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第1話

突然ですが、私、乙女ゲームの世界に転生しました!


何言ってんだこいつ…とは思わないかもしれないですね! 乙女ゲームへの転生物語なんて最近ありふれていますし!

でも、実際に起こるとは! 事実は小説より奇なり、ですね。


とは言っても、ヒロインだったり、ライバルキャラだったりはしません。ゲームにはいなかった、いわゆるモブです。少なくともゲームに名前はありませんでしたしね。

でもですよ! モブ転生ってなんだかんだでチートだったり、メインキャラと親しくなったりして物語に巻き込まれるんですよ!

もうわくわくです。

第二の人生、楽しみます!



私が転生した乙女ゲームというのは、普通の、というのが正しいかはわからないけど、現代日本のとある高校を舞台にしている学園ものだ。ファンタジー要素はない。

舞台となるこの町に小さい頃住んでいた主人公がまた引っ越してきて、高校に入学して攻略対象者達と出会い、あるいは再会し、恋していくものだ。

進むルートによっては多少権力争いというか、お家騒動に巻き込まれたりはするが、ストーリー上で命の危険などはない。

ここ、日本だし!

バッドエンドも、ただの女友達との友情エンドだ。安全って大事。

幸い、舞台となる高校もお金持ちしか入れないとか、権力者だらけ、とか、そんな特別な学校ではなく、多少偏差値が高いものの普通の私立学校だ。

となれば、もちろん行くしかない。

成績的にかなり厳しかったけれど、そこは気合で乗り越えた。かなり渋られつつも、受験を強行した甲斐があった。

学費的な問題で親にも渋られたけど、高校に入ったらアルバイトをして、家にお金を入れる約束で許可してもらった。

もうこの時点で、一生分の努力をした気分だ。

私、頑張った。


いざ、乙女ゲームの世界へ!





新しい制服に身を包み、私は乙女ゲームの舞台となる千照高校、その正門前に立っていた。

制服のデザインは文句なしに可愛く、正直、着こなせるか不安だったのだが大丈夫…だと思いたい。

凝ったデザインの上、かなり質のいいものを使っているようで、なかなかのお値段だった。さすが私立。


ところで…何の根拠もなくヒロインたちと同じ学年だろうと思っていたのだが、今更ながらに不安になってきた。

いなかったらどうしよう。

前世とか、私の妄想だったりしてね!


…笑えない。

町の名前も、学校の名前も、記憶通りだし大丈夫大丈夫。


よしっ! と気合を入れなおしてクラス分けの掲示板を見に行く。



いたーーーー!!


ヒロイン発見、ヒロイン発見です!

デフォルト名と同じ! 間違いない!

ヒロインの友達となる人たちの名前もばっちりあります!

同じ学年! よかった! 心配は杞憂だったようで何より。

ちゃんとヒロインと同じクラスに幼馴染キャラもいます。テンション上がってまいりました!

