第11話
さてさて、文化祭が終わり、次なる大きなイベントは…そう、クリスマス!
なんとこの学校、クリスマスに学校主催のパーティがあるのだ。
大きな会場を借りての立食パーティ。
ゲームでは流してたけど、これぞまさに2次元設定だよね。
だって、普通に考えたらいろいろ問題とかおきそうだし、お金かかるし、準備大変だろうし。
元々は昔の生徒会長が始めたことらしい。
クリスマスにボッチで過ごすなんてごめんだー! と言って有志を集めて学校でパーティをしたらなぜか翌年以降も引き継がれて、年々参加者が増え、ついには学校行事になっていたという。
ひとり者が多いってことだよね。
みんなでパーティしていたなら、あわよくば出会いもあるかもしれないしね。
まあでも、そんな裏事情は考えずに参加するのが吉だよね!
プレゼント交換もあるし、楽しみ!
「問題は、何を持っていくかだよね。」
「誰に当たるかわからないものって、選ぶの難しいね。」
「もう自分がもらってうれしいものでいい気もするわ。」
駅前のショッピングモール、そこの雑貨店の一つで3人で頭を悩ませる。
プレゼントの推奨金額は千円。妥当なところだと思うけど、いいなと思うものに限って高すぎたり安すぎたり。
推奨、だから絶対ではないけど、空気を読んで合わせないとね。
「いっそ受け狙いというのも…。」
「私はしないわよ。」
ズバッと拒否された。
「誰に渡るかわからないから、もらった時の反応も見れないしね。」
むむむ、確かに。
どうせ受け狙いを送るなら受け取った時の反応を見たいよね。
それに友達同士で笑いあえる状況で開けたならいいけど、家で一人で開けて、がっかりするとか最悪だもんね。
真面目に考えよう。
「私はこれにするわ。オルゴール。」
亜紀がとったのは小さなオルゴールだ。それなりに外見も凝っている。
「値段が値段だから大したものじゃないし、もらっても適当に置いておくだけで聴かないだろうけどね。」
そこまでわかっていて選ぶんだ。でも、それくらいの気楽さでいいよね。
「じゃあ私はこれにしようかな。」
そういって真理がとったのはマグカップとお皿が入った食器セットだ。
「気に入れば使うだろうし、食器棚の肥やしになっても、使ってるものが割れた時にそういえばーってなるかもしれないしね。フリマにも出しやすいし!」
もはや使わないことを前提にしてるよね。
確かに、知らない人からのプレゼントなんて使いにくいけど。
「むー…。」
二人がさっさと決めてしまったから少し焦る。
これなら、と思っても、でも男の子はいらないかなーとか考えてしまってなかなか決まらない。
もう、クッキーとか日持ちのする食べ物に逃げようかなぁ。
なんとなく無難すぎて負けた気になるんだよね。
「そんなに難しく考えなくても、どうせ使われないって。」
「別の店に行く?」
会計を済ませた二人にそう声をかけられる。
もうなんでもいいか!
「わかった、これにする!」
そういってとったものを二人に見せる。
「このご時世に写真立てか~。まあ、いいんじゃない?」
「確かに最近写真は撮らないかも。でも、飾りになるし、いいと思うよ。」
最近はデジタルばっかりだもんね。データはあるけどあんまりプリントアウトしてない。ミスったかな…。
正直これで約千円って高いよね。どこにお金かかってるんだろう?
まあ、どうせ自分のになるわけじゃないし、いいか…。
最初の頃の悩みを無視して投げやりな選択になるのはもう仕方がない。
「そういえば、服装はどうする?」
パーティの時の服装は、自由だ。もちろん、羽目を外しすぎたものの場合は教師陣から怒られることになるけど。
「「制服。」」
だよねぇ。
聞くところによると、上級生は結構おしゃれな格好をしてくる人が多いみたいだけど、一年でそこまで気合いを入れた恰好はしにくい。
ラフな私服ってわけにはいかないしね。
曲がりなりにもパーティだ。正装とまではいかなくてもそれなりの格好をしないと雰囲気を壊すことになる。
その点、制服は便利。何も考えずに済む。
ちゃんと案内に制服でOKって書いてあるしね。
「大体一年と男子はほぼ制服なんだってさ。」
「そんなものだよね。」
ゲームでも主人公はドレスだったけど、攻略対象は制服だった。
当時は手抜きか! って思ってたけど、高校生が学校のパーティのためにスーツやらタキシードやらは用意しないよね…。
「うわー。すごい。」
クリスマスパーティ当日。
早めに会場に来たつもりだったのだけど甘かったようだ。
ホールへの入り口には長蛇の列ができていた。
「これは、時間かかるわね。」
「うん。だけどギリギリに入りたくはないし、並ぶしかないよね。」
入口で出席確認と共にプレゼントを渡している。その確認に時間がかかるため、行列になっているのだ。
もっといい方法がありそうだとは思うが、文句を言っても仕方がない。
皆素直に列に並んでいる。友達としゃべりながら待ってればすぐだしね。
「あの人たちは三年生かな? すごいドレス。」
「高そう…。」
「レンタルじゃない?」
三年生の集団であろう人たちを見て感心する。
ああいう格好をできる機会ってそうそうないし、みんなでやるなら楽しいだろうな。
来年は私たちも着たいかも。
「たまに大きいのもの持ってる人いるね。」
「中身気になるよね。」
「私はむしろ、スーパーの袋のまま持ってきてるあの人に感心するわ。」
こそっと亜紀が言った言葉に同意する。
お菓子なのはわかるけど、せめて紙袋とかに入れなおそうよ!
