不思議な人
ーよく分からないと言われる。
自分でもよく分からないという時があるが、メンバーみたいに私生活を喋ったり、見せたりしていないからかもしれない。
ー謎の人? それもまた、いいかもしれない。
1人でふと笑うと、舞台の台本を手に取る。
今、主な仕事は舞台の仕事だった。
舞台は今までやってきていなかったせいか、今、メンバーに聞きながら、稽古や本番に臨んでいる。
「大丈夫、僕?」
確認すると、メンバーは優しく言う。
「大丈夫だよ、Gさん。俺よりも上手いかも」
「そんなことはないよ」
しかし言葉が嬉しく、信頼度がますます上がる。
彼ともう1人のメンバーについていけば大丈夫、そう信じていた。
「舞台、また観に行くよ。いつから?」
「えっとね…」
日付を確認し、教えると、Tがスマホに書き込む。
「よし。じゃあGさん、ご飯、食べに行かない? オシャレなレストランなんだけど」
「え。行きたい!! どこ? どこ?」
2人で盛り上がっていると、もう1人のメンバーSが言ってくる。
「マスコミに気をつけて。2人ともぼうっとしているタイプだから」
「そんなことはないよね、Gさん?」
「うーん、どうだろう。自分でもよく分からないからな」
「自分でわからないの? Gちゃん、大丈夫?」
本気で心配しているらしく、Gは真顔でうなずく。
「でもTが一緒だから大丈夫。ー貸し切りってことは?」
「今、ちょっと連絡してみるね」
Tがスマホを操作し、電話をかける。
すくに品の良い声が聞こえ、Tが喋り出す。
「これから食べに行こうと思うんですけど、その、目立ちたくないというか、プライベートなので、ゆっくり食べられますか?」
その質問に、Gは耳を澄ましていると、快い返事が返ってくる。
Tも嬉しそうに、「ありがとうございます。じゃあ」ど言ってスマホを切る。
「大丈夫みたいだよ、Gさん」
「うん、行こう。お腹が空いた。Sは?」
「俺はここに残る。まだやりたいことがあるし」
「そうなの? イラストはできたんだろう?」
「できたけど、まだなの。皆に見えるんだから、しっかり描かないと」
Sは人一倍、プロ意識が高く、何でもできるように思えるが、実は努力家なのだった。
自分も仕事を頑張らければと思いつつ、Tに言う。
「ちょっと洗面台に行ってもいい? 髪の毛をチェックしたいんだけど」
「いいよ、Gさん。車で行く?」
「もちろん。歩きや電車はちょっと…」
と言いつつ、もう髪をいじっている。
Sはそれを見て、ぷっと笑う。
「でた。Gちゃんの髪の毛、チェック。俺からすると、大丈夫だと思うんだけど、早く行ってくれば?」
「うん。じゃあちょっと失礼して」
ドライヤーを持っていくと、洗面台の前に立つ。
今日は晴れているからいいが、雨の日は気になってしょうがなかった。
「あ、少し直さないと。くし、くし…あった」
ドライヤーをセットし、鏡を覗きこみながら、直していく。
ガーっという音とともに、軽快に手を動かしていく。
自分の髪のことは、自分がよく知っているから、手際よく進めていく。
「これでいいかな」
鏡を色んな方向から見て、確認する。
それから服の襟を直し、TとSのところへ戻る。
「できたよ、準備。じゃあ行こうか」
「行こう、行こう!! Sは欲しいものがある?」
「うーん、飲み物かな。何か買ってきて」
「分かった。ー行こう、Gさん」
そう言うと、Tが先に立ち、Gが続く。
年齢的にはGのほうが上なのだが、Tのほうが頼り甲斐があった。
「何が美味しいレストラン?」
「それは…内緒。びっくりさせたいじゃん」
にやりとTが笑ったので、Gは安心して笑う。
彼が正義感の強い性格で、守られている感じがするので、まるで親のような、兄弟のような存在だった。
「じゃあ、俺が運転するから。Gさんは助手席に座って」
「いいの? 助手席って、その、大事な人を乗せるところでしょう?」
マナーを口にすると、Tは構わないと笑う。
「Gさんも大事なメンバーだから。頼りにしているよ」
「T…。君がいてくれて良かった」
胸にじんとくるものがあり、Gは涙ぐみそうになる。
苦しい時、辛い時、支えてくれたのがTだった。
ー彼が僕を信じてくれるから、僕も彼を信じていられる。
しっかりした顔つきになると、自分もTのために身体を張るつもりだった。
周りを素早く見、マスコミがいないのを確認してから、車に乗り込む。
「行くよ、Gさん」
「うん、行こう」
2人は楽しそうに微笑み合い、レストランへ向かったのだった。




