第17節 ソバ男爵とウドン男爵 ~語れば語るほど同じ穴の出汁違い~
ナットウ男爵には「ソバ男爵とウドン男爵はいつも争っているから、慎重に」と警告された。
レアナ「蕎麦とうどんと言ったら、関東関西対決よね?」
レアナがふとそう口にした。
リュカ「俺は蕎麦派なんだけど、レアナは?」
レアナ「うどんが好きだけど、どっちも行けるわよ」
リュカ「俺も、うどんなら焼きうどんが特に好きだな」
レアナ「ところで焼きそばってさ、そもそも焼いてないこと多くない?」
リュカ「だな、カップ焼きそばって、ただの湯戻し茶色麺だし」
レアナ「ひどい言いようだけど、否定できないわよ。っていうか、蕎麦派じゃないの?」
レアナは首を傾げて尋ねるが、リュカもアッサリしたものだった。
リュカ「蕎麦を名乗るなら蕎麦だ。そもそも『焼く』って何だろうな?炒めたら焼きなのか?炙ったら?オーブンは?」
レアナ「ああ、食哲学再び……わかんない!『焼く』って言葉に、意味なんてなかったのよ!」
リュカ「もし太陽光で焼いたら『焼きそば』になるのか?」
レアナ「それもう『日光そば』じゃない!」
リュカ「昭和のサスペンスに出てきそうだな」
日光東照宮や、それにまつわるドラマを連想するリュカとレアナであった。
レアナ『意味を失ったそばに、焼きを求めて!』
リュカ「どうしてそうなるんだよ⁉」
チカ「兄くん?厳密には、炒め調理に水分が少なければ『焼き』とされるよ」
レアナ「専門家きた!」
リュカ「なんでこいつ、食の定義に詳しいんだよ!」
そんな会話をダラダラとしていたら、まずはソバ男爵の屋敷にたどり着いた。
屋敷から、ソバ男爵が飛び出してきた。
痩せ型で細長い体躯で、線が細い印象。
髪は灰がかった黒で、サラサラとしたストレートヘアを後ろで一本結びしていて、ざる蕎麦を彷彿とさせる。
瞳は冷静な銀色、和風の羽織姿で、色は黒地に白い波紋模様で、蕎麦の流水を彷彿とさせる。
左の耳には、蕎麦の実を模した銀のイヤーカフ。
全身で「ソバ男爵参上!」と訴えている。
ソバ男爵「聖人様聖女様、ようこそお越しくださいました、夏はざる蕎麦が至高ですよね⁉」
レアナ「いきなり何よ……」
リュカ「まあ、確かにざる蕎麦は、夏に限らず美味しいけどな」
リュカは自信満々に言う。
ソバ男爵「さすが聖人様、お目が高い!夏に煮込みうどんなんて邪道!」
リュカ「いや、そこまでは言ってないけど。ってか煮込みうどん?」
レアナ「夏の煮込みうどんも風流よ?」
ソバ男爵「……どうやら聖女様は、ざる蕎麦がお嫌いなようで」
レアナの咄嗟の擁護は、逆効果だったようだ。
レアナ「そんなことは、一言も言ってないでしょ!特に夏のざる蕎麦は美味しいわよ!」
ソバ男爵「これは失敬、うどん派かと誤解しておりました」
レアナ「(それは誤解じゃないけど、それは言わない方がいいわよね)ざる蕎麦、特に夏に食べるのは最高!」
ソバ男爵「よっしゃあ!聖人様聖女様のお二方に認められた!これは蕎麦の勝利!」
勝手に勝利宣言するソバ男爵だった。
リュカ「ソバ男爵、その結論は早計です!まだウドン男爵にお会いしてないので、一方の話だけで決めるわけにはいかず」
レアナ「どちらかの話だけ聞いて、それを絶対と思うのは危険よ」
ソバ男爵「そうでしたか、真っ先に我が屋敷にお越しくださいましたので、若干興奮してしまいました」
『ワサビ子爵、カレー侯爵、ナットウ男爵の次なんだけどね……』とリュカとレアナは思った。
レアナ「公平を期するため、これからウドン男爵のところに向かいますから!」
ソバ男爵「あんな奴のところに行く必要などありません、大量のざる蕎麦を用意しております!」
リュカ「(あーあ、レアナ自爆したな)申し訳ありません、私のざる蕎麦メンタルは年中無休ですが、流石に一度に大量は」
レアナ「そうそう、幾ら最高の食事でも、一度に大量に食べてしまうと、胸焼けしてしまうかもしれないわ」
ソバ男爵「……そうですか。ざる蕎麦でおもてなししたかったのですが」
リュカ「またの機会にお願いします!」
リュカとレアナは、そそくさとソバ男爵の元を離れ、隣接するウドン男爵の屋敷に向かう。
ウドン男爵が屋敷から飛び出してきたが、驚くべきことに、ウドン男爵は女性だった。
