第20節 しゃぶしゃぶは良いけどね……? ~準男爵の末路~
リュカとレアナは再び馬車を走らせて、シャブシャブ準男爵領に向かった。
レアナ「シャブシャブ準男爵って、しゃぶしゃぶの領地で良いのよね?」
リュカ「そういう事を言うのはやめろ!フラグが立つぞ」
そして、シャブシャブ準男爵屋敷にて
シャブシャブ準男爵「やあ、よくきてくれたね、聖人様に聖女様のお二方!」
レアナ「よろしくお願いします」
リュカ「ところで、お困りのことはありませんか?」
シャブシャブ準男爵「いや、特に困ったことはないねぇ?たまにピンクの象が見えるくらいさ、はっはっは」
リュカ「……これって」
レアナ「なんか見事にフラグが立ったみたいね」
そして客間に通されると、ナットウ男爵が立っていた。
ナットウ男爵「やあ、お二人さん。納豆は美味しいかね?納豆は、しっかりかき混ぜてから、醤油を入れるのだよ」
リュカ「いきなり何を言ってるんだ、このおっさん」
レアナ「っていうか、納豆を食べるにも差し入れがないと、食べられないじゃない!」
目を泳がせる、ナットウ男爵。
ナットウ男爵「はっはっは、すまないすまない!毎回持ってこようとするのだが、影が道中で食べ尽くしてしまうのだよ」
レアナ「ねえ、思ったんだけど、その影ってまさかナットウ男爵自身だけでは?」
リュカ「はは、まさかねぇ」
ナットウ男爵「な!なぜ!その真実を看破した!」
リュカ「マジかよ⁉」
レアナ「いや、納豆を十日食べられないだけであれだけの禁断症状、誰でもわかるでしょ?」
狼狽しながらナットウ男爵は頭を下げる。
ナットウ男爵「じ、次回はちゃんと持ってこよう。ところで、シャブシャブ準男爵にはな、黒い噂があるのだ」
リュカ「違法薬物ですか?」
レアナ「ピンクの象とか、ちょっとヤバいわよね」
ナットウ男爵「そこまで看破しているのか、流石は聖人様と聖女様だ」
レアナ「ちょっと命律端末で聞いてみましょ」
レアナが命律端末を取り出そうとする。しかし……。
チカ「やあ、兄くん!遂にシャブシャブ準男爵の領地に到着したようだね」
レアナ「だから、なんであんたはいつも勝手に対応してるのよ!しかも場所までピンポイント!」
チカ「実はスイッチを切ってるように見せかけて、私は全てを聞いているのさ!兄くんのために!」
レアナ「また命律端末の常識を一つ、軽々と超えてきた!」
リュカも「なにこのストーカーAI⁉」と、驚いた。
チカ「で、兄くんが聞きたいのは、おそらくシャブシャブ準男爵の黒い噂についてだろう?」
リュカ「そのとおりだ、チカは何か知っているか?」
チカ「通称『魔王草』と呼ばれる植物を色々加工して、薬物を作っているらしいのだ、兄くん。通称シャブ」
レアナ「それって、思いっきり覚醒剤!ってか『麻黄』でしょう、それ⁉」
リュカは呆れながら言う。
リュカ「もう、完全にネタキャラだな、シャブシャブ準男爵」
チカ「ただ兄くん。『魔王草』の疑惑だけではマギシステムも手が出せないのだよ。せめて『魔王草』か『シャブ』の現物がなければ」
リュカ「わかった、何とかシャブシャブ準男爵に探りを入れてみようか。さて、どう切り込むか」
レアナ「最近、眠くて困ってるとかを、雑談風にしてみたらどうかしら?」
チカ「レアナ君の案がよかろう。頼むぞ、兄くん」
リュカ「ちゃんとレアナを呼ぶ時に、敬称をつけてくれて嬉しいよチカ……」
そして、夕食に呼ばれたリュカとレアナは、どこで眠気の話を持ち出せばいいのか迷いながら、しゃぶしゃぶの鍋をつつく。
シャブシャブ準男爵「しゃぶしゃぶのタレは幾つかありますからな、どれも美味だから試してみるといいでしょう」
レアナ「普通に美味しいわね?」
リュカ「そりゃ、名物だろうからな」
食事が中盤に至ったころ、シャブシャブ準男爵が話を切り出してきた。
