エピローグ
母の葬儀に、俺は参列しなかった。
多くの参会者に見送られ、シルヴァースタイン家の墓地に棺が埋葬される様子を遠目に見守ると、俺は足もとに置いてあった荷物を手に、教会を離れた。
家を去ることを、家族には告げなかった。
親父も兄貴たちも、おそらくはうすうす察していながら、なにも言わなかった。
母のいない食堂で、家族水入らずの朝食を済ませ、ごく普通に葬儀に向かう親父たちと別れてきた。
6年前のような悲壮な決意は、もうどこにもない。手にした荷物はひとつきり。気が向けば、また気儘に羽を休めに戻ればいい。
さて、ひとまずどこへ行こうか。
教会の敷地を出た俺は、そこで足を止めた。
「……おい、なんだって、てめえらがこんなとこにいる?」
我ながら、地を這うような低い声で尋ねると、羆ヤロウを中心としたガラの悪い連中が、エヘヘヘヘとそろって気まずそうな照れ笑いを浮かべた。
「えーと、軍曹、どちらへお出掛けで?」
「どこでもいいだろ。っつーか、俺はもう軍曹じゃねえよっ。こんな昼日中からほっつき歩けるほど軍も暇じゃねえだろ。さっさと戻って仕事してこい!」
蹴散らそうとした俺に、キムたちはあわてて食い下がってきた。
「い、いや軍曹! オ、オレたちもじつは、軍とはもう無関係な民間人なんで……」
「なにぃ?」
思わず声と眉を同時に跳ね上げると、元13班のメンツはそろいもそろって言い訳をはじめた。
曰く、カシム・ザイアッドの欠けた13班は、もはや『13班』ではないので、軍では不要と見做された。解散して各班に分散して割り振られそうになったので、こっちから見切りを付けてきてやった、と。
「バカか、てめえら。そんで『民間人』とはほど遠い面相の奴らが、雁首そろえて無職だと? 冗談も大概にぬかしやがれ!」
「んなこと言ったら、軍曹だってオレらと一緒の無職仲間じゃねぇっすか」
「バカヤロウ、なにが仲間だ。俺をてめえらなんかと一緒にすんじゃねえよ。っつーか、俺はもう軍曹じゃねえって何遍言わせる気だっ」
「いやぁ、軍曹はオレらにとっては一生軍曹っすよ」
「オレたちの隊長はザイアッド軍曹だけっす!」
バカらしくて付き合っていられないと嘆息した俺は、連中に背を向けて歩き出した。
「あ、軍曹! どちらへっ!」
「うるせーな、オメエらにカンケーねえだろ」
「そんなこと仰らず。オレらもご一緒しますんで!」
「お荷物お持ちしまっす!」
「あー、もうっ。うるせーんだよ! むさっくるしい野郎どもが、犬っころみてえについてくんな、鬱陶しいっ」
ドタドタと騒がしくついてくる、ムショ帰りか山賊のような風体の集団に、道行く人々が振り返り、あるいは擦れ違う人々が恐れをなしてあわてて避けていく。
「やっぱ13班は、軍曹がいねえとはじまらねっすよ」
「なら、そんなもん解散だ。いまからオメエらと俺は赤の他人だからな。ついてきたらぶっ殺すぞ」
振り返って思いっきり威嚇し、ふたたび歩き出す。
「そんな、軍曹! 一緒にさんざん臭い飯食ってきた仲じゃねぇっすか。軍の食堂のマジーのなんの」
「往来で誤解招くような言い種すんな! だからオメエらはイヤなんだよ」
「そんなぁ」
「隊長ォ」
「軍曹ォ」
賑やかな半泣きの声が、それでもめげずにいつまでもついてくる。
さて、ひとりで気儘にと思っていたら、のっけからいきなり8人ぶんもの食い扶持が増えちまった。これからどうしたものか。
人相の悪い手下どものおかげで通行人が激減した歩道を闊歩しながら、俺は愉しい気分で考えを巡らせた。
『なあ、若いの、人生は、そう捨てたもんでもないぞ……』
ああ、そうだな爺さん。たしかにそう捨てたもんでもない。
こいつらと一緒に、好きなように生きてみるのもいいかもしれない。
希望のお船でゆらゆらと
銀河の果てまでゆきましょう――
人生は一度きり。
なら、行けるところまで行ってみようか。
俺はキムたちを振り返って促した。
「行くぞ、おまえら。さっさと来い!」
「ヘイッ、隊長っ!!」
威勢のいい返事は、《首都》の街中で思いのほか気持ちよく、高らかに響きわたった。
~ End ~
最後までおつき合いいただき、ありがとうございました。
本編『地上に眠る蒼穹~Celeste blue~』と合わせてお気に召していただけたなら幸いです。




