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少女ブランヴェール

白の王と封印者の少女

白の王視点


その子供は、近親相姦によって血を保ってきたかの一族の特質を凝縮したかのように、不気味に美しい姿をしていた。

彼には人と同じ美的感覚はなかったが、(或いは、だからこそなのか)その子供は美しいと思った。

病的なほどに白い肌に、月光の下で輝く銀髪、そして、血を透かしたような赤い瞳。恐らく、脆いのであろうその姿が、彼にはとても儚く美しいものに見えた。人間というものはそもそも彼から見れば弱く脆い生物ではあったが。

子供は夢遊病じみた動きで宝玉のはめ込まれた聖杖を掴みあげ、虚ろな瞳をその青い宝玉に向けた。

その時、大地が揺れた。こらえきれずに子供は杖を持ったまま尻もちをつく。そして、ハッとしたように辺りを見回した。己が何故その場にいるのかわからない様子だった。

「あ、れ…わたし…」

『杖を元の場所に戻せ、人の子よ。結界が砕ける』

「ふ、ふぇっ?」

一際大きな揺れがその場を襲う。子供はもはや、立ち上がる事も出来ず、杖に縋っていることしかできなかった。

『…この国も落ちる、か』

滅びるのであれば、それもまたよし。かの一族が全く滅び、血が絶えるのであれば、それはそれで彼にも都合が良い。永く続いた静寂の刻に、彼も飽いてきているところだった。


あれからおよそ、10年が経った。

あの日、聖杖(ふういん)に最も近い場所にいた子供は、成長し、銀色の長い髪に蒼い瞳をした美しい少女となった。聖杖が子供を封印者に選んだのだ。それで子供はその生を永らえることとなった。それが彼女にとって喜ばしい事であったかは分からないが。

幸か不幸か、少女は封印者として優秀だった。歴代の他の封印者より多く、短い頻度でその力を行使させられているにも拘らず、生き続けていることからもそれがわかる。先日の侵攻の際には、堅牢と謳われた赤の国、その守りの要たる騎士王にさえ競り勝ってみせた。その時感じた懐かしい気配に、彼も思う所がないではなかった。彼の感慨など、気にする者はいないのだが。

「ブラン、赤の国は滅んだが、赤の王(クリムゾンバエル)も共に滅んだのだろうか」

『それはなかろう。封印は血が続く限り続いていくものだ。私にお前がいたように、赤いのにも誰かがいるだろう』

でなければ、騎士王が敗れた時に人に赤の王と呼ばれている者が現れたはずだ。…彼の宿命のライバルが。

白の王(ブランアウグスタ)にヴェールがいたように、赤の王にも誰かいるのか」

感情の窺えない平坦な声でそう呟いた後、少女は小さく首を傾げた。

「そいつは、ヴェールを終わらせるだろうか」

『…さてな』

騎士王は間違いなく赤の国でも歴代屈指の封印者だろう。後を継いだ者がそれ以上の力を持つとは考えにくい。もし、その者が騎士王以上の力を持つのであれば、その者が封印者となっているはずなのだから。


西域への侵攻の途中、本国壊滅の報が伝えられ、軍は大きな混乱に包まれた。例外となったのは、少女ただ一人だけだった。少女はいつも通りの感情の窺えぬ瞳で東方を見つめ、呟いた。

「ブラン、ヴェールはどうするべきだ?」

『それはお前が決めろ。幸か不幸か、頚木も外せる状況だ。このまま姿を眩ますこともできなくはないだろう』

少女は特異で人目を引く容姿をしているが、幻惑し誤魔化すくらいは雑作もない。後は、少女にその気があるかどうかだ。

「ブラン、ヴェールは空っぽだ。何もない。帝国が無くなったのであれば、何処へゆけるのだろう」

『何処へなりとゆけるだろう。その気があればな。…そうだな、お前の故国、白の国などどうだ』

より正確には、白の国のあった所、になるだろうが。彼にはほんの少し前まで己の()った場所ではあるが、少女にとっては遠い昔、忘却の彼方にある場所かもしれない。未だたった20年も生きていない少女にとっては、生まれ故郷たる白の国より、10年前から過ごしている帝国の方が長く過ごしているくらいだ。遠征に駆り出されていた時間も短くないが。

「ブランは白の国が懐かしい、か?」

『さて、な』

彼は白の国の一部分しか知らない。自由に見て回ったこともない。懐かしいと思うには、その思い出は無味乾燥にすぎるだろう。

彼が懐かしく思う場所があるとすれば、それは遥けき彼方、(しがらみ)無き空と何処までも広がるレヴァンダの草原だ。それは、疾うに人の手によって喪われてしまった。彼には、帰るべき場所など既に失われて久しいのだ。




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