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05 内部

 クジラやサメを遥かに凌ぐ山のような巨体に、錦のような様々な模様を纏う、巨大な海の深くに潜む錦鯉を思わせる怪物、その名も『グランカーピノン』。海の上の人間たちの常識を大きく逸脱したかのようなこの生命体の体内は――。


「あははははー♪」あははははー♪」あははははー♪」あははははー♪」あははははー♪」あははははー♪」あははははー♪」あははははー♪」あははははー♪」あははははー♪」あははははー♪」あははははー♪」あははははー♪」あははははー♪」あははははー♪」あははははー♪」あははははー♪」あははははー♪」あははははー♪」あははははー♪」あははははー♪」あははははー♪」あははははー♪」あははははー♪」あははははー♪」あははははー♪」あははははー♪」あははははー♪」あははははー♪」あははははー♪」あははははー♪」あははははー♪」あははははー♪」あははははー♪」あははははー♪」あははははー♪」あははははー♪」あははははー♪」あははははー♪」あははははー♪」……


 ――恐れを知らぬビキニ姿の女海賊集団『リージョン』の本拠地である。



 巨大な錦鯉『グランカーピノン』の体内は、黄色いビキニ1枚のみを身につけ、赤い癖毛の長髪をたなびかせながら行き来するリージョンたちが暮らす「都市」となっていた。大量のピンク色の細胞と文字通りの白い骨組みによって構成された巨大な建物がいくつも並び、それらを結ぶ空中歩道は細長い筋繊維が無数に絡み合い、頑丈なつくりになっている。そしてそれらの傍を、まるで人間の血を思わせる赤い液体が川のように流れているのだ。鼓動を続ける不気味な外壁さえ気にしなければ、ここが生命体の内部であるとは思えないだろう。

 また、深海を泳ぎ続けるにも関わらず、『グランカーピノン』の体内は、建物が並ぶ都市も、人間で言う「胃」となる吹き抜けの大広間も、どこも昼間のような明るさに包まれていた。リージョンたちもどこからともなく照らされる光に包まれ、健康的な肉体や黄色いビキニ衣装を別の自分に見せ付ける事が出来るのだ。

 

 そんな大広間で、柔らかい細胞のクッションが敷かれた骨のベンチに座ったリージョンたちは、向かいのベンチにいる別のリージョンたちを褒め称えていた。絶海の孤島に本拠地を構えた悪の海賊たちを壊滅させた、今日の功労者たちだ。


「やっぱりあたしは流石だよねー♪」ほんとほんと、あっという間に全部奪い取っちゃったし♪」

「やるやるー♪」でしょでしょー♪」

「あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」…


 この怪物の中に暮らすリージョンたちは、全員とも全く同じ姿形をしている。赤い髪に青い瞳、赤いサンダル、そして黄色いビキニという格好だ。勿論、その声も思考判断も全員同じであり、地上の人間以上に統率が取れた行動をする事も容易い。ただ、記憶や思考判断が同じでも、そこに至るまでの経路にそれぞれの彼女の中での差異は生じてしまう。だからこそ、彼女たちは別の経験をした自分と談笑し、その記憶を互いに共有しあうのを楽しんでいるのである。

 人間とよく似た姿ながらも、明らかに人間とは全く異なる存在、それが女海賊『リージョン』だ。


 そして、やはりここでも話題は、悪の海賊たちから奪った麻袋と、その中にぎっしり詰まった裏社会における金貨『クスリ』に移った。容易く奪い取ることは出来たものの、結局どのように処分をするか、襲撃を行った彼女たちでも結論は出なかったのである。そして、彼女たちと同じように物事を捉える『グランカーピノン』内のリージョンもまた、一緒に頭を悩ませる事態になってしまった。


 しばらく無言の状態が続いた後、一斉にリージョンたちは立ち上がった。ビキニに包まれた巨乳が大きく震える中、彼女たちは揃って1つの結論に辿り着いたことを互いに言い合った。