ばばっと周りを見回してみるも、ゲームキャラ達はいないようだ。残念。

ちゃんと記憶通りのクラスに全員の名前があり、安心して、うっかり自分の名前を探し忘れていた。


…見たクラスにはいなかったような気が。


いやな予感。


はい、的中です。

ヒロインも、攻略対象者もいないクラス。そこに名前がありましたとさ。


私、思っている以上にモブのようです…。





この世界を描いた乙女ゲームのタイトルは「青春ときめきハイスクールライフ!」という、製作者のネーミングセンスを疑うすばらしいものだ。

このタイトルを見て買いたいと思う人はいないに違いない。

じゃあなぜ買ったのかと聞かれたら、ひとえにビジュアルがよかったからだ。

乙女ゲームを買う基準なんてそんなものさ。

顔、重要。あと声ね。

総合的な評判としては、キャラはいいけど、ストーリーとネーミングがいまいちとのこと。同意。



主な舞台は、私立千照せんしょう高校。千を照らす、つまり生徒全員の先を照らすという意味でつけられたそうだ。別に生徒が千人というわけでもないのだが。

また、全員にスポットライトが当たるという意味もあるらしい。皆が主役だよ! っていうやつだ。

これは乙女ゲーム知識ではなく、舞台の上で校長がノリノリで話している内容だ。

どうでもいいから早く終われ。

乙女ゲームの世界でも校長の話は長くてつまらないものらしい。


物語はヒロインが入学するところから始まり、卒業するまでの3年間を描く。

育成タイプのゲームで、パラメーターでイベントが起きたり好感度が上がったりしていた。


ヒロインの名前は瑞姫 凛。

さっき確認したので間違いない。

明るく前向きで、もちろんかわいい。

少し天然が入っているのはお決まりだろう。

成績や運動能力はプレイヤー次第だったので、この世界の彼女はどうだかわからない。

ルートによっては生徒会に入る。部活やバイトも選択制。

乙女ゲーム転生ではヒロインも転生者の場合が多々ある。巻き込まれないようにしたり、逆ハーを狙った結果痛い目を見たりなどがあるが彼女はどうなのだろう。

要観察である。


攻略対象者は7人。全員が容姿端麗なのは言うまでもない。

同級生が4人、後輩が1人、教師が1人、そして隠しキャラだ。

先輩がいないのは物語がヒロインの卒業までだからで、後輩は2年目からの登場になる。

校長の話が続いているので今のうちに復習しておくとしよう。



まずは森崎 匠。

いわゆる俺様生徒会長だ。4人兄弟の長男で家族仲がいい。

あまり裕福な家ではなく、奨学金が充実しているという理由でこの高校を選んでいる。

そのため、成績はほぼトップ。両親の意向でバイトはしていない。

秋にある生徒会選挙で生徒会長になるはずだ。

誰よりも高校生活を楽しもうとしている。そんなキャラだ。

ちなみに犬好きだが、ゲームではほぼ使われていなかった設定である。

攻略には全パラメーターがいる。生徒会に入り、補佐をして親しくなっていくのだ。

選択肢としては、真面目な回答よりも楽しんでいることをアピールする回答が正解。


次に速水 修司。

クールな副会長。生徒会長の幼馴染。

めったに表情を変えず、突っ走りがちな生徒会長の補佐をしている。

と、周囲には見られがちだけど実はかなりのお人好しで、世話焼き。

困っている人は見捨てない、らしい。これもゲームではあまり出なかった設定。

どちらかというと、会長に対する世話焼きっぷりのほうが強調されていた。

一部のプレイヤー間でのあだ名が「おかん」だったくらいだ。

ぜひ生で見たいものである。

攻略には、運動以外のパラメーターが必要になってくる。生徒会長ともある程度仲良くしていないといけない。やはり生徒会に入り、仕事を補佐する。

こちらは基本的に仕事優先の真面目な回答が正解。ただ、楽しんでいるアピールでも好感度は上がるので、会長もいる場合はそっちのほうがいいことが多い。


土居 智也。

生徒会では、会計であり、いわゆるちゃらい系だ。

得意科目は数学で、将来は教師になることを夢見ている。

根はまじめ。今しかはっちゃけれない、という理由ではっちゃけている。深い理由はない。

ゲームでは金髪だったけれど、ここではどうなのだろう。

さすがにそこまで派手な色は校則違反だ。無難に茶色だろうか。何色でもイケメンには違いない。顔がいいとなんでも似合うからいいよね!

