第10話
「うっわー…すごい人。」
文化祭2日目、外部のお客さんが入る本番ともいえる日だ。
と言っても、しょせん高校の文化祭。そんなに来ないだろう、と思っていたのだけど甘かった。
乙女ゲームの世界、侮ってた。
そうだよね! 文化祭のシーンはどこに行っても背景に人が大量にいたもんね!
昨日に引き続き、教室の前で呼び込み兼列整理なうだ。
予想通り子供連れの人が多いので結構大変だ。
これは、当番の時間が大幅に伸びることを覚悟するしかないだろう。
まあ、昨日のうちにめぼしいところは回っておいたのでいいのだけどね。
タコ焼き、焼きそば、フランクフルト、イカ焼き、アメリカンドッグにリンゴ飴、唐揚げに、綿あめ、ベビーカステラ。
ホントに定番ものが揃ってて、すごいと思ったね。
前世ではこんなにお目にかかれなかったよ。衛生管理がどうとか、コンロの数がどうとか機械のレンタルがーとかいろいろ理由があってさ。
ちなみに今日はお好み焼きとかき氷と焼き鳥を食べたいと思っている。
食べ物ばっかり行ってるわけではもちろんなく、お化け屋敷とか、迷路とか、クイズ大会とかも行ったよ、もちろん。
どれもすごい凝ってて、クオリティが高かった。
迷路とか、体育館いっぱい使ってるから普通に迷ったよ。あ、ちなみに劇とかやるホールは別にあるの。
2階部分の通路にそのクラスの人たちがいて、迷ってどうしようもなくなったら手をあげると助けに来てくれるシステム。
3年ともなると凝り具合が違うね。
憧れの二次元の文化祭がまさにここに! って感じ。
前世では、ねぇ。
ゲームとか漫画とかで描かれてる文化祭がすごく楽しそうで、すごく期待していたのに実際にやってみると想像していたものよりもかなりしょぼくて、がっかりした記憶がある。
まあ、楽しいことは楽しかったんだけどね。
ここのとはケタが違うよ。
モブでも全然問題なし、超楽しい。
ま、もちろん自由時間にはイベント探しに行くけどね。せっかくの乙女ゲーム転生ですから!
「どこに行く?」
「B組の喫茶店、昨日行ってないし、行く?」
タイミングが良ければ坪田君か瑞姫さんがいるかも!
「行こう!」
B組は和風喫茶だ。つまり和服! 見ない手はないよね!
もちろんイベントでは着物に身を包んだ坪田君が給仕している姿がスチルとしてあった。
ちなみに森崎君は生徒会として見回り中に買い食いするというもの。速水君は迷子の子供の母親を探すというもの。
土居君は…ごめん、忘れた。
いや、土居君のルート、一回しか通ってないんだよ。そんなに詳しくないんだよ。こうなるってわかってたらもっとやりこんどいたんだけどね。
相川先生は演劇部関連。井沢前会長は1年目の文化祭はイベントなしだ。
森崎君のと速水君のは時間も場所もわからない。瑞姫さんがイベント起こしてても遭遇はかなり難しいんだよね。
と、言うわけで、坪田君がいますように!
はい、いません。
イケメン情報網によると今日はまだ一度も店番をしていないらしいから、これからだろうけど、ずっとはいられない。
文化祭の出し物で居座るとか迷惑すぎるしね。
「うー…このタイミングの悪さ。」
「結衣って結構運ないよね。」
「ま、まあまあ、それより、ほら、おいしそうだよ。どれにする?」
真理の差し出したメニューを見る。
お団子、大福、饅頭などが数種類ずつ載っている。やっぱりクオリティ高いなぁ。
「うはー、これ全部手作りなんだよね? B組女子の女子力高い!」
飲み物は数種類のお茶がホットとアイスで選べるようになっている。
「もしかしたら男子かもよ?」
「こういうのって意外と男の子のほうが上手だったりするよね。」
確かに、接客をしているのが主に女子なことを考えると、裏には男子がいる可能性のほうが高いのかも。
F組だと…うん、男子のほうが上手そう。
「決めた? すみませーん。」
全種類、と言いたいところだけどさすがに無理なので数個に絞った。制覇したかったからちょっと悔しい。
「はーい、ご注文どうぞ。」
注文を取りに来た人を見て、驚く。
瑞姫さん!?
