大公の罪
ガッシャン―
その音は、部屋中に響いた―
何故?-
****
「…もう一度聞く。本当にアイリスは出奔したんだな?」
「はい、そのようです。只今、捜索中でございます」
まさか、実の娘に裏切られる日が来るとは…
確か、さっきまで俺は一人邪魔者を消したという達成感から、一人で祝杯を上げてた所だった。だが先刻、入ってきた情報は不愉快な物だった。
まさか、あの箱入り娘が出奔するとは!!
勿論、原因は分かっている。ロミオがジュリエットと結婚したことを悲しんで耐え切れず、出て行ったのだ。さすが、我が娘だ。私の思惑通り、ロミオに恋をした。
それなのに、ロミオはあんな小娘を選びやがった。可哀相に、アイリス。そんなにも追いつめてしまったとは。一言でも相談してくれたら、計画のこと話してやったのだが…
コンコン―
「入れ」
「大公様、大変でございます!!広場へ来てください」
「何?」
****
広場では、たくさんの人が集まっていた。
その広場の中心では、マキューシオが皆に語りかけていた。
「皆、知ってるか?我が叔父、大公閣下はとんでもない奴だということを」
そこにいる人々、全員がざわめきだす。
そう、皆は知らないのだ。彼の驚くべき悪事を…
「大公閣下はなあ、いつも酒を飲み、いつも女を侍らせ、いつも借金を作り、いつも民に苦労をかけている」
そして、ティボルトも現れて言った。
「薄々、気づいていた者もいるかもしれないが、毎月、強制的にさせている教会への寄付金、あれは教会へなんか行っていない。全て、大公の懐に…」
すると、突然、人々が静まり帰った。
人々の視線を辿ると、そこには大公がいた。
「マキューシオッ!これはどう言う事だ!?お前は、大公家の者だろ!!」
「これはこれは、叔父上。いや、認めたくはありませんが『父上』でしたね」
「なっ、何処でそれを!!…なるほど、そう言う事か。マキューシオ、お前は大公である私の息子と認められなかった事の腹いせにこんなことをしたんだな、そうだろう?」
「フフッ…ハハッアハハハッ………ふざけるなっ!!俺は、こんなクズの息子なんかと認められたいとは、別に思わない。ただ、お前のせいで俺の母は死んだことをハッキリさせたいだけだ。」
「私のせいで、お前の母が死んだ?ふざけたことを言うなっ!」
「嘘をつくなっ!俺の母だけじゃない。他にも、何人も飽きた女を殺してきた。用が済んだら、ゴミだと言わんばっかりに」
その言葉に、そこにいる誰もが驚いた。そして、そこにいる誰もが憤りを感じた。
「しょ、証拠はあるのか?証拠がなければ、いくら血を分け合っているとはいえ、ただでは済まさんからな!!」
「勿論、証拠くらいある。証拠はコレだ!!」
そう言って、マキューシオが指を挿した方向には、例の宝石商が手を縛られた状態で立っていた。
「お、お前は!!」
「これでもう、隠し立てできませんねえ。皆、よく聞け!この男が言うには、大公はこの男を使って飽きた女を内密に暗殺してきたらしい。こんなことが許されていいのだろうか!?」
「皆の者、騙されるな!この男は嘘をついているのだ!!大公である私がこんなことをする訳ないだろう?」
だが、切羽詰まった様子で言うのだから、誰も信じなどしない。
それどころか、だんだん皆も大公に呆れ始めていた。
「では、この男の証言が本当だと言うのなら証拠を出せ!!」
「はいはい、分かりました。なら、言いましょう。お前の醜態をここいいる全員に教えてあげよう。大公閣下ともあろうこの男は――」
その瞬間、誰もがマキューシオが次に続ける言葉を見守った。
だが―――
「お父様~!!」
「アイリス!?」
空気が読めない男の娘、アイリスが空気を読まずに入ってきたのだった。