月明かりにて
月明かりに照らされて、美しく輝いている花々たちの横では、若い男女二人がいた。通常だと、若い男女二人がいるのだから、甘いムードが流れていてもおかしくないのだが、美しい情景とは裏腹に、とても緊張した空気で張りつめていた。
…どうしよう。私は、何の協力をさせられるの?まさか、スパイ?それとも、なにか罪を犯す事をしないといけないの??ねえ、黙らないで、早く何か言ってよ!!
こうして焦ってる一方で、マキューシオは何も言わずに、ただ黙ってるだけで中々何も言わない。しばらくして、やっと口を開いた。
「ねえ、ソフィアって何者なの?」
「えっ!?…それは言ったはずです。ジュリエット様の侍女だと」
「それは、表向きだろう。本当のところは何者?」
「ですから…」
「昔、ある人物が言ったんだ。俺は、ある日、キャピュレットの者に殺されるだろう。そのある日とは、ちょうど明日に俺は死ぬのだと言われた。だが、俺はそのことを誰にも言っていないし、それを言った人物も、誰にも言ってないと言うんだ。」
「そ、それは…」
「その予言を何故、知ってるのかな?」
どうしよう…本当のことを言っても絶対に信じてくれないし、嘘をつくにしてもバレそうだし…しょうがない、最終手段を使わせてもらうわ!!
「言えません!!」
「何故って聞いても、教えてくれないよね。まあ、いいや。その為に罠をかけた訳じゃないし」
「…やっぱり、わざと分かるように仕掛けたんですね。でも、何故ですか?」
ホントに何なのよ!!私を面倒事に巻き込まないで。私は、ロミジュリの結末を変える仕事で手一杯なのよ。
睨むソフィアに対して、マキューシオはフッと笑ってソフィアの手を取って答えた。
「怒らせたようだね、ゴメン。理由は、モンタギューとキャピュレットの和睦を仲介をしてほしいからだ」
「仲介?で、でも、どうやって…」
「簡単だよ。パリス伯爵とジュリエットの婚約破棄とキャピュレット家の人間達の弱みを握ってさえくれれば良い」
…うん、こんな仕事を簡単と言えるマキューシオは、今まで相当ヤバいことをしてきたんじゃないの?こんな人と一緒に何かしないといけないなんて、私は、ロミオとジュリエットより先に死ぬかもしれない…
「でも、弱みは握れるかもしれないですけど、婚約破棄は難しいと思いますよ」
「それなら、明日の朝にある令嬢が訪ねて来ると思うから、その娘を上手く使ったら大丈夫」
「上手くって…そういえば、これって仲介になるのですか?」
「それは、ただ、仲介って言ってみた…」
ちょうどその時、ガサッと物音がしたと思えば…
「マキューシオッ!!お前が何故ここにいるっ!?しかも、ソフィアの手を!!」
そう、ティボルトが突如現れたのだ。それはもう、カンカンに怒って…
「野暮だなあ。恋人同士の逢引きを咎めるなんて。ははん、それともティボルト、恋人が出来ないから…」
「な、何をふざけたことを…」
「図星か。ハハッ、キャピュレットの後継者が…ハハハッ」
「…お前、だまって聞いてれば、このモンタギューの犬がーーっ!!」
私には、仲が良さげに見えるのは気のせいかしら?それにしても、ホントに猫を被ってたのね…
「黙れ黙れっ、もういいソフィア、行くぞっ」
「えっ、でも…」
「まさか、お前もアイツに着くのかっ!?」
「もちろんじゃないか。俺の恋人なんだから俺に着くに決まってるだろう、ねえ、ソフィア?」
えっ、いや、そもそも私は貴方の恋人ではないのだけれど。否定は…出来ないのね…
「じゃあ、ティボルト様が行って1分後に私も行くでどうですか?」
「ううっ、そ、それなら…」
「では、お休みなさいませ」
結局、ティボルトはソフィアに簡単に言い含められて退場したのだった。
「じゃあ、私も…」
「待って、これを…」
「何ですか?」
ソフィアの手には短剣が乗っていたのだった。
「誰かに襲われた時は、これで何とかしてね。じゃあ、バイバイ」
「あ、待ってください!!」
だが、もう既に誰もいなくなっていたのだった…
私は、どうなるの?短剣が渡されるって、ホントに二回目の死を迎えるかもしれないのね…