第03節 シースーと脚気 ~にゃの代償と寿司の夜明け~
三人はワサビ家邸宅を出て、やっと正気を取り戻した。
リュカ「ふー、ひどい目にあったな」
レアナ「なによ、あれだけ私の毛を繕っていたくせに!あー、それより、昨日食べ損なった塩むすびが食べたーい!」
マルボロ「ははは、慣れないうちはそんなものだよ。まあ、一晩匿うという最低限の約束は果たしたな!どうだ、我が家の接待は!」
マルボロは自信満々に語るが、そのドヤ顔がなんとも癪に障る。
リュカ「すっげー騙された気分だよ」
マルボロ「あれが、我がワサビ家最高の接待なのだよ。ちゃんと、家紋にも表れているだろう」
レアナ「ああ、イネと魚の家紋ね……そうだ、お寿司!」
出たよ、レアナの寿司依存症。
マルボロ「『お寿司』とやらが何かわからないが、可能な限り協力はしよう」
リュカ「いえ、これ以上ご迷惑をかけるわけには」
レアナ「そうだ、マルボロさん!『お寿司』ってのは、炊いて小さく握ったイネに、ワサビ……っと、ここでは『草』でしたっけ?それをすりおろし、その上に魚の切り身をのせる料理なんです!」
マルボロ「なんだと!それは平民が好む『シースー』にそっくりではないか!『草』を乗せるという話は聞かないが、確か鮮度を保つために使い『シースー』にするときに、全て洗い流しているんだったな」
レアナ「『お寿司』ではなくシースーね!洗い流すなんて勿体ない、あれは優秀な薬味よ!早速、『シースー』を食べてみたいのだけど」
マルボロ「しかしシースーは、ワサビ領でも庶民の食べ物だぞ?全て我が領地で完結してしまうし、本当にいいのか?」
マルボロは怪訝な顔をして確認してくる。
レアナ「健康にいいのよ!」
リュカ「心の健康の話だろ?あと、寿司ばっかり食べてると脚気になるぞ」
マルボロ「なに⁉リュカ様は、庶民の難病への対策まで知っているのか⁉」
リュカ「なあ、これこそ命律端末の出番じゃないのか、レアナさんよ」
レアナ「そうね、なんか栄養素が足りないんだったかしら」
リュカ「ビタミンB1な、こっちの世界ではビタミンって概念は無さそうだけど」
レアナは命律端末を取り出して、やり取りを始める。
レアナ「『シースー』が何かわかる?」
命律端末「ワサビ領の民間料理ですね」
レアナ「『シースー』を食べ続けると不足する栄養、それを摂取する方法は?」
命律端末「イネからは失われていますが、それでも鮮魚には豊富なので『シースー』を食べ過ぎなければ問題になりません」
レアナ「足の痺れなどの症状が出て、根治できないのだけど」
命律端末「海藻や玄米の摂取を推奨します、またミーソ汁も合わせて摂取するのも効果的でしょう。豚肉やレバーも効果的です。適度な水分摂取も忘れないでくださいね」
ここで、リュカが引っかかっていたことを伝える。
リュカ「ちょっと、俺も聞きたいことがあるんだ。庶民の生活環境は、影響してないか?」
レアナ「わかったわ、庶民の生活環境は影響してる?」
命律端末「アルコールの過剰摂取が気になります。それに、日々の過酷な生活も少しずつ見直していきましょう。規則正しい生活を意識してくださいね」
そうしてレアナは命律端末をしまった。
レアナ「と、いうわけよ」
マルボロ「流石は聖女様、ここまで命律端末を使いこなしていらっしゃるとは」
リュカ「それよりも、施策をするのがマルボロさんの仕事じゃないんですか?」
マルボロは少し考えてから、言葉にする。
マルボロ「ひとまず集めやすい海藻から着手して、ミーソ汁に関しては補助金を出す代わりに、提供を義務化しよう」
レアナ「あとは労働環境の改善も必要じゃない?」
マルボロ「そうは言うけどな。具体的に、どうすればいいのだ?庶民達は自分たちの生活に必要だから、あれだけ働いているのだろう?」
リュカ「だよなぁ、収入に関わることだから、あまり手を出せないのもわかる」
時代どころか世界が違うのだ、労働基準法みたいな制度を導入するのは無理がありすぎる。
レアナ「そうそう、酒は上限量を領内法で定めたらどうかしら」
マルボロ「確かに、マギ様の言い分からすると必要なんだよな。ただ、庶民の反発は凄まじいものになるだろう」
リュカ「なあ、マギは幸せになるための助言をするだろう?だったら、その助言がきちんと耳に届く言葉とか、そういうのを広めればいいんじゃないか?」
レアナ「そうね、寿司……じゃないわ、シースーに海藻をつけて出した所で、食べるとは限らない。まずは、シースーの店に行ってみましょう!」