多分一年の男子。提出の際に先生にも怒られてた。でも、ちゃんと袋の用意があるってことは、毎年同じような人がいるんだね…。
「一年F組、藤本結衣です。」
パソコンで人物照会をしている先生に名乗りながら学生証をみせる。
さすがにここは生徒ではなく、先生が管理している。
「はい、プレゼントを預かります。」
プレゼントを渡し、代わりに造花のブローチを受け取る。
これがプレゼントを持ってきた証拠であり、パーティ感を出すための小物でもある。
胸ポケットの部分につけて、いざ、会場に入った。
「わー…。」
さすがに、ほぼ全校生徒が集まる場所なだけあって、広い。
ど真ん中に大きなクリスマスツリーが置かれている。
ほんとに、よくこんなことできるよね。
「わ、すごい。」
続けて入ってきた真理も感嘆の声を上げる。
いたるところにテーブルが置かれているけれども、そこには何も乗っていない。
パーティが始まれば各々好きなところに集まることだろう。
「豪華さとしょぼさが見事に混じってるわよね。」
両サイドに設置されている軽食やお菓子、飲み物を見て、亜紀がわらう。
今は入れないようにロープが張り巡らされているが、置いてあるものは見える。
おいしそうなカップケーキがおいてある場所もあれば、市販のお菓子が袋に入ったまま置かれている場所もある。
まあ、わざわざ個別包装を開ける必要はないけどさ。確かにちょっと笑える。ゴミ箱も大量に用意されてるしね。
基本的に手づかみで食べれるものしか置いていない。
さらに言うなら用意されているのは紙コップと紙皿だ。せめてプラスティック…!
会場が豪華な分、ちぐはぐだ。
でも、現実はこんなものだよね。
「おーい、三人もこっちおいでよー。」
呼ばれたほうを見て見ると、F組の皆が集まっていた。
「やっほー。」
「やっぱりみんな制服なんだ。」
「今年は様子見。」
「でも結構みんなドレス着てるし、来年は着たいよね。」
「うんうん。」
皆で雑談をしていると、パッと照明が落された。
そして、舞台のほうでスポットライトがつく。
「皆さん、お待たせしました。パーティを始める前に簡単に注意事項を述べさせてもらいます。」
おお! 瑞姫さんだ! ドレス姿似合う!
ゲームでは参加している姿しか描かれていなかったけど、生徒会役員だもんね。仕事もあるよね。
ほかの役員の姿が見えないのは仕事中だからなのだろう。大変だ。
ちなみに、坪田君は会場内にいるよ。結構女の子に囲まれている模様。
わたしたちF組は空気が読める系女子を目指しているので彼らの邪魔になるような接触はしないのだ。知らない人に囲まれて過ごすパーティとか、苦痛すぎる。
どうせ間が悪くて近づけないだろうから、開き直っているとかではない。
「それでは、皆さん、楽しい時間をお過ごしください。」
瑞姫さんのその言葉を皮切りに、パーティは始まった。
皆、我先にと食べ物のほうに向かう。特に男子が多い。
「あれはちょっと待ったほうがいいね。」
そういいながら待っていると、会場の一角で歓声が上がった。
どうやらいなかった生徒会のメンバーが来たらしい。
気にはなるけど、今日はいかない。行かないったら行かないのだ。
ああ、でもやっぱりもったいないかな…。
そんな葛藤をしているとクラスの男子がお菓子と飲み物を持ってきた。
いつの間にかパシられていたらしい。
「ありがとー。」
「みんな頼りになるー。」
若干棒読みで感謝を述べるクラスメイト。
前から思ってたけど、みんな強かだよね。
「確かにあそこにつっこめとは言いにくいけど、当然のように使ってくるなよなぁ。」
「普段は俺らなんて眼中にないくせにな。」
「適当にとってるから、欲しいもんがあるやつは自分で行けよ?」
ちゃんと女子全員分をとってきてくれたらしい。優しいね。
もちろん、ほかのところにも行ったけれども、基本的にクラスで固まって過ごした。
舞台上では吹奏楽部による演奏や、有志による出し物が行われて、なかなかの盛り上がりだった。
そしてあっという間に時間は過ぎた。
「皆さん、残念ながら、終了の時間となりました。」
舞台上に速水君がたって、そう言った。生徒会長じゃないのは珍しいね。
皆からブーイングが上がるが、まあ、ただのお約束だ。
「混乱を避けるために、退出の順番をこちらで指示させてもらいます。ご協力お願いします。」
一気に出口に向かったら大混乱だもんね。
「出口では、ブローチを返却していただき、その代わりにプレゼントをお渡しします。」
何の情緒もないプレゼント交換だが、仕方がない。
あの大量のプレゼントをシャッフルして配るなんて、こうでもしないと無理だ。
「どのプレゼントも、誰かが考えて用意してくれたものです。何が入っていても不用意な発言をしないようにお願いします。」
大声でけなす人とかいそうだもんね。
「では、一年A組から退出をお願いします。」
散らばっていたらしいA組の人たちが移動していく。
ゲームではヒロインは願った人のものをゲットしていたけど、現実はそんなに甘くない。わかっている。
そもそも、プレゼントを開けたらその送り主がタイミングよく現れるなんて、主人公補正がないと無理だ。
入学当時の私なら、もしかしたら…! って思えたんだけどねー。
結局、もらったのはお菓子の詰め合わせだった。
変なものじゃなくてほっとした。
こうして、自身のあきらめムードも相まって、まさにモブとしてクリスマスを終えたのだった。
でも、楽しかったよ!