第19節 ソバ男爵とウドン男爵の末路 ~関東関西両方から怒られる禁忌~
そして、汁と水の分量や最低限の手の加え方を聞き出して、チカをしまった。
レアナ「準備完了ね。日時告知をするけど、場所は領境あたりでいいわよね」
リュカ「双方の安全のためにも、それがいいだろう」
無事開催された通称『懇親会』。
これはもはや『渾身会』と呼んでも過言ではない。
うどんの汁をベースに利用したざる蕎麦と、蕎麦の汁をベースに利用した煮込みうどんを、ソバ男爵とウドン男爵に提示する。
リュカもレアナも、味を何度も確認して、さすがに食傷気味である。
ソバ男爵「うんうん、やはり夏にざる蕎麦は至高、煮込みうどんなど食べる価値すら感じんな」
ウドン男爵「うんうん、やはり夏に煮込みうどんは究極、ざる蕎麦など食べる価値すら感じないわ」
形式上だけは互いの領地の麺を一口だけ食べて放置する二人。
そしてソバ男爵はざる蕎麦を、ウドン男爵は煮込みうどんを食べる。
ソバ男爵「普段と少し味が違うが、これもまたざる蕎麦に結構合うな」
ウドン男爵「ソバ男爵と意見が同じなのは業腹ですが、やはり煮込みうどんですわね」
さて、爆弾投下の時間が近づいてきた。
レアナ「さて、お二方が食されました、ざる蕎麦と煮込みうどんですが、あなた方が愛する汁ではありません!」
リュカ「そう、お二方が貪るように食べた蕎麦とうどんには、否定しているはずの汁が使われている!」
この言葉に、ソバ男爵とウドン男爵は顔面蒼白になった。
ウドン男爵「いや、これはうどん麺の勝利です!」
ソバ男爵「ウドン男爵と意見が同じなのは業腹だが、これは蕎麦麺の勝利だ」
これを聞いていたレアナは、ついにブチ切れた!
レアナ「二人とも世界が狭いのよ!蕎麦対うどん?世の中にはねぇ、素麺、冷麦、パスタ、ラーメン……挙げればキリがないけど、色々な麺料理がある、それら全てに対して自国の食事しか受け入れないって、そういう姿勢を取るつもり⁉」
ソバ男爵「いや、そういう訳じゃない!美味しいものは美味しいと認める!」
ウドン男爵「ソバ男爵と意見が同じなのは業腹ですが、私も美味しいものは美味しいと認めます」
リュカ「あんまり、こういう脅し文句は言いたくないけどさ?派閥内の争いなんてしてると、そのうちカレー侯爵に切られるぞ」
レアナ「頭が堅すぎるわ。私なら速攻で切るレベルよ」
聖人と聖女に、自分たちが切り捨てられる、それは派閥内での地位を失うことである。
他派閥で入れそうなのは中立派――神殿は中立であるという自負から中立派を名乗る、実質神殿派――くらいだが、実態の通り中立派は神殿の影響力が大きい。
即ち、派閥から追放されたら、詰む。
ウドン男爵「お願いします!実は蕎麦を食べようとすると皮膚にブツブツが……」
ソバ男爵「お願いします!実はうどんを食べようとすると皮膚にブツブツが……」
リュカ「蕎麦アレルギーに、多分小麦アレルギーか?」
レアナ「ねえ、もう、こいつら結婚すればいいんじゃない?」
しかし、聖女の言葉は思いのほか大きな力を持っていた。
ソバ男爵領とウドン男爵領は『麺連邦』という同一コミュニティになり、男爵同士のいさかいで互いの食文化を楽しめなかった領民には、大歓迎された。
そしてソバ男爵には「ワサビ子爵領で取れるワサビという香辛料、ざる蕎麦に合いますよ?」
またウドン男爵には「うどんにカレーを入れると、カレーうどんという料理になりますよ?侯爵との縁は、強めたいでしょう?」
そんな飴と鞭の戦略でリュカは『聖人認定同意書』のサインをさせた。
今回はいさかいを収めただけであり、将来は未知数なので、金貨袋は辞退した。
その分、善政を敷くように強く言い含めながら。




