第2話
「森崎君、かっこよかったよね!」
「なんで同じクラスじゃないの~!」
「生徒会長もかっこよかったよ!」
「ほかにもすっごいイケメンいたよ!」
「嘘! 私見てないよ! 何年?」
「1年! でも、B組だった…。」
教室内に女子たちの悲鳴が響き渡る。
隣のクラスになら聞こえてそうな音量だけど、ここはF組。気持ちはわかる。
ちなみに隣のE組どころかD組にすらゲームキャラはいない。
森崎君と速水君がA組、瑞姫さんと坪田君がB組、土居君がC組。
相川先生はB組の副担任で、AからC組の数学担当だ。
偏りすぎだ!
クラスばらけすぎたら絡みにくいもんね! わかるけどね!
だけど、そこまで遠いと普段使う階段すら違う。となると、偶然ではすれ違うことさえ難しい。
まあ、つまり件のイケメンは坪田君だと思われる。私も見たかったなぁ。
入学式では、隣の二クラス分の列が邪魔でキャラたちは全然見えなかったのだ。
見ることすらままならぬとは…。
クラスメイトですらないモブって…いや、大丈夫。私、転生者だし!
「私が見た限り、この学年、ほかにもすごいイケメンいたのよ。」
前の席の子が振り返って言う。入学式の時の子だ。福山 亜紀ちゃん。ゲームにはいなかったはずだからモブ仲間だ。いや、クラスの全員がそうだけど。多分。
私の名前が藤本 結衣なので出席番号が前後なのだ。すでに友達になった。
「見たの!? いいなぁ!」
「あ、知ってたんだ?」
おっと失言。見たことないのに知っているのは不自然だ。
気を付けよう。
「ほんとに、同じクラスじゃないのが悔しいねぇ。」
「入試の時にも全然気づかなかったし、私、運ないのかな。」
「私たち、ね。」
と言っても、私的には同じ学校に入れるだけでもすごい強運だと思っているが。
ちなみに、のちに噂で知ったのだが、攻略対象者達と同じ教室で受験した女子の合格率はかなり低かったらしい。
確かに、何の準備もなくあんなイケメンを見たら一夜漬けレベルの知識は吹っ飛ぶよね。
その子たち、公立受かってればいいな…。イケメン、おそるべし…。存在するだけで人の人生狂わせるのね。
いや、本当にそのせいだとは決まってないけどさ。
「B組に友達いるから、あとでいろいろ聞かないと。」
「いい情報入ったら教えてね。」
「もち。」
すでにクラスの女子間では軽い協定が結ばれている。
簡単に言えば、話題、情報はみんなで楽しもう、だ。
目撃情報や、噂などを共有してキャーキャー言うのだ。
同じクラスにイケメンがいないなら、堂々と楽しんでしまえ! という開き直りだ。
クラスの男子?
うん、別に彼らがダサいとかいうつもりはないよ、あっちが別格なだけ。
芸能人が同じ学校にいると思ってあきらめてほしい。
乙女ゲームの知識はもちろん隠すけど、情報提供くらいはいいよね。モブ仲間だし! クラスでハブられたくないし!
女子の派閥は怖いからなぁ…。
クラス運に恵まれなかった私だけど、バイト運もなかった。
ゲーム内で主人公は数か所あるバイト先から自由に選べる。
そのバイト先によって、イベントがあったりする。と言っても各場所1つくらいなのだけど。
どちらかというとパラ上げとおしゃれのための資金集めの要素がメインだったからね。
瑞姫さんと同じバイト先だということはないのだけど、瑞姫さんがバイトをするとは限らない。
ゲームでは買い物のために必須だったけど、ここ現実だし、おこづかいでやりくりするかもしれないし。
おこづかいはバイトで稼げと言われている身としては、待っていられないわけだ。
というわけで、自分の直感を信じてバイト先を決めた…かったけど、まず受からなかった。
タイミング悪くすでに決まった後だったり、同時に応募した人が経験者でそっちが受かったり、間が悪かったとしか言いようがなかった。
転生者補正、まったくないし!
それとも、これがモブの本領だというのだろうか。
結局、ゲームに出てこなかった飲食店に決まった。
ゲームから離れたら一発で受かるんだもんなぁ。
わかってる、モブだもんね、私。でもあきらめないよ!
なら、部活に入ればいい、と思うだろう。
文化部はほぼ男子と女子一緒だし、運動部ならマネージャーという手もある。
よっぽと人数が多くない限りは断られないしね。
ところがどっこい。ほとんどの攻略キャラは部活には入らない。
ほとんどが生徒会メンバーなのでそうなったのだろうが今となっては口惜しい限りだ。
唯一、相川先生が演劇部の顧問としてかかわっているけど、演劇部…。
………うん、無理。
いや、裏方とかもいろいろあるのはわかってるよ?
舞台に立つだけじゃないのはね。
だけど、今この学校の演劇部は結構な規模なのだ。相川先生目当ての女子が大量で。
そして、そのせいで超ギスギスしている。
本気で演劇やりたい子たちと、ミーハーなだけの子。
2大派閥だ。
ホント、女子って怖いね。
そんなところに入るなんて、ほんと無理。
あ、ちなみに相川先生ルートではその辺も物語に深くかかわってくる。
ミーハー組だと思われた主人公が素晴らしい演技力で本気組を納得させ、そんな主人公が間に入ることで少しずつ部内の不和が改善されるのだ。
さすが主人公。ハイスペックだ。
もし瑞姫さんが入らなかったらそのままなのかな。ゲームでは出てこなかったからなぁ。
とりあえず周りで入ろうとする子がいたら警告はしておこう。
というわけで、部活もあきらめるしかない。
ぶっちゃけバイトと両立できる自信ないしね!
ちなみに生徒会に入ろうなどとおこがましいことは言わない。
前世ではそうでもなかったけど、ここでは生徒会と言ったら成績優秀者の集まりだ。ついでに美男美女。
顔もそうだけど、成績がなぁ…。
「結衣は何か部活入るの?」
「うーん。バイトあるしなぁ。亜紀は?」
「どうしようかなぁ。委員会に入るのもいいかなーって思ってたのよね。」
委員会!
そういう手があったか!
部活ほど拘束されないし、のちに生徒会に入る彼らとの接点も出来やすい。
いや、そのころまでには仲良くなっていたいけどさ!
保険ね! 保険!
諦めてないよ、大丈夫!
「でも、委員会に入るのは難しいかも。」
「へ?」
何委員がいいだろうかと真剣に考えていたのだけど、亜紀はあきらめたようにそうつぶやいた。
なんでだろ? 委員会って大体不人気だよね? 相方がイケメンとかじゃない限り。
「みんな、ほかのクラスと接点持ちたいのよ。」
狙いは同じか!?
彼らが委員会に入るとも限らないのに、というかゲームでは入らないのに、みんな必死すぎる。
でもきっとそれくらいの熱意がないとゲームの端っこに移るようなモブにすらなれないに違いない。
負けられない!
狙いは図書委員!
ゲーム内でも利用しているところが描かれている。
うまくその日にカウンター係になれれば会話ができるかも!
負けた。
クラスは同じになれず、部活やバイトで接点も持てず、委員会にすら入れない…。
私、正真正銘ただのモブ?
モブという名の巻き込まれキャラになれない?
ううん、まだ初日。
落ち込むのは早すぎる。
唸れ、前世知識!
まずは全員とすれ違う!
そんなすこぶる低い目標を掲げた私につっこんでくれる人はもちろんいなかった。