プロローグ
「火口、お前に称徳は無謀だと思うぞ」
「それでも受けます。あと半年がんばれば、どうにかなるかもしれないじゃないですか」
「そうか。そこまで言うなら止めはしないが、何でそんなに称徳に拘るんだ?」
(和佳ちゃんの母校だから。なんて、言っても通じないし、理由になってないけどね)
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中二までの成績は、五段階評価で平均三ちょっと。それを、高校受験までに平均四に少し届かない位まで上げたので精一杯。近隣では有数の進学校で100位以内(学年278人中)に辛うじて入り続けているのは、意地と、多分和佳ちゃんの教え方が上手いから。
家事は出来ず、バイトもしていなくて、他にこれといった特技もない。十八年弱の人生で通した大きなワガママは、「無理だと言われた高校に意地だけで入学した」と「親の転勤に付いて行かなかった」の二つだけ。
それがわたし、火口昭栄17歳。県立称徳高校三年生。マンションの管理人さん兄妹の部屋に下宿中。である。
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今住んでいるマンション―深草第一―に越してきたのは、小学校に上がる少し前。越してきてすぐ出来た友達が、同い年の「まぁちゃん」こと正己ちゃんと、4歳上の「なっちゃん」こと成実ちゃんの金城姉妹。
それから、当時はまだ近所に家族で住んでいた大家さんの息子のひろ兄こと木佐貫佳大さん(当時大学3年生)と、その妹の和佳ちゃん(称徳高校1年生)と知り合い、恒くん(土屋恒平くん。高校2年生)とも付き合いが出来た。この5人が、いわゆる「幼馴染み」だとわたしは思っている。
11年経った今、まぁちゃんとわたしは別の高校で、なっちゃんは美大生。和佳ちゃんは病院の小児科に長期入院している子供相手の先生で、ひろ兄はマンションの管理人をしつつ近所で喫茶店のマスター。
恒くんは、定職に就く気がないわけではないらしいけど今の所フリーター。と、バラバラではあるけど相変わらず仲は良い。
けれど、進路を考え始めなければならなくなったことで、彼らと居るのが少し辛くなったのも事実だった。
まぁちゃんは料理上手で、進路もそっち系に進むんだと昔っから公言していたし、なっちゃんは上手いのかどうかわたしにはよくわからない―抽象画が専門なのだ―けど、とりあえずその道でやっていけるだけの才能はあるらしい。和佳ちゃんは言うまでもがなで、ひろ兄はコーヒーを淹れるのだけはすごく上手くて、恒くんだって、その気になれば結構色々なれそうな位に沢山の資格を持っている。
高校が進学校だから、ほぼ間違いなく大学に進むことにはなる。けど、とりたててやりたいこともなく、大学の四年間で決まるとも思えない。
彼らと出会ったのは、そんなことを悶々と悩んでいる頃だった。