 この麻袋は、『グランカーピノン』の餌として処分する事、ただし1つだけはその後必要になるために残しておく事。



「……よいしょっと」「わ、思ったより重いぜ……」

「案外大量に入ってたみたいだなー」「仕方ないぜ全く……」



 本拠地で留守番をしていた自分に麻袋の中途半端な重さを共有してもらいつつ、リージョンたちは一斉にこの大広間を後に、延々と廊下のような長い道を進み始めた。


================


 

 錦鯉の姿をした海の怪物『グランカーピノン』の体内に広がる海賊団『リージョン』の本拠地は、空間自体にも歪みのようなものが生じているのか、1キロメートル以上も離れているはずの目的地に、僅か数分で到着してしまっていた。


「「「「「「「「「「よーし」」」」」」」」」」」

「「「「「「「「「「「着いた―」」」」」」」」」」」

「「「「「「「「「「「「ふう……」」」」」」」」」」」」


 腰に手を当てて風船のような大きな胸を反らし、自らの大胆な美貌を見せつけるかのようなポーズを取りながら、大量のリージョンが向かった場所には、巨大な『湖』のような液体に満ちていた。ピンク色の地面に囲まれながら、まるで溶岩が湧きたつように煮え立っていたのだ。そう、この湖を満たしている液体こそが、グランカーピノンが様々なものを処分する際に用いる胃液そのものなのである。


 リージョンの居住空間になっていると言う生命体の常識を逸脱した体内と同様、この巨大な怪物は飲まず食わず状態でもなんら不自由なく自らの生命を保ち続けるける事が出来ると言う異常な能力を持っている。ただし、何も消化できないと言う訳では無く、体内に沸き立つこの湖で分解された様々な物体は体を構成する無数の細胞全てに行き渡り、グランカーピノンのエネルギー源になるのだ。例え人間に対して恐ろしい効果を持つこの『クスリ』でさえも。



「それー!」それー!」それー!」それー!」それー!」それー!」それー!」それー!」それー!」それー!」それー!」それー!」それー!」それー!」それー!」それー!」それー!」それー!」それー!」それー!」それー!」それー!」それー!」それー!」それー!」それー!」それー!」それー!」それー!」それー!」それー!」それー!」それー!」それー!」それー!」それー!」それー!」それー!」それー!」…


 リージョンは次々と手に持った麻袋を、思いっきり胃液が満ちた湖の中に突っ込んだ。たちまち湖面はたくさんの泡につつまれ、悪の温床となっていた『クスリ』を分解し始めた。

 だがその直後、リージョンの辺り一面から低く唸るような音が聞こえ始めた。それも、どこか不機嫌な声を思わせる響きである。さしものグランカーピノンとは言え、消化に悪いものは存在するようだ。すると、唸り声が大きくなるにつれ、リージョンたちの顔もどこか不機嫌そうなものになっていった。全員とも口を押さえ、悪いものを食べたような素振りを見せ始めたのだ。そして――。



「うー……」

「ちょっとこれは……」

「でも放置しておいてもさ……」

「結局『あたし』が消化しちゃうし……」


「でもなぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」…


 あまりに今回は考え無しの行動だった、と反省していたのは、胃液の湖の傍にいるリージョンだけではなかった。中央部にある『都市』にいるリージョンも、大広間でくつろぐリージョンも、一斉に同じように不快感を覚え、やがてそれらを生み出した自分の行動を反省し始めたのである。まるで『グランカーピノン』の心を代弁するかのように――。



 ――そう、まさにこれこそが『リージョン』の正体であった。



 錦鯉型巨大生命体、海賊団の本拠地でもある『グランカーピノン』。

 急速潜行、牡蠣貝に似た潜水生命体『ミルクボット』。

 そして、黄色いビキニ1枚のみを身につける赤髪の美女の姿をした大量の女海賊『リージョン』。



 これらは全て、同一の存在。全員とも同じ心を有する、大規模な生物群集なのだ……。

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