も同じ。

 声高く叫んでもいいわ。黒に紛れて身を隠してもいいわ。

 安心して怯えていて。其れは悪い事じゃないもの。

 安心して憎んでいて。其れは悪い事じゃないもの。


=04=


 喉が潤う。誰かが居た様だが何の事やら。臭い。私も部屋も食べ粕も臭い。

 頬に刃を入れ一掴み味見する。


――普通。感動が無い。


 もう動く事が無い眼球には惹かれない。優しい瞳だった筈だが――何故

 飽き性なのか賞味期限が切れたのか冷めたのか勘違いか。


 答えは求めない。眠いもの。バスルームに向かいシャワーを浴びる。

 赤黒の肌は白色に戻る。色々と楽しく忙しかったが今と成ると何も変わらない。夢だったのかも知れないが此のバスルームは初めてだ。

 何かは起きたんだろうか?

 湯気が此処は安全だよと語りかける。湯気が喋る事だ、本当に違いない。


 湯で血を溶かしたら生まれ変わった気がした。

 新しい私。


 手短に身体を洗い身体も拭かく水ぶれのままベットに身体を倒す。

 シーツが香る。ちょっと嬉しくてそのまま意識は落ちる。長かった一日が終わる。


 夜は負け太陽が睨みを効かし街が動き始める。女は覚えたけれど、まだまだ少女は夢の中へ。


=05=


 私は知っている。あなたがたの気持ちを。何を考え何を求め、何を誤魔化すのか。知っているけど受け入れはしない。口を紡ぎ目をそらすしか出来ない。

 一度口を開け言葉を発したならあなた方は変わる。世界は崩れる。新しく生まれ変わる。私の言葉で歴史は変わる。

 私は壇上に立っている。

 世界を相手に熱弁を振るう。

 

 違う。私じゃない。

 

 今は寝てる筈だから、何時もの夢。名前を思い出し今日を認識し目蓋を開け背伸びをしたら忘れてしまう何時もの夢。

 何を喋っているか解らない。

 群勢は怯えている。何が怖いの?

 シーツはこんなにも柔らかくて気持ちのに。不思議。夢だから当然か。今回は色のある夢。まだ此処に居たい。そろそろ意識があっち側に戻りそうだ。考えるのを止めよう。夢が覚めてしまう。まだまだ闇の中に居たい。

 平原?地平線が見える。水平線かも知れない。何方でもいい。考えない。見てるだけ。


 引っ越しの準備――変、引っ越し先が無いのに荷造り。音が無い映画の様。シーンが繋がらない。物語が無い。


 ああ、夢か。自覚のある夢。夢を夢と認識している夢。偶にある。起きたら忘れちゃうけど嫌いじゃ無い。 眠り姫を口付けで助ける童話があったような。残酷、いい迷惑、素敵な世界を壊すんだもの。


 又、私は熱弁を振るう。意図なく。今度は誰も聞いていない。色が無い。寝相を変える。あっち側の感触だ。夢の終わり。今日の始まり。消える物語の無い話。

 又忘れて、どうせ又戻ってくる。まだ目覚めたく無いのに。

 不便、自由が利かない。

 小鳥の鳴く音。あっち側の音。朝の訪れ止まらない崩壊。

 これは私達には皆共通の約束。時が進むに連れ崩壊は進むの。

 

 ほら昨日が消えた。

今日が始まる。

今日も昨日になる。

 昨日また消える。


=06=


 臭い。ドブの臭い。嫌いでは無い。臓物の臭い。今日の始まりの感想。

 丸々一日寝てた様だ。


 名も無き少女は名も無き少女の一日を始める。

 

 空腹。


 臓器――肉では無い何が露出している。剃刀でスライスと思ったが脂が邪魔で切れない。

 

 空腹。


 噛みちぎる。悪く無い。臭いはキツイが濃厚。母親の手料理より随分とマシ。噛み砕くのに手間取り飲み込むのに時間が掛かるがガムと変わらない。口一杯に浸み出る液体は優雅だ。この優雅さだけで満腹になる。

 蒸し暑い。食材は腐るだろう――困る。其れは困る。エアコンの温度を16度に。


昨夜の感情は噂に聞く恋だったのだろうか。

今はその気持ちは無い。

切り刻まれた男性は餌でしか無い。


 保存。


 剃刀を洗い茶碗の裏で研ぐ。 寒い。全裸に16度では身体が冷え切る。適当にロッカーを漁りスラックスとシャツを着る。食べれそうな部分だけカットし冷蔵庫に入れる。骨はどうしようにも無かった。肋骨だけは折り今晩の夕食に決めた。新鮮なスペアリブ。嬉しい。


残骸が残る。髪の毛とか爪とか色々。でもバラバラにした訳じゃ無い。まだ人間の形を保っている。

椅子に座らせ帽子を被らせる。目が見開いたまま。眼鏡が在る――好い男。お洒落させないと。


バケツにお湯を入れ部屋の掃除。熱で血は簡単に流せる。此処は私のお部屋。私のお城。

 清々しい――鬱屈してた17年が嘘に消える。


 人生の芽生え。私の物語が賛美され祝福を受ける。


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