第5話
時は過ぎ、今は7月。
つまり、何事もなく期末テスト期間に入ったいうこと。
時間がたつの、早すぎる。
もう1学期終わるんですけど!
「でも、これ終われば夏休みだよ。楽しみだね。」
「夏休みの話はテスト終わってからにして~。盛り上がっちゃう。」
「あ、ごめんごめん。」
同じ理由でイケメン話も今は禁止だ。盛り上がっちゃう。
夏休みを補講でつぶすわけにはいかない。危険なの私だけだけどね。
悲しいことに攻略対象たちは全員成績がいいので補講でフラグは立たない。
「ま、こんな直前に詰め込んだって無駄だって。」
「一応あがくの!」
亜紀は成績がいいからそんなことが言えるのだ。
うらやましい。
先日の七夕には中庭に大きな笹が用意されて、自由に短冊を付けれたので成績アップを願っておいた。
実際はモブ脱却と書きたかったけど、誰が見るかわからないしね。無記名にしたけど。
ちなみに、飾られた短冊に「世界平和」は見つからなかった。お約束なのに。
「イケメンたちと同じクラスになりたい」はあった。けっこうあった。志の低さが少し悲しい。どうせ願うならもっと上目指そうよ。
多分何人かはクラスメイトだな。
人の願い事見るのって楽しいよね。
別にキャラたちのを探したわけじゃないよ、うん。
ゲームでは七夕には何もなかったしね。多分書いてないんだよ。
まあ、今はそれよりテストだ。
「私的にはこれが出ると思うな。」
「あ、出そう。」
「なんでわかるの!? 覚える。」
ちゃんと授業を聞いていればなんとなく予想がつくらしい。
二人って普通に頭いいよね…。つかないよ、そんなもの。
無理してここに入った代償だね。甘んじて受け止めるよ。
「夏休み、どこに行く?」
「時間があったら全部行きたいなぁ。」
「うんうん。」
二人のおかげで無事テストは終了。微妙に点数落ちていたけど…。
だけど気にしない!
それよりも遊ぶ!
「とりあえず決定なのが夏祭りと、花火大会だよね。」
「浴衣着るの?」
「「動きにくいから着ない。」」
「だよね。」
真理はわかっていたという風に笑った。
着たい気持ちもあるんだけどね。かわいいし。
でも動きにくいし、着方知らないし、汚れても困るしね。
「海はどうする?」
「せっかく近くにあるんだから行きたいけど、私は遊園地のほうが行きたいなー。ホラーハウス~。」
「私は水族館がいいな。夏休みだけイルカショーがあるんだよ。」
「それを言ったら動物園だってなにかあったよね?」
行きたいところが大量で困る。
さすが乙女ゲームの世界。デート先としていろいろ用意してあるからね。
現実にその町に住んでると、そのすごさがよくわかる。
電車で気軽に行けるレジャー施設の多さに感動だ。
バイトでお金もそれなりにあるし、全力で楽しもう。
問題は、イベントだ。
夏祭りと花火大会は瑞姫さんが誰と行くかで変わる。
ただ、スチルがあるだけで別に事件とかは起きないし、いまだ私はただの他人。うまく目撃できたらいいな、程度になる。
そりゃ、接触できたらしたいけどね、絶対人多いし、その中から一人を見つけ出すなんてとてもとても。…探すけど。
あとはデートイベント。
だけど、今のところ瑞姫さんが誰かとデートをしている様子はない。
起きない可能性のほうが高いと思う。
ゲーム通りに進んでいるのか、進んでいないのか。判断に悩むところ。
友達で遊びに行く可能性は捨てきれないけどね!
つまり結局は普通に遊ぼうってことだ。
夏休みだしね!
2学期には体育祭や文化祭があるしね。
「ねーねー、三人とも、この後暇?」
「カラオケ行かない?」
3人で予定を立てていると、そんなお誘いがかかった。
「行こうかな。」
「私もー。」
「ごめん、私は今日用事あるんだ。」
すぐさまそのお誘いの意味に気づいたため、真理は辞退した。
「オッケー。」
相手もそれを分かっているので軽くうなずいてほかの人を誘いに行った。
「相変わらず、みんなの熱意凄いね。」
「もはや趣味かも。」
真理は苦笑しながら先に帰った。
「海はどうする?」
「この感じだと海はみんなで行くことになるかもね。」
「あー。」
このカラオケは言ってしまえばイケメン情報網の事前打ち合わせだ。大したことはしないけど。
夏休み、誰がどこに行くのか、ある程度情報を共有しておくのだ。
「あ、じゃあ私たちもその日に遊園地行こうかな。」
「ばったり会えたら最高だよね。」
さすがに個人を特定した情報は少ないけれど、A組の男子がこの日に遊園地に行くらしいとか、C組が希望者みんなでこの日に海に行くらしいとかいろんな情報がすでに集められていた。
その中にキャラがいればラッキーだし、いなければ普通に楽しむだけだし。
土居君の情報がちょっと多い。クラスメイトを誘っていろいろ遊びに行くみたい。
C組女子がうらやましい。
そうして、夏休みの予定を立てたのだけれども、変更を余儀なくされる事態が起きた。
それは終業式を明日に迎えた日のこと。
「これ、返却お願いします。」
「はいOKです。」
借りていた本を返し終わった私は図書室内を散策していた。
いつもは小説コーナーしか見ないけれども、たまにはいいかな、と思ったのだ。
参考書を借りるのもありかな。
そんなことを考えていると、声が聞こえた。
ほかにも人はいるから当然なのだけれども、その声が問題だった。
まさかまさか…!
私の声が確かならば、これは、
「俺のところは中1の弟二人と小6の妹がいるな。」
「うらやましいなぁ。」
「一人っ子はみんなそう言うよな。」
森崎君と瑞姫さん―――!
まさかの遭遇だ。でもたぶん棚2つ分くらい向こうだ。姿は見えない。
場所柄声を潜めているが十分聞き取れる。
これは、悩む。
移動して、さりげなく近づくべきか、このまま盗み聞くか。
「ま、確かになんだかんだ言って可愛いけどな。でもあいつら、おれより修司に懐いてやがるんだぜ? お兄ちゃんより頼りになるとか言ってよ。」
「きっと照れ隠しだと思うな。」
近づいたらこの会話は終わってしまうに違いない…!
最後まで聞きたい、けど、話しかけるチャンスなのに不意にするの?
「夏休みも遊園地行きたいっていうから連れて行ってやるって言ったら、修司兄ちゃんも来るよね? ときた。」
「大勢のほうが楽しいからだよ。」
しかし、ゲームでは森崎君はまさしく俺様って感じだったけどこうやって聞くとそんな感じしないな。
ゲームと現実の違いってことかな。
「私も行きたいなー。」
!!!?
瑞姫さんが! 瑞姫さんがアプローチを! 森崎君狙い!? 森崎君狙いなの!?
「あ? 別にいいんじゃね?」
「ほんと?」
ふぉーーーー!
「おう。っと、これで全部だな。生徒会室に戻るぞ。」
「ね、いつか決まってる? 予定確認してみる。」
「ああ、予定としては…。」
徐々に遠ざかる声。
しかし、私は動くことなどできなかった。
デートイベント!? ゲームにはなかったよ!
速水君もいるからデートではないか!?
予定変えなきゃ! いかないなんて選択肢はない!
私は猛ダッシュで教室に戻った。
走ったら怒られるから早歩きで。
「大変、大変、大変だよーーー!」
クラスの女子の大半が夏休みの予定を変更したのは言うまでもない。