電波君
間違いなく『W.C.の悲劇』の後遺症だった。仕事中に昨日の悪夢のような出来事がフラッシュバックし、幾度も叫び出しそうになった。
必死の思いで噛み殺していたが、ついに抑えきれず「ひぃ~」と奇声が口から漏れ出てしまい、そばにいたお客様をビクッと驚かせてしまった。
「ひぃ~た~の在庫は、まだあったかな?」なんて、訳の分からない独り言を呟きながら、私は欽ちゃん走りでその場から逃げ出した。
いけない、いけない。落ち着け、お・ち・つ・け~ぐあ゛~
そそり立つ巨大な壁となって襲いかかる大波のような羞恥心にのみ込まれ、私の体は硬直してしまった。
「おっ、おい! どうした相良?」直ぐ後ろを歩いていた同僚の菊池と、ぶつかりそうになってしまった。
「いや、その……今、誰かに呼ばれたような気がして……」
「誰かって、誰よ? 電波か?」
もう手の施しようも無いほど、キョドっていた。ダメだ……コーヒーでも飲んで気持ちを切り替えよう。私は少しも進まない仕事を放り出して、休憩室に向かった。
休憩室のドアを開けて入る時に「いらっしゃいませ……」と、つい呟いてしまった。
シマッタ! 私は素早く休憩室内を見回したが、運良く誰にも聞かれていなかったようで、私に注意を払う者は誰もいなかった。
よかった……ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、ポンと後ろから肩を叩かれた。
「気にするな、疲れているんだよ」またしても、菊池だった。よりによって、今一番関わりたくない相手に聞かれてしまった。
「ところで電波君。その後、仲間からの通信はあったか?」
殺す! いつか殺す! 絶対殺す!