第3話
私は眠い目をこすりながら学校の校舎周りをうろついていた。
もちろん、ゲームキャラたちに会うため。出会いイベントだ!
昨日は散々だったけど、今日からはそうはいかないよ!
私にはゲーム知識があるからね!
入学式の週は出会いイベントが起きる。
と言っても実は、森崎君と坪田君の出会いイベントは入学式の日なので終わっているのだ。副担任の相川先生は言うまでもないよね。
見たかった…。
まあ、森崎君のほうは見れるようなものではないので仕方がない。
入学式前に迷子になり助けてもらう、というものだから。
入学式に遅刻する覚悟があれば見れたかもだけど、さすがに、それはちょっとね。
ちなみにこの時に速水君とも出会っている。
私も早く出会いたい!
坪田君のほうは同じクラスなので、もちろんそこで出会っている。
ただ、イベントとしては昨日は一緒に帰っているはずなのだ。
見たかったのに! 担任め!
担任の段取りが悪くて私のクラスが終わったのは1年で最後だったのだ。
用事がない人たちはほとんど帰ってしまっていて、イケメン探しに行きたがっていた子たちはがっかりしていた。
もちろん私もがっかりだった。
校門前で待ってるつもりだったのに…。
仕方がないので、相川先生に会いに行くという子たちについていった。
用事? もちろんないよ。
ただ会いに行くだけだ。
みんなで会いに行って、お決まりの「私たちのクラスの担当じゃなくて残念ですー」というセリフからの「担当じゃなくてもいつでもこうやって皆さんで遊びに来てください」という社交辞令という名の言質をとってきた。
先生ってのは会いに行きやすくていいよね。かなりテンションが上がった。
まさしくモブだけど、気にすることはない。
相川先生相手にフラグを立てたいとは思ってない。
在学中の恋愛、ダメ、絶対。
個人的な意見だから、他人に押し付ける気はないけどさ!
それはともかくとして、なら、土居君の出会いイベントかと思うだろうけど、実はそうじゃない。
私の狙いは速水君です! あと瑞姫さんね。
速水君は入学式の日に一応主人公と顔を合わせているけど、その時に名乗ったりはしていないのだ。
本格的な出会いはそのあとにちゃんとある。
それが今! 一般的な登校時間よりも少し早目の学校。…のどこか。
あやふやすぎて、困る。
イベント内容としては早起きした主人公が早めに学校に来て散歩していたら、速水君と遭遇してまた迷子だと思われる、というものである。
しかもそのあと森崎君も現れるのだ。
ほかに人がいたら発生しないイベントだろうけど、大事なのはイベント自体ではなく、早い時間の校内にその3人がいる、ということである。
人が少ない時間なのでお近づきになるチャンスだ。
ただ問題は、そのイベントが屋外ということしかわからないことである。
この学校は広い。裏庭などには木がたくさん植えられているから視界も良くない。
一人の人間と遭遇するにはかなりの運が要りそうだ。
ともかくうろうろしてみるしかない。
今日こそ転生者補正を発揮するんだ!
「あ、結衣おはよー。」
「……おはよー。」
私はとぼとぼと教室に戻った。
結果? 聞かないで。
「どこいってたの? 鞄あるのにいないからトイレかなと思ってたのに全然戻ってこないんだもの。」
「ちょっとね…。」
出会いを求めて外を徘徊してたとは言えない。
人が増えてきたのでやめたのだ。
「元気ないわねぇ。」
1時間もうろうろして収穫なしでは元気も無くすのさ。言えないけど。
今日じゃなかったのかもしれない。
うん、きっとそうだ。
私の記憶違いなんだよ。
また明日リベンジしよう。
「そうそう、イケメン情報、結構出揃ってるみたいよ。」
「はやっ!」
「数の力ね。」
「聞かせて聞かせて。」
ちょっとテンションが上がった。
聞くと1年の攻略対象4人の基本情報が出そろっていた。
女子の情報網ってすごいな。私もその一員のはずなんだけどね。
ほとんど知っていることだったけれど構わなかった。キャラの話しているだけで楽しいし。
どうやら瑞姫さんはゲーム通りに出会いイベントをこなしているらしい。
名前こそわかっていないけど、入学式の直前に森崎君たちといたこと、その日坪田君と帰ったこと。どちらもばっちり情報として挙がっている。
このクラス、探偵でもいるの?
ちょっと怖くなった。
まあ、瑞姫さんの情報はついでという感じなので、今のところ注目されるほどではないみたい。
出会いイベントは、あとは土居君なのだけど…その、実は、うん。覚えてないんだ…。
ここまで! ここまで出てるんだよ!
でも、別のゲームのとかが出てきて!
思い出せない~!
私の馬鹿! なんでもっとやりこんどかないの!
でもでも! ぶっちゃけキャラの中では一番興味なかったんだもん!
出会いって自動で起きるからほぼ飛ばしてたし!
まさかこんなことになるなんて!
「おーい、何唸ってんのよ?」
は! うっかり!
「あ~…ほら、見事にクラス遠いなぁって。」
「ほんとにねぇ。」
「しかし、4人もあのレベルのイケメンがいるの?すごいねぇ。」
知ってたけど。
「同レベルとするかは人によるだろうけどね。あとは相川先生かな。」
「生徒会長は?」
「会長もかっこよかったわよね。森崎君と比べるとちょっとかすむけど。」
「なるほど。」
やっぱりそういう評価になるのか。
ゲームでも井沢会長の評価は彼らほどではなかった。
あくまで顔だけの話だけど。
井沢会長との出会いイベントはまだ先だ。
と言っても生徒会関連になるので接触は無理。
学年まで違うと理由もなく会うのは難しいだろうな。隠しキャラなだけあって情報少ないし。ほとんど生徒会関連だよ!
結局、次の日も、その次の日もキャラとの遭遇はできなかった。
「結衣、おはよー。」
「おはよー。」
「で? 収穫はあった?」
「へ?」
「出会い求めてうろついてるんでしょ?」
ばれてる!
「え、えへへ…。」
「そこまでするならクラスに乗り込めばいいのに。」
「偶然の出会いがいいんだよ!」
「なんて仕組まれた偶然!」
笑いながら突っ込まれる。おっしゃる通り。
「まあ、クラスに群がっても嫌がられるだけだろうしね。実際そういう子、いるみたいだし。」
「あ、やっぱり? 私ももうやめるよ…。」
今週も今日で終わりだし、奇行、ばれてたし…。恥ずかしい!
「亜紀は知り合いたいとか思わないの?」
「私はどっちかっていうと、芸能人にキャーキャー言ってる感じかな。知り合えるなら知り合いたいけどね。イケメンの知り合いにはイケメン多そうだし!」
ドン引きされなくてよかった。気を付けよう。
それにしても今週は無駄に早起きしたなぁ。遅刻するよりはいいけ、ど…。
遅刻!
そうだ! 遅刻だ!
土居君の出会いイベント! 同じ日に遅刻するやつだ!
もう手遅れだよ!
登校してるよ!
今週終わったよ!
こうして結局、私の出会いイベントなんてなかったのである。