表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/73

第07節 ワサビ領からの旅立ち ~聖人認定同意書~

 何日も寿司を食べ続けたら、リュカとレアナも寿司三昧に満足してしまう。

 豚汁も、流石に毎日となると、正直食べ飽きてしまう。だけど海藻ミーソ汁を頼むと、板前さんが少し寂しそうにする。

 次の日に豚汁を頼むと、少し温かい味がした。

 まさか、たった一日で腕を上げるとは――恐るべし板前さん!


レアナ「そろそろ、一度ワサビ領を離れようと思うわ」

リュカ「しかし、俺には穢魂者というレッテルがあるからなぁ」

レアナ「ワサビ領では、差別的なことを言われなかったでしょ?私だって、元聖女だってバレてないし」

リュカ「そういえばそうだな、なんでだ?」


 レアナは気まずそうに言う。


レアナ「前世での感覚で考えちゃ駄目なのよ、命律端末をスマホって例えた私が悪かったけどね。通話機能も、カメラ機能も、SNSもないから、前世に比べて情報伝達は信じられないほどに遅いのよ。聖女の姿も、ほとんど伝聞でしかないわ」

リュカ「じゃあ、レアナの足を引っ張ることにはならない可能性が高い?」

レアナ「もうエッチ、私の脚にそんなに興味があるの?」

リュカ「違う、そうじゃねぇ!」


 と言いつつもリュカは、チラチラとレアナの脚を意識してしまう、悲しい十三歳であった。

 侍女達も、そんなリュカとレアナを見てほっこりしている。

 そして、旅立つということをマルボロに伝えると、寂しそうに言った。


マルボロ「そうか、行っちゃうのにゃ……情報の代金、即金で渡すと言ったのに、遅くなってしまったにゃ。申し訳ないにゃ」

レアナ「素晴らしい寿司を、心ゆくまで食べられたから、遅れても全然構わないわよ」

リュカ「っていうか、レアナの請求額、ぼったくりが過ぎないか?」

マルボロ「時間が掛かったのは、海藻入りミーソ汁と豚汁の費用対効果、ワサビの収支の計算に時間が掛かってしまったのにゃ。この辺をしっかり計算して対価を支払わないと、貴族としての信頼が落ちるにゃ」

レアナ「減額とか勘弁してよね?」

マルボロ「安心するにゃ、ミーソ汁と豚汁、ワサビそしてお寿司は大黒字の見込みにゃ、だから、ズバリこの金額にゃ!」


 革袋に包まれた金貨に、レアナは目を輝かせる。


レアナ「え⁉本当にこんなに貰っていいの?お金はあればあるだけ助かるから、ありがたく貰っておくけど!」

リュカ「ちょっとマルボロさん……その試算表、可能なら見せて貰えませんか?」


 マルボロは、少し緊張した表情で言う。


マルボロ「さすがに、それは勘弁にゃ。ワサビ領の実態は君たち相手とはいえ、そう簡単には見せられないにゃ」

リュカ「あ、その言葉だけで、大体察しました」

レアナ「え、リュカ、何?どういうこと?」

リュカ「それだけ、領地経営的に大成功ってことだよ。俺は試算表だけを求めたのに、まるで領の予算開示かのような言い回しだったろ?」

マルボロ「その通りだにゃ、今後ワサビ領は伸びるにゃ!お寿司は特に大きいのにゃ!豚汁や海藻入りミーソ汁だけでも無視できない影響力にゃ!寿司以外は全国展開も視野に入れられるから、安すぎる位だにゃ!」


 レアナは、不満げな表情で言う。


レアナ「うーん……不労所得があると嬉しいんだけどなぁ」

マルボロ「そこは抜かりないにゃ!聖女予算に積み増ししておくから、お金に困ったら取りに来るといいにゃ」

レアナ「え、だけど、私はもう聖女じゃないんだけど?」

マルボロ「私たちの派閥は、神殿のやり方に懐疑的にゃ。我々は聖女解放派閥と呼んでるにゃ!聖女様が野に下りた時の為に、うちが属する派閥は聖女予算を積み立てているにゃ!派閥リストはこれだにゃ」