シャブシャブ準男爵「ところで、しゃぶしゃぶよりもっと良い物があるのだが、興味はないかね?」
リュカ「(これは、取引か……?)それは、どういった物でしょうか?」
シャブシャブ準男爵「目が覚めて、気持ちが爽快になる薬さ!たまにピンクの象が見えるのが困りものだがね、はっはっは!」
レアナ「はい、アウトー!」
レアナが叫ぶと、ナットウ男爵が食堂に入ってきた。
ナットウ男爵は、いつの間に手に入れたのか、『魔王草』を片手にしていた。
ナットウ男爵「どうやら、禁忌の薬物に手を出してしまったようだなシャブシャブ準男爵……残念だよ」
シャブシャブ準男爵「ふはははは、私の後ろには、王家すらついているのだ!」
レアナ「ねえ、シャブシャブ準男爵?その薬について、命律端末に聞いてみたことはある?」
シャブシャブ準男爵「これほどの効果があるのだ!命律端末に聞くまでもあるまい!」
リュカ「その薬、身体に有害だからな?そのうちピンクの象だけじゃ止まらなくなる、日常生活もままならなくなる」
ナットウ男爵は、納豆切れ以外では飄々としていた今までの雰囲気を翻し、言い放つ。
ナットウ男爵「王家にも、密書で命律端末での確認をと伝えておいた。シャブシャブ、貴様は破滅だ!」
シャブシャブ準男爵「そ、そんなぁ……?あれだけの研究資金!聖人聖女予算まで使い込んだのに!」
ナットウ男爵「聖人聖女予算まで使い込んだ時点で、既にうちの派閥とも無関係だな」
念のために、リュカはナットウ男爵に確認を取る。
リュカ「あの、ナットウ男爵?シャブシャブ準男爵のサインは不要ですか?」
ナットウ男爵「当然だ。しかし惜しいな、しゃぶしゃぶは美味だからこそ、うちからタレを卸していたのだが、この文化が消滅するのか」
レアナ「しゃぶしゃぶ位、鍋とお湯と薄く切った肉、あとタレがあれば簡単よ?」
リュカ「薄く切った肉を普通の鍋でサッと茹でて、水で洗えば冷しゃぶになるな、しゃぶしゃぶのタレをそのまま使えるし」
そこに光明を見いだしたかのように、シャブシャブ準男爵が食い付く。
シャブシャブ準男爵「おい!今の聖人様の言葉を聞いたか!冷しゃぶと言ったぞ!あの薬はアイスとも呼ぶ!」
リュカ「ちげーよ、冷やしたしゃぶしゃぶの意味だよ!」
そうこうしているうちに、ナットウ男爵の影と覚しき、黒服の男達がなだれ込む。
レアナ「なによ、やっぱり影はナットウ男爵だけじゃなかったじゃない」
ナットウ男爵「すまない……さすがに納豆巻きの着服を、聖人様聖女様に知られるわけにはいかなかった。私の首一つで事を済ませてくれないか?」
レアナは呆れながらも受け入れた。レアナは寿司派だから、納豆に惑わされたることもないようだ。
レアナ「別にいいわよ、またナットウ男爵領に行ったら、美味しい納豆巻きを食べさせてくれれば」
ナットウ男爵「今や、納豆巻きはワサビ子爵領でも広まって大人気だ。たまには顔を出したらどうだ?」
リュカ「そうだな、スタンプラリーはまだ終わってないが、久しぶりに寿司も食いたいし」
そんな暢気な話をしているうちに、シャブシャブ準男爵はどこかに連れて行かれた。
いや、密かに消されるとかは、ないだろうな?
こうして、ひとまずラーメン伯爵領に向かう道中で、ワサビ子爵領へ向かうのであった。
ちなみに、また事件感謝の解決恩賞として、ナットウ男爵に金貨の詰まった革袋をなんと五袋も貰った。
ナットウ男爵「王家が絡んでいたからね。その分、恩賞にも上乗せされている。遠慮なく受け取りたまえ」
レアナは大はしゃぎだったが、金貨の詰まった革袋十個の重圧にリュカは胃に穴が空く思いであった。
リュカは流石に革袋十個の金貨のヤバさを何となく感じていたが、それが日本円換算十億円であることを知ったら……正気ではいられなかっただろう。




