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W.C.の悲劇



 耳障りな笑い声で目が覚めると、部屋の照明とテレビがついたままだった。

 ギシギシと音をたてるベッドに身体を起こすかと、足元にスマホが転がり落ちた。


 ああ……寝落ちしたんだ 。


 スマホを拾い上げ、グループチャットのログをチェック。参加していたレイドにはフレンドからの救援依頼が殺到していたが、全てタイムアウト。

 グループチャットに謝罪のコメを打とうとしたが、寝起きの頭では気の利いた言葉が思い浮かばず、面倒になったのでスマホをベッドに放り出した。


 腹へった…… 。


 冷蔵庫を開けると飲み物ばかりで、ろくな食材は入っていない。とりあえずミネラルウォーターをがぶ飲みすると、目は覚めたが空腹感は増すばかり。

 面倒だが、仕方ない。簡単に身支度を済ませると、アパートを後にした。



 駅前のコンビニに行くつもりだったが、ショーウィンドーに映る自分の姿を見て、髪が寝起きのボサボサなままなのに気付き、急遽目前の昭和感漂う古い喫茶店に入ることにした。

 平日のお昼過ぎということもあり、店内は閑散とし数組の女性客しかいなかった。カウンターに座りメニューを見ていると、がぶ飲みしたミネラルウォーターのせいか、急におなかが痛くなった。適当にランチを注文し、私はトイレに駆け込んだ。

 トイレは男女兼用で、ドアを開けると直ぐ左手が化粧台、簡単な仕切壁があって奥が便座という配置になっていた。

 用を足し終えホッとしていると、ガチャッ……ドアの開く音がした。

 はい? 仕切壁の向こう側で人の気配が……。

 身体をひねり恐る恐る仕切壁の向こう側をのぞいてみると、何と若い女の子が鏡の前でメイクを直していた!

 あっちゃー……トイレに駆け込んだとき、どうやら慌てていてカギを掛け忘れていたみたいだ。


 どうする? どうする? ど~する俺?


 このまま、素知らぬ振りを続けるべきか?

 でも、メイクだけとは限らないよね。もし、こちらに来たらどうする?

 ってか、ニオイでもう気付くんじゃないの?

 覚悟を決めた私は、あらん限りの勇気をふりしぼって、女の子に声をかけることにした。


 「あっ、あの~」


 「えっ?……キャー! 」 バタン!


 覚悟していたとはいえ、夜道で変質者に出くわしたような女の子の反応に、頭の中が真っ白になった。


 カギ……そうだカギ! 取りあえずカギを掛けなくては!


 立ち上がりドアに飛びつこうとしたら、膝まで下ろしたズボンに足を取られ、カメの子のようにゴロンと、あお向けにひっくり返ってしまった!

 ガチャッ……少し開いたドアの隙間から、こちらを見下ろす年配の女性の顔が見えた。

 暫し無言で見つめ合った後、その年配の女性は静かにドアを閉めて立ち去った。

 この後の記憶が定かでない。

 私はちゃんと手を洗ってトイレを出ただろうか?

 いや、それ以前にちゃんとお尻を拭いただろうか?

 今となっては、どうでもいいことだけど……。


 ああ……人生オワタ。


 若い女の子には〇ン〇をしている姿を、年配の女性には粗末な〇ン〇を見られてしまった。

 過酷な試練はまだ続いていた!

 カウンターには注文したランチが!

 しかも、カウンターの直ぐ後ろのテーブルには、年配の女性のグループ。少し離れたテーブルには若い女の子のグループがっ!

 ヒソヒソと話しをしながら、こちらをチラチラ見ているのが背中越しに痛いくらい伝わってくる!


 チクショー!


 私はピラフとサラダを飲み込むように平らげ、熱いコーヒーをいっきに喉に流し込み、レジで支払いを済ませると逃げるようにお店を飛び出した。


 汚れっちまった悲しみに トイレの神様も目を背ける

 汚れっちまった悲しみは 耐えがたい苦悩をあたえる

 汚れっちまった悲しみに なすところもなく身悶える……




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