 その言葉に驚いたのはリュカだった。


リュカ「え、こんなリスト渡していいんですか?レアナですよ⁉」

レアナ「ちょっと、それどういう意味よ!」

マルボロ「派閥に属する家には、聖女予算があるにゃ?旅をするならこれらの家を頼るといいにゃ」


 レアナはなんとも言えない表情をする。


レアナ「ふぅ……聖女予算とか、初耳だわ。こんなに後ろ盾になってくれる家があったなんて……」

マルボロ「ある意味で、反神殿活動だからにゃ?神殿にいる聖女様に、今まで伝えるチャンスがなかったにゃ!」

リュカ「そういえば、マルボロさんってレアナを今でも聖女呼びしていたな」


 マルボロは、自信満々に言う。


マルボロ「当然にゃ!命律端末を最も巧みに操る者こそが、本来の『聖女』にゃ?そして、少なくともワサビ領を実際に救ってくれたにゃ?あ、リュカ君にもこれを渡しておくにゃ」


 豪華に装飾された、一枚の証明書のような紙?


『聖人認定同意書――穢魂者として神殿に追放されしリュカ氏は、命律端末こそ与えられなかったが、聖人の可能性が極めて高い。それを認める功績があった時には、この同意書にサインをするように』


 そして『キャビン・ワサビ』と『マルボロ・ワサビ』のサイン?なんだこれ、要するにスタンプラリーか?


リュカ「(だけど、こんな紙切れでも……何も持たなかった俺にとっては、人生で初めて手に入れた『証明』かもしれない)」


 そしてマルボロに問う。


リュカ「この『キャビン・ワサビ』というのが、ワサビ子爵ですか?」

マルボロ「そうだにゃ、父もとても喜んでいたにゃ!」

レアナ「これだけの金貨があれば、旅のための馬車も買えるわね!」


 マルボロは慌てて、その言葉を遮る。


マルボロ「馬車なんて買う必要はないにゃ、ここに来るまで使った馬車と、同じ性能の馬車を提供するにゃ、これは父からの餞別にゃ!御者もついてくるから絶対にお得にゃ!」

リュカ「なんか、本当に至れり尽くせりだなぁ」

レアナ「旅が凄く快適になりそうね!次はどこに行こうかしら!」


 大して考えることもなく、マルボロは言う。


マルボロ「カレー侯爵領がお薦めだにゃ、お寿司を生み出すその舌を、満足させてくれると思うにゃ」

レアナ「カレー!まさか、それって辛い中に甘味もあったりするシチューみたいな?」

マルボロ「その通りにゃ、うちとも関わりが深いから、炊いたイネに掛けるのが主流にゃ!もちろん例外もあるにゃ!」


 レアナは目を輝かせて言う。


レアナ「もう、完全にカレーじゃない!もう、カレー侯爵のところに行くことで決定ね!」

リュカ「ちなみに、そのカレー侯爵は派閥の中で、どういう立ち位置なんですか?」

マルボロ「派閥の長にゃ!」


 これを聞いて、リュカもレアナも顔を硬直させる。


レアナ「とんでもない大物ね、接触はできるのかしら?」

マルボロ「安心するにゃ、飛脚を飛ばして派閥の全ての家に伝達済みだにゃ!」

リュカ「(つまりこの紙一枚で、派閥の町でも『俺たちを受け入れる理由』が生まれるわけか、大したもんだ……)」

レアナ「わかったわ!また寿司を食べたくなったら、必ず来るからね!」


 マルボロは、冗談交じりに言う。


マルボロ「ありがとうにゃ……寂しくなるにゃ。『ねこまんま』をまた食べたくなっても、来て欲しいにゃ」

レアナ「あの『猫加護』はもう勘弁よ!あの設定はもう解かないでよ!私が『にゃ』語尾とかキャラに合わないわ!」

リュカ「いや、結構似合ってたぞ、レアナ」

レアナ「――っ!」


 レアナの顔は瞬間沸騰器のように赤面する。

 なにをレアナは赤面してるんだ、女の子が『にゃ』とか言って、萌えない男はいない!

 少なくとも俺の知る限り、男ってそういう生き物だ!


レアナ「――ば、バカっ!あんたなんか、にゃんにゃん地獄に落ちればいいのよ!」

マルボロ「聖女様だけは『猫加護』を恒久的に与えるとかどうにゃ?」

レアナ「……お願い、お願いだからそれだけは止めてよね?」


 そして翌日、リュカとレアナは、馬車に大量に積み込まれたイネと卵を目撃する。

 馬車はカレー侯爵領に出発した。


 リュカはその夜、イネと卵の発する淡く青白い光に、またトラウマスイッチが押されるのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「小説家になろう」のアカウントでお読みでしたら、感想や評価をいただけると励みになります。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