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第九話:王太子のヤンデレ宣言と四人の対抗心

 王太子エドガーがヴァリエール侯爵家を私的に訪問した夜、ロゼリアの『平穏への努力』は脆くも崩れ去った。


 王都の醜聞を流した張本人であるにもかかわらず、侯爵家の応接室でエドガーと二人きりになったロゼリアは、極度の緊張で心臓が喉元に張り付くのを感じた。


「殿下、本日はどのようなご用件で。このような私的な訪問は、貴賤を問わず、誤解を招きかねません」


 ロゼリアは冷静を装い、婚約者としてではなく、公務上の注意としてエドガーを牽制した。彼女の狙いは、彼に「やはりロゼリアは王太子妃としてふさわしくない」と思わせることだ。


 エドガーは椅子に座ったまま、その冷徹なアメジストの瞳を、深く、深く見つめた。その眼差しは、婚約者への愛情ではなく、獲物を追い詰めた独占欲に満ちていた。


「誤解? ロゼリア。私の訪問が誤解を招くのなら、貴女が裏社会の情報屋と接触した事実は、何と呼ばれるべきか?」


 ロゼリアの顔から血の気が引いた。シリルとの取引が、既にエドガーに知られている――しかも、その接触を「誤解」という軽々しい言葉で片付けようとしている。


「私はただ、侯爵家の問題を解決するために……」


「嘘だ」エドガーは即座に遮った。彼の声は静かだが、その裏には抑えきれない激情が渦巻いていた。


「貴女は、自ら侯爵家を貶め、私との婚約を解消しようと画策している。まるで、『王室の庇護を失いたい』と願っているかのように」


 ロゼリアは震える口元を隠すために、紅茶のカップを握りしめた。彼の誤解は、ロゼリアの真の目的にあまりにも近いがゆえに、恐ろしい。


 エドガーはゆっくりとロゼリアのそばに歩み寄り、顔を近づけた。彼のロイヤルブルーの瞳が、暗い光を帯びてロゼリアを射抜く。


「聞け、ロゼリア。貴女の知性と、その秘密を隠そうとする狂気的なまでの努力は、私以外の誰にも理解できない」


 彼はロゼリアのプラチナブロンドの髪を一房手に取り、執拗に見つめた。


「貴女の望む『平穏』とは、誰にも干渉されない場所で、貴女の秘密の企てを実行することだろう。だが、それは許さない」


 エドガーは、ロゼリアの耳元で囁いた。その声は、甘さの裏に鉄の意志を含んでいた。


「貴女の平穏は、私の独占の中にある。貴女がどこへ逃げようとも、私が世界で唯一の『貴女の秘密の管理者』となる。二度と、私から離れようと画策するな。でなければ、貴女のその完璧な世界を、私自身が破壊することになる」


 ロゼリアは、そのヤンデレ的な宣言に全身の毛が逆立つほどの恐怖を覚えた。彼の愛は、もはや管理と支配だ。平穏を求めたロゼリアの行動が、彼を最も恐ろしい存在に変えてしまった。



 エドガーが侯爵家を去る直前、玄関先には、偶然を装って四人の男たちが待ち構えていた。


 護衛騎士ライナスは、エドガーの護衛として侯爵家を訪れていたが、彼の関心は王太子ではなく、その表情にある。


 魔法使いユリウスは、「緊急の魔力に関する質問」という名目で、ロゼリアに接触しようとしていた。


 情報屋シリルは、裏の取引の続きを装い、ロゼリアの情報を引き出そうと、侯爵家の門前で待機していた。


 そして、使用人ノアは、誰にも言いつけられていないにもかかわらず、玄関で主人を待つという、不自然な献身を見せていた。


 エドガーは、四人の男たちがロゼリアの周囲に集まっているのを一瞥した。彼らの瞳に宿るロゼリアへの強い関心と警戒心を、エドガーは見逃さなかった。


 エドガーはライナスに対し、彼らがいる前で、冷徹に言い放った。


「ライナス。私の婚約者は、今後、私以外の男と私的な接触を持つことを禁ずる。特に、貴様たちのように、怪しい動機を持つ者たちからは、徹底的に引き離せ」


 その言葉は、彼ら四人に対する公然の宣戦布告だった。


 ユリウス、シリル、ライナスは、王太子からの牽制に対し、屈辱ではなく、強い対抗心を燃え上がらせた。


 ライナス: 「殿下は、ロゼリア様を王室の所有物としてしか見ていない。私が、彼女を心の孤独から解放する」


 ユリウス: 「ロゼリア嬢の真の才能は、王室の籠の中では腐る。私は、彼女の学術的な自由と真実を守る」


 シリル: 「王太子殿下すら、彼女の秘密を掴めていない。この男に支配される前に、私が彼女の最も深い真実を暴いてやる」


 ロゼリアの平穏への努力は、エドガーのヤンデレ化と、他の男たちの強烈な対抗心という、最悪の形で裏目に出てしまったのだった。

ここまで読んで頂きありがとうございます!

エドガー王子のねっとりヤンデレが加速していきます。

ロゼリアの平穏はどうなるでしょうか?

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