ボクユメ5
「放課後に」と、都築さんと約束はしたけれど、カノジョは学習室にはいなかった。
代わりに、帰ろうとしたオレを校門で待っていたのは、あのエイコだった。
ついてねぇー。
「田辺ぇ、あんたミナミと何かあるわけ?」
「はぁ?別にぃ。」
なんだコイツ、オレにまで嫉妬してるわけ?
オマエ、その勢でカノジョとしゃべったやつ全員に、イチャモンつけてんのか?
これだから、オンナってヤなんだよ、見苦しいってのに。
「じゃあ、なんで放課後なわけ?」
「関係ねーだろ、オマエこそカノジョと何なんだよ。」
オレのその質問に、言葉に詰まったエイコ。
視線を落として、小さくため息をつく。
やっぱ、恋してんだな、コイツも。
オレとエイコは、近くの公園へ向かって歩きだした。
ありえねーシチュエーションだったけど、エイコの乙女心に付き合うのは中学からの縁だから。
「オマエ、カノジョが好きなの?」
「ダメ?」
「ダメじゃないけど・・・」
お嬢様でお姫様なエイコが見せた、その苦しげな恋の表情がオレの気持ちとカブる。
高飛車な態度で敵無しみたいなオマエでも、そんな顔するんだな。
少しばかり親近感も覚えたけど、それだけ。
同情はしないぞ。
「他のヤツとは違うのよ、ミナミは何か違う・・・だから、つい・・・」
「ダレにも渡したくない!ってか?」
「そんな感じ。」
それって、ドツボにはまってね?恋愛初心者みたいな・・・あ!コイツもしかして・・・
自分以外の誰かを好きになったの、初めてとか?
「付き合ってんの?」
「・・・。」
エイコはうつむいて、首を横に振った。
恋の空回りってヤツか。
好きな相手に振り向いてもらえないもどかしさ、とか
いっそのこと、嫌ってくれればいいのに・・・ってヤツ。
ありがち。
「他のオンナとしゃべってんの見ただけで、チョームカつくんだよね。」
「だからって・・・」
「わかってるよ、でも、無視できないもん。」
あらら、重症。
カノジョもハッキリしてやればいいのに、こんな状態は苦しいだけでエイコが可哀想だ。
それをしないカノジョに責任がある、とオレは思った。
「私の事なんか、同じクラスの友だちとしか思ってない。」
「わかってんじゃん。」
「だけど、私の気持ちはどうすればいい?」
それをオレに訊くのかよ。
オレに訊かないで、直接カノジョに訊くべきなんじゃねーの?
そう思ったけれど、口には出さなかった。
エイコの切なさが、オレにも十分理解できるから。
「こんなに好きになったの、初めてなんだ。
田辺ぇも知ってるでしょ、私の性格の悪さ。
自分じゃ変えられないけど、ミナミなら変えてくれる気がして。」
「恋すると、人って変わるんだな・・・」
「え?」
「オマエ、ずいぶん変わったじゃん。」
エイコはポカンと口を開けて、オレを見た。
なんだよ、自分が少し変わったことに気が付いてねえのか?
しょうがねぇなぁ、意外にドン臭いのな、オマエ。
「ま、ストーカーみたいな真似は止める事だな。
カノジョも迷惑だろうし、それにオマエ自身も傷つくんじゃね?」
「ストーカーなんて・・・」
「十分、ストーカー入ってるって。ヤベエって思ったもん、お昼の時。」
「マジ?」
うなだれるエイコは、さっきまで自分自身を見失っていたんだ。
自分の中の欲求に突き動かされて、ソレに忠実に従った結果がコレ。
気持ちに馬鹿正直すぎんだよ、オマエ。
「嫌われたよね、きっと。」
「どうかな。カノジョ、迷惑そうにはしてたけど、キライだとは言ってなかったぞ。」
「ホント?」
「たぶん。本人に謝って、ちゃんと訊いてみれば?」
立ち直り早ぇー。
うらやましいくらい、オレなんか夢にまで見ちゃうのにさ。
瞳を輝かせて、さっきとはうってかわった自信に満ちた、いつものエイコ。
もう少し、凹んでてもらったほうが良かったかもしんね。
「田辺ぇ、なんかゴメンね。」
「ま、エイコもさ、少し冷静に周りみたほうがいいぞ。」
「そうする。」
公園のベンチにオレを残し、
背筋を伸ばして颯爽と歩き出したエイコは、いつものお嬢様に戻っている。
コイツはやっぱ、こうでないと。
実際、オレはエイコをそんなにキライじゃないんだ。
周りがどんなに非難めいた事を言っても、コイツは揺るがない。
自分を強く持てるのを、少なからずも羨ましく思ったりもするんだ。
ただ、コイツの場合、その度が過ぎるってのが反感を買う種なんだけどね。
「そうだ、田辺ぇ、マジでミナミとはどうなのよ!」
「なんだよ、疑ってんの?オレ、今日、初めてカノジョと話したんだぞ。」
「そ、ならイイわ。少しぐらいならイイから。でも、ミナミにちょっかい出さないでよ!」
いつになく意地悪い口調で言ったけれど、その顔はいつも以上に可愛らしく見えた。
恋のチカラって、やっぱスゲーんだな。
底知れないパワーっての?与えてくれるんだもん・・・恐ろしいくらい。
オレはノロノロと立ち上がって、1人、駅に向かった。
そして、学校帰りの学生で溢れた駅前で、オレは自分の目を疑った・・・コレも夢?