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チョコと煮干と秘めたる野望 ~バレンタイン聖戦~

作者: 浅田明守

以前に電撃文庫の読者さんか企画に投稿させていただいたもののちょこっと改変版です。

 2月14日、バレンタインデー。バレンタインが処刑された日であり、日本においては多くのチョコレートが町を行き交う、乙女たち聖戦の日である。

 しかし、2月14日を聖戦の日とするのはなにも乙女たちだけではなかった。

「今年もあの日が近づいてきた」

 薄暗く、ほのかに香ばしい香りが漂う地下室。そこにバレンタインとは縁もゆかりもなさそうなむさ苦しい男5人が集まっていた。

「2月14日は何の日だ? バレンタインが処刑された日か? 女が男にチョコを渡す日か?」

 とうとうと語り問いかける男に対し、残りの4人が「否、断じて否である!」と声を揃えて答える。

「そう、2月14日は菓子業者の日ではない。2(に)、1(棒)、4(し)! 即ち我々の、日本古来よりある日本の伝統、煮干しの日である!」

 狭い地下室の中、男達が口々にそうだそうだと大声を出す。密室であるが故に音が反響し、頭痛を起こしかねない音量になっていたが、部屋にいる5人は誰一人として顔をしかめることなく興奮した様子で大声を張り上げていた。

 全国煮干し協会。とある地方で結成された、煮干しの素晴らしさを全国に広め、あわよくば店の売上を伸ばそうと企む乾物屋の集まり。それが彼らの正体であった。

「さて、全国煮干し協会の諸君。今年こそ我々の2月14日を忌々しき茶色い悪魔から取り戻すために知恵を借りたい。だれかいいアイディアがあるものはいるか?」

 議長らしき男の言葉に他の男達が「やはり順当に広告を出していくべき」だの「否、『バレンタイン=チョコ』というイメージを破壊すくことこそ最優先事項だ」だのと口々に話し始める。

 しかし、そんな男達の声を聞いて議長である男の顔は苦々しく歪んでいた。男達が口にしていることは、それこそ毎年のように議論され、毎年のように失敗に終わっていたからだ。

「誰か、何かもっとまともな案を持っている者はいないのか!」

 苛立った議長の声に男達は黙り込んでしまう。彼らもわかっているのだ。自分達が毎年同じ失敗をしていることを。

「議長、私に妙案があります」

 そんな中、小太りな男がニタリと笑った。

「ほう……乾七屋、何かいい案でもあるのかね?」

「はい。まずはこちらをご覧ください」

 乾七屋と呼ばれた男がもったいつけるようにポケットから『茶色い何か』を取り出して見せる。

 途端、部屋がざわめきに満ちる。誰もが乾七屋を信じられないといった顔で見た。

「乾七屋、これは何のつもりかね。場合によっては君を裏切り者として処分しなければならないが?」

 議長が乾七屋が取り出したチョコを睨み付けながら重々しく口を開く。

「まあ落ち着いて下さい。これは確かにチョコです。しかしただのチョコではありません」

「ほう……ならば何だと言うのかね」

「まずは何も言わずにこれをご賞味下さい」

 そう言うと乾七屋は余裕の笑みで取り出したチョコを勧めた。議長は不審な顔でチョコを口に含むと、「忌々しい味だ」と直ぐにチョコを吐き捨てる。

「では次にこちらのチョコをご賞味下さい」

 そう言ってさらにポケットからチョコを取り出す。今度も議長は何も言わず出されたチョコを口にし、「これもまた忌々しい味だ」と乾七屋を睨みつけた。

「それで、君はこんな忌々しい物を私に食させて何がしたかったのかね」

 余程自分の考えに自信があるのか、苛立つ議長を前にしてなお、乾七屋は余裕の笑みを崩さなかった。

「実は先程食べて頂いたチョコには粉末にした煮干しが入っているのです。先の物には25%、後の物には50%です」

「なんと、50だと! それ程入れてなお、忌々しい味しかせぬとは……なんと恐ろしい」

「しかし今回ばかりはそれが我々の有利に働きます」

「まさか貴様、茶色い悪魔に煮干しを混ぜ込んで、それで満足しようとでも言うつもりかっ!」

 1人が怒鳴ると周りの者も口々に乾七屋を罰当たりだと責め立てる。

「いえいえいえ。それこそまさかですよ。ただ……」

 未だ余裕の顔を保つ乾七屋はそこで一旦言葉を切り、ニタリと悪い顔で笑う。

「これほど味の強いチョコなれば、先程議長がそうであったように、多少煮干しが混ざっていても気付きはしないでしょう。それこそ……毎年少しずつ混ぜる量を増やしていったとしても、ね」

 その一言に再び部屋がざわめきに満ちる。ただし、今度のざわめきは悪巧みを企む者独特の興奮が入り交じっていた。

「なるほど……ふっ、ふふふ……乾七屋、お主も悪よのぅ」

「いえいえ、議長様程では」

 地下室に男達の不気味な笑い声が響く。彼らが思い浮かべる未来。それはバレンタインデーに乙女達が男にチョコレートと言う名の煮干しを渡す姿だった。

 そこにいるあなた。そう、あなたです。

 もし、あなたがバレンタインの日にチョコを貰うことがあれば気を付けなさい。もしかしたらそれは、『チョコ』ではないかも知れませんよ。

 なにせ、2月14日を聖戦の日としているのは乙女たちだけとは限らないのですから……

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 別の投稿掲示板のUR貼ってよ。 [一言] いや、秘密結社か!でも、やってる内容ダサい。 でも安心だな、チョコなんてもらうことないし。 煮干しラーメンとか海外とかそっちがんばろ。 てか、…
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