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09 偵察・2

 謎の海賊集団『リージョン』は、海の底から何の気配も無く現れる。その存在を信用せず、嘲笑っていた者たちは、大胆な姿をした女海賊の集団によって跡形も無く散々に粉砕され、そしてそのまま海の底へと消えていく――海の男たちに伝わる、この謎の噂を、『海賊』のキャプテンはずっと警戒し続けてきた。今までなら笑い飛ばせるはずの話が、幾度と無く自分の部下が倒されて、自分たちが創り上げてきた『クスリ』もろとも何もかも根こそぎ奪われると言う恐ろしい現実となって現れたからである。

 だが今、彼は何度も味わった屈辱をついに晴らす事に成功した。彼らと密かに取引を行っていた『大企業』の幹部と共謀し、あちらが製造した新兵器をお披露目もかねてこの場で使用し、役立たずの部下もろとも、大量のビキニ姿の女海賊『リージョン』を根こそぎ破壊する事が出来たのだ。

 『大企業』が製造した巨大な鋼の上でひとしきり大笑いした後、キャプテンはある意味では残念だった、と告げた。



「どういう事ですか?貴方たちを何度も邪魔した女は消え去ったのですよ?」

「まぁ、確かにあいつらは俺たちを邪魔しまくった憎たらしい奴だ。だがな……ぐふふ……」



 確かにリージョンとやらは鬱陶しい相手だし、消し去りたい存在でもあった。だが、いざこの目で見れば、リージョンというのは全員とも黄色のビキニ一枚で体を大胆に露出し、しかもめっぽう強いではないか、と海賊のキャプテンは下品な笑みをこぼしながら言った。もし生き残っていたら、自分たちの部下兼奴隷にして色々な場所でめっぽうこき使ってやろう、と付け加えながら。


 顔を赤らめながらも、幹部もその言葉に同感した。彼にとっても、あのようなセクシーな美女はかなり刺激的だったようだ。とは言え仕事は仕事、いくら美人でも自分たちの任務を邪魔する者は排除しなくてはならない。その面で、彼らが海賊に売りさばこうとした新兵器『水中爆薬』の威力は絶大だった。今やこの無人島の周囲に浮かんでいるのは、この巨大な鋼の船以外は全てバラバラになった木材や瓦礫、そして肉の海ばかり。大量に上がった水しぶきと爆音は、この一帯の海の命を全て無に返した証だったのである。

 そして、そのような凄惨な状態にも関わらず、『海賊』のキャプテンも『大企業』の幹部も、一切の恐怖も後悔の念も抱かず、ただ邪魔者が消えた喜びに満ちていた。


「さて、残りは貴方たちが持ってきた『クスリ』を……」

「あぁ、渡す契約をするだけだ。これでお前の闇社会の地位も上がったな」

「えぇ、貴方様こそ、海での威厳がさらに……ふふふ……」

「がはははは!」


 そして、密かに取引を済ませた彼らは、そのままこの鋼の船に乗って無人島を後にする事にした。あらかじめ海賊たちに大量に積み込まれていた『クスリ』を、幹部が密かに所有する私有の港に輸送し、そこで全て積みおろせば全ては上手く行くのだ。

 海の脅威『リージョン』をも倒した彼らは、悠々と大海原を進み、自分たちの輝かしい未来を満喫する――。



「……あ、あれ……?」

「……ん?」


 ――はずだった。

 ところが、幾ら時間が経っても、鋼の船は一向にその場を動く気配が無かった。水中にある巨大スクリューを動かすエンジンの音が響けば、この巨大な船が大海原を進むはずなのに、いくら音が鳴り続けても無人島の傍から一切進まなかったのである。


 一体どういうことだ、早く船を動かせ、と幹部は焦りの顔を見せながら近くの部下に怒鳴った。もしここで故障などされては、自分が大企業の他の面々に隠れて海賊と取引している事がばれてしまうかもしれないし、何よりその海賊の面々から報復が来る可能性だってある。自分の面子にかけても、船を動かさなければ――いや、部下どもに船を動かさせなければならない、と彼は考えていたのである。

 そして少し経った後、幹部の部下が慌てて2人のところにやって来た。


「はぁ?何かが引っ掛かってる?」

「そ、そのようです……エンジンやスクリューに故障は見当たりません。しかし……」


 だったら早くそれを取り除け、爆薬でも使って早く破壊しろ。もう一度幹部が怒鳴った、その時だった。


「キャプテン!それに幹部さん!大変です!!」


 再び慌ててやって来たのは、見張りを行っていたはずの『海賊』の子分だった。当然見張りの仕事を怠ったことをキャプテンから怒られそうになったのだが、彼が口を開く前に、子分は急いで水面を見て欲しい、と言った。

 面倒くさそうに、船の甲板から下に顔を覗かせた『海賊』のキャプテンと『大企業』の幹部の顔色は、あっという間に海よりも青くなった。


「……こ、これは……」

「な、なんじゃこりゃ……」


 青く澄んでいたはずの海の色が、一面『肌色』に変わっていたのだ。それも鋼の船の周りだけではない、彼らが見る間に肌色はどんどんその範囲を広げ、あっという間に水平線にまで届くほどの勢いで増殖し続けてきた。さらには、無数の肌色に埋め尽くされた結果、海の中すら一切見えない、恐ろしい状況が生まれていたのである。

 あまりの異常な光景に、幹部もキャプテンも混乱を隠せなかった。早く何とかしろ、あれを除去しろ、部下や子分に怒鳴り散らすも、彼らもこの状況に何をすれば良いか分からず、まさに鋼の船の上は上へ下への大混乱の状態に陥っていた。


 そして、彼らはまだ気づいていなかった。

 延々と広がる肌色の海が次々と赤く盛り上がり始め、やがてそれらは一斉に人間の姿になり――。


「ふふふ……あはは……♪」あはは……♪」あはは……♪」あはは……♪」あはは……♪」あはは……♪」あはは……♪」あはは……♪」あはは……♪」あはは……♪」あはは……♪」あはは……♪」あはは……♪」あはは……♪」あはは……♪」あはは……♪」あはは……♪」あはは……♪」あはは……♪」あはは……♪」あはは……♪」あはは……♪」あはは……♪」あはは……♪」あはは……♪」あはは……♪」あはは……♪」あはは……♪」あはは……♪」あはは……♪」あはは……♪」あはは……♪」あはは……♪」あはは……♪」あはは……♪」あはは……♪」あはは……♪」あはは……♪」あはは……♪」あはは……♪」あはは……♪」あはは……♪」…


 ――赤髪に黄色のビキニ姿の、女海賊リージョンへと変貌を遂げ始めた事を。




 一体、海の中で何が起きたのか。

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