第06節 シースーに『ワサビ』で勝負! ~お寿司はサビ入りがいいよね~
翌日、リュカとレアナ、そしてマルボロは大量に作成したワサビを、さすがに全部持って行くのは無理だったので、適量を積んでから例の『あの』シースー店に向かった。
板前「お、嬢ちゃんかい!シースーが気に入ったのかい?」
レアナ「今日はお願いがあるの。ネタとシャリの間に、この香辛料を微量挟んでくれない?」
板前「ネタ?シャリ?イネと魚のことか?香辛料微量だって?また微妙な注文だなぁ、ところで、これは雑草の根っこかい?」
レアナ「安心して?『あの』雑草の根っこじゃないわよ?子爵家で採れた香辛料よ(にっこり)」
言い回しの妙に、少し鳥肌が立つリュカであった。
板前「わかった、ただ微量という注文では適量がよくわからんし、俺もいい加減な物は絶対に出したくない。納得できる分量を幾つか試すぞ」
レアナ「そうね、板前さんの舌に期待してるわよ!」
そこで、リュカは大切な事を思い出した。
リュカ「おい、レアナ!脚気対策について板前さんに伝えたか⁉」
レアナ「あ!そういえばまだだったわね。ねえ板前さん、シースーを食べ続けて、脚が痺れて止まらないとか、そういう症状に苦しんでるお客さん、いるでしょ?」
板前「おう、どう治せばいいのか全く分からず、働ける奴らが減ってな?本当に皆困ってるんだよ、毒なんて入れてないんだがなぁ」
板前さんも、心底困ったような表情をしている。
どうやら、ワサビ子爵領では相当深刻な問題として知られているようだ。
レアナ「命律端末に『シースーを食べて』という条件をつけないで、症状だけ聞いたんじゃないかしら」
板前「確認は取ってないが、シースーとの関連があるかもわからないし、日常食だから疑う奴らもいないだろうな」
レアナ「その対策の情報……欲しくないかしら?金額はこれ位で……」
レアナは、指を三本立てて艶めかしさを演出しようとしているが、悲しいかな十三歳では、ちょっとおませさんなだけだった。
それでも、レアナは可愛かった。
マルボロ「ちょっと待ってくれレアナさん、その情報はうちに売ってくれないか?」
板前「マルボロ様に売った方がいいぜお嬢さん、その情報が本物ならば、報奨金もたんまりだろ!」
マルボロ「さっきレアナさんが提案した金額の三倍……いや五倍!これでワサビ子爵領にその情報を売ってくれ!」
この言葉に一番驚いたのは、ただの小遣い稼ぎ感覚だったレアナである。
レアナ「そこまで大したことじゃないわよ?っていうか、マルボロさんは昨日聞いてなかった?」
マルボロ「『かっけ』とかいう話題のあれか?正直、私には理解が及ばなくてな。すまない」
マルボロは、理解できなかった事が少し恥ずかしいようだ。まあ、子爵令息様だから仕方ない。
レアナ「脚気って名前は、ひとまず忘れてくださいね。シースーを食べ続けて過酷な生活をしていると、身体から大切なものがなくなっていくの。その補給方法が、海藻、玄米、穀物、ミーソ汁、豚肉、レバーを食べることよ」
リュカ「そして酒を控えて、水分摂取を忘れず、規則正しい生活だったよな?」
マルボロ「レバーだけは何かが分からないが、少なくとも海藻、玄米、豚肉、酒を控える、水分摂取あたりはなんとかなるはずだ。それでいいのか?ミーソ汁については昨日、補助金としての支給を決定した」
リュカは、ミーソ汁支給の即日対応に舌を巻く。
リュカ「だから、命律端末で確認をとればいいですって。『シースーを食べ続けたらこういう症状が出た』とでも聞けば、同じ事を答えてくれるはずですよ」
マルボロ「シースーが原因だったとはな……」
リュカは慌てて誤解を訂正する。
リュカ「それは正確じゃないですよ、シースーばかりを食べ続けることが問題なだけで」
マルボロ「しかし、シースーは庶民の主食と言っても過言ではない。情報料は、屋敷に戻ったら即金で支払おう。まずは、この板前に伝えてもいいか?」
板前「いや、坊ちゃん……もう、しっかりと聞こえてますよ。要するに海藻入りミーソ汁と水を出して、酒を飲み過ぎないように注意するだけでも違うって話だろう?」
マルボロ「そうか、海藻入りミーソ汁!流石はワサビ領最高峰の板前だけあるな!その案も買い取ろう!」
板前「口で言うのは簡単だけど、海藻入りミーソ汁を美味くできるかは料理人次第だからな、こんなアイデアとも言えないことから金を取ったら男が廃る!ってか嬢ちゃん、この香辛料を入れたシースー、もはや別物と言っても過言ではないなぁ!美味い!」
レアナもリュカも飛びつく。当然マルボロもだ。
レアナ「待ってました!板前さんにとって香辛料が一番美味しい分量で一人前!」
マルボロ「いやいや二人前だ、私も食べたいからな」
リュカ「いや、三人前だ!俺も食べる!」
リュカは淡く青白い光に怯えながらも、欲望に忠実であった。
内心で「我が生涯に一片の悔いなし!」と叫んでいた。
リュカ「そうだ、豚肉ベースのミーソ汁風料理も作れないかな、板前さん!」
レアナ「豚汁ね⁉」
板前「ほう、面白そうな料理だな?ただ、具材がわからんと、どうしようもないんだが」
レアナは命律端末を取り出して告げる。
レアナ「命律端末、応えて」
命律端末「はい、なんでしょうか」
レアナ「豚汁の主要な食材は何?」
命律端末「豚肉は言うまでもなく、ジャガイモまたはサツマイモ、人参、玉葱、ごぼう、きのこ類、こんにゃく、ネギ、豆腐あたりが主要な食材です。好みによって大根、白菜なども……」
板前さんは目を輝かせて、耳を傾けている。
レアナ「板前さん!これでどう⁉」
板前「ほう、これも聞く限り、あの難病に効果がありそうだな?しばらく研究が必要そうだが、命律端末で『とんじる』について聞けばいいんだな?」
レアナ「それで大丈夫よ!よろしくね!」
マルボロ「……その『とんじる』もまた、新たな領の味となるんじゃないか?」
そうして『もはやこれはシースーではない』という評判が広がった。
店の看板も『シースー屋』から『寿司処』へと書き換えられた頃……。
「サビ入りのシースーこそ本物」
「否、シースーではない、寿司だ!」
「サビの正式名称はワサビだそうだぞ」
という風潮が広がり始めた。
こうして無事『寿司』という名前が正式に定着した。
海藻ミーソ汁も、豚汁も、大きな評判となったとさ。




