8(3)
家に戻って3ヶ月。
母は天に召された。
家族に見守られる中、眠るように静かに、安らかに、ひっそりと旅立っていった。
母の傍で悲しみに暮れる家族から独り離れ、薔薇園のベンチに座って天井に映し出される夜空の映像を眺めていると、小さな足音が聞こえた。
振り返ると、アーチのわきに、ぬいぐるみを抱えた幼い姪っ子の姿があった。
「どうした? もう寝る時間だろう?」
「ママが、今日は起きててもいいって」
「そうか」
頷くと、アリシアは近づいてきて、抱いていたぬいぐるみをベンチの空いたスペースに置き、俺に向かって両手を大きくひろげた。
「なんだ、抱っこか?」
要求されるまま、腋の下に手を添えて膝の上に抱き上げてやると、少女は俺の首に手をまわしてしっかりと抱きついてきた。
「眠かったら眠っちまっていいぞ。あとでベッドまで連れてってやるから」
「ちがうの。おばあちゃまとの約束」
「うん?」
少女は、俺の首をギュッと抱きしめたまま言った。
「あのね、おばあちゃまが天国の神様に呼ばれて、みんなとバイバイしたら、そのときはアリシアが、ラルフおじちゃまをギュってしてあげてねって」
「なに?」
驚いて少女の顔を見ようとしたが、幼い姪っ子は、祖母との約束を守るために必死で俺にしがみついていた。
「ラルフおじちゃまは、おばあちゃまがお空にいっちゃったら、きっと独りで薔薇園にいるはずだから、そのときはおじちゃまをギュって抱っこして、お歌を歌ってあげてねって。アリシア、おばあちゃまとお約束したの」
言って、少女はおぼえたばかりの子守歌を、少し音をはずしながら、たどたどしく歌いはじめた。
金の小鳥が見る夢は 昨夜の空に光る星
お月さま唄う銀の夜 やさしい眠りにつけるよに
夜空の星をあげましょう
夜空の星々が映し出された天井の下、静まりかえった庭で、幼い声が紡ぎ出す歌が深く心に染み渡ってゆく。
小さな躰に抱きしめられながら、濃紺の闇に瞬くまがいものの煌めきを眺めるうちに、熱い雫がこめかみへと伝い落ちていった。
金の鳥唄うよ 銀の鳥舞うよ
明日に見る夢 宵の唄
そっとゆりかご揺らしましょう
坊やがおめめを覚ますまで
希望のお船でゆらゆらと
銀河の果てまでゆきましょう
『よかったね、軍人さん。お母さんにとってもとっても愛されて。すごく大事に、宝物のように大切に育てられてきたんだね……』
俺の耳もとで、聖母マリアが囁いた。