さっきまでいなかったよね!?
「おーい、結衣はどれにするの?」
亜紀の言葉にハッとする。
「あ、これと、これで。」
「かしこまりました、すぐにお持ちします。」
瑞姫さんはそう言って、一度裏に下がっていった。
びっくりしたー。
「瑞姫さん、生徒会の仕事の合間にちゃんと手伝ってるんだね。」
真理が驚いたように言った。
生徒会の人たち、ずっと仕事してるもんね。ゲームではちゃんと自由時間あったけど、瑞姫さんたちはあるのかな。ちょっと心配になる。
「しっかし、似合ってたわよね。」
「ほんとにねー。イケメンたちのレベルが高すぎて注目浴びてないだけで、瑞姫さんもかなりの美少女だよね。」
というか多分男子生徒の間では人気あるんじゃないかな。
生徒会に入ったから、周りの男子のレベルが高すぎてあきらめた人も多いかもだけどね。
大体ゲームでは主人公は普通って評されるけど、実際はそんなことないよね。じゃなきゃあんなにイケメン落とせるわけがない!
っと、話がそれた。
それよりも、だ。
瑞姫さんがいるってことは、もしやもしや、もうすぐ坪田君も来ちゃう!?
イベントでは、急に忙しくなって、ヒロインの手が回らなくなったところにすっと入ってきて給仕を手伝ってくれるんだよね!
そしてパパッとお客をさばいていく、というもの。
見たいー!
「お待たせしました。ごゆっくりどうぞ。」
持ってきてくれたのは残念ながら瑞姫さんじゃなかった。
次こそは話しかけたかったんだけどな。
でもおいしそう!
「そういえば、演劇部の劇、もうすぐじゃない?」
「あと20分くらいかな。」
忘れてた! それもあった!
ゲームだと、今日の劇で相川先生が代役で出るから見たいと思って誘ってたんだった。
「じゃあ、食べ終わったら行くくらいでちょうどよさそう。」
こ、ここのイベント見たいのに…!
でも自分から劇見たいって言っておいて、ここに居座りたいなんて言えない!
食べてる間にイベントよ、起きろ!
まあ、起きないのはわかってたことだけどね。
イケメン情報網によると、私たちが去った10分後くらいに坪田君が現れたんだってさ。
わかってた、わかってたよ、うん。
まあ、劇も面白かったしね。
相川先生が出た時には驚きの声と歓声が上がってたよ。
私は知ってたけど、みんなは知らないもんね。そりゃ驚く。
イベントを知っているっていうのはそういう驚きがないからその点ではちょっと損なのかもね。
ちなみに、私たちが劇見てる間に森崎君と速水君のイベントも終わったらしい。
ホントに運無いよ、私。
速水君のほうは瑞姫さんはいなかったみたいだけどね。
でも、迷子の母親を探してたっていうからイベントで間違いないと思う。
森崎君のほうは衝撃ニュース! って感じで回っていた。
まあ、なんといっても、『あーん』ですから!
買い食いなんだけどね、たこ焼きをね、あーんで一個食べさせてくれるんですよ!
森崎君として弟妹にやる感じでやってるだけで、この時点では恋愛感情はないけどね、ゲームでは。
そのほうが罪作りだけどね! 自分の容姿を考えて! 落ちるから!
見たかった!!
それにしても、瑞姫さんは森崎君と坪田君のイベントを起こしたってことだよね。どっちが本命なのかなぁ。
まあ、ゲームとは違うんだからイベント起こしてない人が本命って可能性だってあるけど。
でもイベントが進んでるってことは、好感度が上がってるってことだろうし、二人が有力なのは確かだよね。
結局、その後もクラスの手伝いがあったから何も起きずに終わってしまった。
最近はちょっと運が向いてきてると思ったんだけどね…。そううまくはいかないか。
文化祭が終わった後は後夜祭があったのだけど、こっちでも何も起きなかった。
生徒会メンバーは忙しく働いてたし、坪田君はクラスメイトの男子と行動してたらしいからね。
後夜祭でイベントがあるのは3年目だけだしね。
でも、後夜祭でキャンプファイヤーとフォークダンスって、都市伝説だと思ってたよ…。踊らなかったけど。彼ら全員不参加だったしね。
乙女ゲーム世界ってすごいよね。




