【超短編】秋の甘いスイーツ(仮)
夏も数ヶ月がすぎ、涼しい風が吹きはじめる夕暮れどき。
放課後、学校近くにある公園での読書は、僕が高校入学してから、
ずっと習慣としている。
それは一年経って進級した今も、それは変わらないわけで。
今日もこうして本を読む。
夕暮れ差し込む公園の休憩所が僕の図書館となっているのだが、
実は僕以外にもう一人、お客様がいる。
正確には『去年から』だけど。
僕の対面に座るその子を、本ごしからちらりと見やる。僕の通う学校の、女子生徒服を着ている。
首からかかっているリボンから察するに、学年は僕と同じだ。
まあ、僕にとってその情報は、すでに知っていることなんだけども。
「どうしたの?」
「うぇっ!?」
突然声をかけられて、素っ頓狂な声を上げてしまった。
「なにその反応。ずっとわたしのこと、見てなかった?」
「そんなことないよ」
といって、本で顔を隠すけど。
うーん、バレてたか……。
「もしかして、これが欲しいの?」
「これ? どれ?」
「これ」
少しだけ本を下げる。
彼女は、手にしたスプーンで、半分消えた甘味を指していた。
「モンブラン、か。そういえば、甘いものよく食べてるよね、きみ」
ベンチの上に本を置きつつ思いだすのは、去年のこと。
この公園でこの子と出会った日のことだ。そのときも、彼女はそんなふうに
スイーツを食べていたっけな。
「うん。食欲の秋っていうし」
「季節関係なく食べてるような……」
冬も春も夏も、関係なく食べているのがこの子なのだ。
「きみにとっては、年中食欲の秋なんだね」
「……」
スプーンをくわえながら、僕をじっと見てくる。
どことなーく睨みをきかせているような気がするのは、思い違い
……じゃないんだろうなぁ。
「なに?」
「わたし、もしかして太って見えてたりする?」
「それはない」
即答した。
これで太ってるなら、日本人女性のほとんどが肥満の烙印を押されてしまう。
なにせ、この子は、もはや少女というレベルで小さいのだ。
中学生か……ヘタしたら小学高学年の子が制服を着ているような。
「きみの感想は、手に取るようにわかる」
「けっして太ってないという、僕の意思表示が伝わったみたいでなにより」
「そんなキレイなこと、考えてないでしょ」
「いやいや、そんなことー……」
そして、そんな幼児体型なこの子は、体つきも歳相応(?)なわけで。
「ほら」
「えあっ、見てないよっ」
「ふーん」
「しまった」
ああ、まるでミジンコを見るような目で僕をっ! おのずと視線が下に流れてっちゃうのは、もはや不可抗力といいますか……。
「わたしは食べても太らないの」
「だろうね」
どれだけ食べても、彼女はこの体型のままなんだろうな。そう思うと、なんだろう、ちょっとかわいそうに――
「どうして哀れみの目でわたしをみるの」
「そんなことないって」
「うそね」
ぐっと身を乗り出し、僕の口にスプーンを差し込んできた!
「むぐっ!?」
やがて、すぽっと抜かれたスプーン。
口の中に、甘いクリームとスポンジが残っている。
声のトーンを落とし、
「……わたしのかわりに太ってしまえばいいわ」
と吐き捨てると、また別のスイーツをテーブルに広げた。
「……甘いな」
「スイーツだもの」
夕暮れに頬を照らしながら、スプーンで次なるスイーツを救い上げ、彼女は口へと放っていった。