第01節 リュカ、異世界転生しました ~猫姉タマと女装兄と淡く青白い光~
俺はリュカ、フルネームはリュカ・ヴァルミエでヴァルミエ伯爵家次男だ。
そして、俺には誰にも言えない秘密がある。
日本という世界から異世界転生した……なんて、正気を疑われても仕方がない内容だ。
幸いだったのは、記憶を取り戻したのが五歳の誕生日、最低限の言語を習得していた時期だったことだ。
読み書きは少し辛いけど、若い脳のおかげか知識の吸収が早いので……一応問題ない学習速度を保っている。
俺の死因?いや、これはマジで覚えてないんだよな。
ほら、よく聞くじゃん?
『あまりに深いトラウマは、防衛機能によって脳から削除される』
だから、きっと一生思い出さないだろうし、思い出さなくてもいい話なんだ。
で、十三歳になると、成人の儀式があり……神とされる『マギ』と深く繋がるらしい。
ただし、その『マギ』と繋がれるかどうか……それは魂の価値を測られる儀式らしい。
この国――というか、この世界には、モンスターや魔獣といった人を害する異世界ならではの生物は存在しない。
残念ながら、魔法という存在については、よく分からない。どうやら存在しないようだ。
騎士団は基本的に暴力装置――具体的に言うと国内向けには犯罪者対策、国外向けには戦争要員といった形だ。
ただし、騎士団は熊などの大型生物、あるいは危険生物の討伐も請け負う。
日本で言うなら、警察と自衛隊が合体したような存在が騎士団、と考えれば大体合っている。
しかし『マギ』のおかげで、騎士団は基本的に暇らしい。
まあ、自分は騎士になんて……なりたくないけどな。
一足先に成人の儀式を終えた姉は、いつものように――俺から見ると、どんぶりなのだが――なみなみとミルクを入れて、ひたすら飲んでいる。
リュカ「なんで姉さんは、コップでミルクを飲まないんだ?」
一度そう聞いたら、きょとんとした顔をして、首を傾げた。
俺は、密かに姉のことを、猫の転生ではないかと疑っている。
うん……肉親っていう欲目を差し引いても、黒髪ロングの美少女とか、俺のストライクど真ん中のはずなのにな?
どうしても、姉がミルクを飲んでいる姿を見ると、黒猫を連想してしまうのだ。
しかも、姉は基本的に信頼できる家族の前でしかミルクを飲まない。
これって、完全に猫の生態じゃないか!
俺は姉のことを脳内で『タマ』と呼んでいる……これは墓まで持っていく予定だ。
長男――すなわち嫡男の兄が女装したときは驚いた、マジで兄だと分からないほどの美貌で、煌びやかなドレスを着込んでいて。
だけど、姉が平然とミルクを飲んでいたので「あ、兄だ」と謎の圧倒的説得力を持っていたのだ……父も同じ思いだったようで、女装の件自体が有耶無耶となった。
いや、マジで誰かと思ったよ――ここだけは猫姉タマの冷静さに救われた!
姉は猫で、兄は女装美少年、それを当たり前と思ってるこの家は全員おかしい。
なお、俺は女装が似合わない程度には男前だぜ、キリッ。五歳だけどな!
隣でまた姉がミルクを飲んでいた。
そうだよな、姉はそういう奴だ!
いや、気のせいかもしれないけど、姉のミルクって、ちょっと光ってないか……?
淡く青白い光って、これ何だよ。
まさか放射性物質とかじゃないよな?俺、まだ死にたくないぞ?
リュカ「なあ、姉さん」
姉「にゃ?」
一瞬硬直するが、すぐさまツッコミを入れる!
リュカ「にゃ⁉今、絶対に『にゃ』って言ったよな⁉」
猫姉タマ「……いつものミルクを、飲んでただけよ?」
リュカ「いやその『いつものミルク』って、めっちゃ光ってるけど⁉青白く発光してるんだけど⁉」
猫姉タマ「あら、今日はちょっと濃いめにしたのよね」
なんの濃度だと、冷や汗をかきながら突っ込んだ。
リュカ「濃度じゃない!ミルクが物理的に光ってるの、おかしいだろ!内部被ばくとか大丈夫なのかよ⁉」
猫姉タマ「内部ひば……?何それ?ところで、器は鉛の加工業者からもらった、特注品なのよ!いいでしょ~!」
リュカ「よりによって、鉛の器で飲んでんのかよ!!」
精神衛生上、この青白い光については忘れることにした。
きっと、これは『マギ』の祝福だ!
ちなみに、異世界転生者あるあるだけど、トイレについてはあまりいい想像をできなかった。
しかし、くみ取り式のぼっとん便所で、案外清潔感は保たれていた。
異世界転生で地味にキツいのが、衛生観念の差だと思っていた。
そういう意味では助かった。
昔読んだ小説のように、自力でぼっとん便所の開発とかは、勘弁だ。