豊満でふくよかな体躯、もちもちした印象。
髪は白っぽいクリーム色のウェーブロング、ツイン団子にしていて、うどんを彷彿とさせる。
瞳はとろみのある琥珀色、白地の着物で金とピンクの出汁文様、大きめの袖からは昆布が舞っていて、うどんを彷彿とさせる。
首元には、おだし珠のネックレス。
全身で「ウドン男爵ですわ!」を訴えている。
ウドン男爵「聖人様聖女様……おいでにならないのではないかと気が気でなりませんでした、夏は煮込みうどんで汗をかいて涼しくなる!これが正攻法ですわよね⁉」
リュカ「いきなり何だ……」
レアナ「まあ、確かに煮込みうどんは、夏に限らず美味しいわよね」
レアナは自信満々に言う。
ウドン男爵「さすが聖女様、お目が高い!夏にざる蕎麦なんて邪道よ!」
レアナ「いや、そこまで言ってないですけど」
リュカ「夏のざる蕎麦は、結構風流ですよ?」
ウドン男爵「……どうやら聖人様は、煮込みうどんがお嫌いなようで」
リュカの咄嗟の擁護は、逆効果だったようだ。
リュカ「そんなことはないです、煮込みうどんは卵を落として、特に夏にはフーフーしながら食べるのが美味しいです!」
ウドン男爵「これは失敬、蕎麦派かと誤解しておりましたわ」
リュカ「(それは誤解じゃないけど、それは言わない方がいいな)煮込みうどん、特に夏に食べるのは最高!」
ウドン男爵「よっしゃあ!聖人様聖女様のお二方に認められた!これはうどんの勝利ですわ!」
勝手に勝利宣言するウドン男爵だった。
レアナ「ウドン男爵、その結論は早計です!まだざる蕎麦と煮込みうどんの食べ比べもしてないので」
リュカ「両者の話を聞いただけで、事実確認もせずに絶対と思うのは危険ですよ」
ウドン男爵「それもそうですね。ソバ男爵の次だったので、もう見捨てられたのかと。ですが!二位の何が駄目なのですか⁉」
『ワサビ子爵、カレー侯爵、ナットウ男爵、ソバ男爵の次なんだけどね……』とリュカとレアナは思った。
リュカ「わかりました、食べ比べのために、まずはソバ男爵のところに向かいますから!」
ウドン男爵「あんな奴のところに行く必要などありませんわ、大量の煮込みうどんを用意しております!」
レアナ「(あーあ、リュカってば自爆したわね)申し訳ありません、私の煮込みうどんメンタルは年中無休ですが、流石に一度に大量は」
リュカ「そうそう、幾ら最高の食事でも、一度に大量に食べてしまうと、胸焼けしてしまうかもしれないので。それは、もったいないでしょう」
ウドン男爵「……そうですか。煮込みうどんでおもてなししたかったのですが」
レアナ「またの機会にお願いします!」
リュカとレアナは、そそくさとウドン男爵の元を離れ、まずは馬車に戻る。
レアナ「そういえば、夏のざる蕎麦って、確か昔『冷気を呼ぶ神の食』って呼ばれてたらしいわね」
リュカ「対して煮込みうどんは『心頭滅却すれば火もまた涼し』っていう修行僧の逸話が」
唐突に妄想話を始めるリュカとレアナ。
レアナ「だけどさ、男爵たちのこと、どう思う?自分で盛り上がって勝手に落ち込んで、勝手に喜んでない?」
リュカ「ヤバいな、マジで」
リュカはため息を吐いていたが、レアナの言葉はリュカの予想を裏切った。
レアナ「そうよね、もう対話の余地がなさそうで」
リュカ「あ、そういう意味?確かに、あれは同族嫌悪だからな」
レアナ「まあ、同族って言えばそうでしょうけど」
リュカ「気づかなかったか?ソバ男爵とウドン男爵の言ってる事、ざる蕎麦か煮込みうどんかの違い以外、ほとんど変わらなかったぞ……どちらも自分の好みを正義にしたがっているだけだ」
得意げに話すリュカは、リュカとレアナもまた、ほとんど同じ反応をしていたことに気づいていないのであった。
レアナだけはそれに気づいて、少し照れて頬を赤くしているのであった。
なお、リュカが気づかなかった理由は、うどんにも蕎麦にも淡く青白い光を見ていたからであった……被ばく恐怖症のため、レアナほど余裕がなかった、その差である。
レアナ「……ふふっ、まったくもう、鈍感なんだから!」
リュカ「ん?なんか言ったか?」
レアナ「べっつに〜?ただの被ばく被害妄想者に、何を言っても無駄ってだけよ♪」
リュカ「やめて⁉なんかナチュラルに病名みたいに言ったよね今⁉」