必須なのは数学。もちろん他が低すぎるとだめだけど。攻略するには生徒会に入るほうが簡単だけど、絶対ではない。

真面目な話は真面目に、軽い話には軽く返すのが基本。


坪田 良。

ヒロインの幼馴染だ。

彼を攻略するなら生徒会には入らないほうがいい。

よくある、ヒロインが以前このあたりに住んでいた時に仲良くて、好きだったというやつだ。

爽やかで人気者だけど、本音で話すのが苦手。

中学のころに、そのことで友達とけんかをして、そのままになっているのが少しトラウマ。

まあ、このルートを通れば、仲直りすることになる。

攻略としては一番簡単。選択肢で過去を懐かしんだり、頼りにしたりすればいい。

ただ、独占欲が少し高めなので注意。いつか病むのではないかとプレイしながらひやひやしたものだ。


松本 要。

後輩キャラだ。

その設定上まともに出てくるのは2年目からになる。

明るい子犬系キャラで、ヒロインをぐいぐい引っ張っていく。

実は結構ないいところのお坊ちゃんで嫌いな相手にはかなり辛辣。

1年目に遭遇イベントをこなしていないと攻略できない。

お姉さんぶった選択肢が正解。

まあ、今は関係ないからとりあえずは放置だ。


相川 隆平。

数学教師で、演劇部の顧問。

ほかの攻略者の場合は部活はほぼ関係ないのだけど、彼を攻略するなら演劇部入部は必須。

気さくで、教え方もうまく生徒に大人気。おかげで演劇部も大人気だったりもする。

実は数学のパラが低いほうがイベントが起きる。最終的には高くないとだめだけど。

まだまだ新任で、いろいろ抱えている悩みを解決してあげていくわけだけど…個人的な意見としては、このルートだけは通らないでほしい。

ゲームでなら全然問題はないけれども、やっぱり、在学中の生徒と教師がデートしたりとかはまずいだろう。

まだ24くらいだったはずだからロリコン、とまでいうつもりはないけれども。

実際目の前にしたら、ひく。自信がある。

そこは自重して、おねがい。切に願う。卒業した後なら何も言わないよ、うん。

在学中はダメ、絶対。


「次に、生徒会長、あいさつ。」


そのアナウンスに、私は舞台上をガン見した。

落ち着いた雰囲気のイケメンが壇上に上がってくる。

周りの女子たちがざわついた。

私も、感動で打ち震えている。やばい、かっこいい。声もいい…!ゲームと同じ!


彼こそが隠しキャラの井沢 和樹。

今現在の生徒会長。先輩キャラがいないといったが、実は彼が唯一の先輩キャラだ。

在学中は、生徒会に入り、仕事の引継ぎやその後のフォローで一緒に仕事をする。生徒会長ルートからの分岐だ。

ちょっと熱血系。彼が卒業後は休日デートがメインになる。彼の卒業までにルート自体は確定するので、残りの1年はやりがいがなかったりする。



以上7人が攻略対象者である。

物語は各々の恋愛エンドと、誰ともくっつかない友情エンドの8ルートだ。

ヒロインがどのルートを通るのか、早めに接触して見届けなければ…!


「新入生代表、あいさつ。」


先ほど以上に目を凝らし、耳を澄ます。

会場内が、先ほど以上にざわついた。


来た。

来ました。

生徒会長様ーーー!


いや、まだ生徒会長ではないのだけど! 脳内でいつも会長呼びだったから許して!

森崎…君、かな! 森崎君!

素晴らしいイケメンです! 文句なしにイケメンです! やばいです!

そこかしこで黄色い歓声が上がってます。気持ちはわかるよ! むしろ声も出ないよ!

もちろん、あいさつが始まれば皆ぴたりと黙る。聞き逃すなんてとんでもないもんね!


「…この千照高校で、今しかできないこと、ここでしかできないことを精いっぱい楽しみたいと思います。新入生代表、森崎 匠。」


一礼して、席に戻る姿に感嘆の声が漏れた。

幸せすぎる。

私も精いっぱい楽しむよ…。

声が聞こえたのか、前にいた女生徒が振り返った。


「あのかっこよさ、やばくない?」

「やばい。」


小声でそう聞いてきたので、全力で同意した。

入学式の最中なので、あとで語り合う約束をした。

友達になれそう! やったね!





入学式で確信が持てた。

ここは、間違いなく、あのゲームの世界なのだと。


キャラたちと同じクラスにすらなれないモブだけど、同じ世界、同じ学校にいるのだからいくらでも接点は持てるはず。


頑張るぞ!


そう気合を入れなおして、私はこぶしを握ったのだった。

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